第15話 女神様から貰った、チート三点セットは素晴らしい!

 倒れた女の子の傷口を確認した後、皆のところに急いで報告に向かう。


「まずいです! 矢毒ガエルの毒です! 即死毒ではないですが、急を要します! 上級解毒剤か上級解毒魔法を掛けないと、後1時間もしないうちに死に至ります!」


 上級回復魔法を使える者は、真っ先に矢と魔法の集中砲火で殺されたそうだ。



 上級解毒剤は、騎士隊長が1本、女騎士が1本所持していた。

 という訳なのだが……毒を受けている者は4人。だが騎士たちは上級解毒薬を2本しか持っていなかった。


 2本も足らない……。


「兄様は常備していないのですか?」

「上級解毒剤は2本持っていたが、実はさっき1本使ってしまった。毒を受けたと感じたので、戦闘中だったから毒の程度を確認しないで上級解毒剤をすぐに使った。なので、現在上級のモノは1本しか持っていない……」


「賢明な判断です。上級の物を2本常備しているあたり流石です兄様!」


 兄様はそれを隊長に手渡す。


「隊長さん、どうするのですか? 1本足らないようですが――」


「……急ぎ部下の3人に飲ませてあげてください……。私は中級解毒剤を飲んでおきます……」


 覚悟した面持ちで隊長はそう言った。自分は死ぬ覚悟で部下を守ろうとした発言だ。



「「隊長!」」


 部下たちは涙目で隊長に感謝を伝えている。



「「おお! 隊長かっこいい!」」 パチパチパチ!


 俺は兄様と同時に拍手喝采を送っていた。うわっ……息ぴったり。こんなところでもルーク君の記憶の影響が!

 隊長さんは中級解毒剤を飲んで援軍待ちする気だろうが、おそらくそれでは助からないだろう。死ななかったとしても、なんらかの後遺症が残るかもしれない。




 最初から先に倒れた彼女を助けるのは確定と考えていたのには訳がある。


「あっ! そういえば、僕、持っていたかも……あったあった。じゃあ、これ隊長さん飲んでください」

「ルーク! お前、隊長を試したな!」


 はい、実は上級解毒剤……沢山持っていました。

 何故すぐにその場で彼女に使ってあげなかったのか……。兄様がちゃんと所持しているか気になったし、この国の精鋭騎士の練度が伺えると思ったんだよね。


 兄様、そんなに睨まなくてもいいでしょう。結局は隊長の株が上がったんだしさ。


「僕が思うに、こういう暗殺とかの可能性のある王家の人間は、自分でしっかり自衛のために各種回復剤は所持していないといけないと思うんだよね……。まして姫様自身が所持していないとか、実に平和な国なんでしょうね」


「ルーク! 余計なことを言うな!」


「いえ、ルーク様のおっしゃることはごもっともです。お恥ずかしい限りです。今回のことを教訓に、今後は人数分持参するようにいたします」


「姫様、素直なのは良いことだね。騎士の方たちもそうですよ。隊長格の者しか所持していないとか、想定が甘すぎます。確かに消費期限があるので、高額な上級剤は隊で1個とかになりがちですが、状況に応じて国に経費として出してもらうぐらいしないと、何かあってからでは今回のように間に合わないのです。この隊の価値は解毒剤以下なのですか? 通常勤務の巡回や警邏中に上級剤を持っておく必要はないですが、姫などのような王族や上位貴族の護衛任務とかの場合は、暗殺の可能性も考慮して念のために余分に持っておくべきです」


「そうですね。御二方が持っていなければ2名の精鋭騎士が亡くなるところでした」



「騎竜で運べるので、どのみち僕たちが所持していなかったとしても助かったとは思いますけどね。それと、皆の手持ちが今現在全くないのは危険ですので、僕のストックから少し差し上げます」


 姫様、近衛騎士長、騎士隊長に上級解毒剤を1本ずつ、兄様には各種回復剤を大量に持たせてあげた。

 姫には上級回復剤も念のため2本持たせておく。何かあったとき、自分で飲めるように持っておくのが一番良いのだ。


「ルーク様は各種上級剤をいつもこれだけの本数所持しているのですか?」

「いえ……今回はたまたまです」


「嘘ですね……どうしてわたくしに嘘を……悲しいです」


 何故だか姫は嘘だと断言してきた。適当にはぐらかしたつもりだったのだけど、何故分かったのだろう?


「姫様、ごめん。本当のことは言いたくないので黙秘します」

「はい。嘘ではなく最初からそう言ってくだされば無理に聞こうとは致しません」


 各種上級回復剤を俺が作製できると知った者に、誘拐とかされたらたまったものじゃない。回復剤はどこの国でも品薄気味で高額で取引されている。下手なことは言いたくない。ルーク君は師匠の指示で父親にすらこのことは教えていないほど慎重だった。王宮内で知っているのは兄姉と1名の庭師だけだ。他国でそう簡単に言って良いものではないだろう。


 最悪公爵家で監禁される可能性もある。朝から晩まで『国の為』と回復剤を作ることを強要されるのだ。


 想像しただけで鬱になりそうだ。



 *  *  *



 上級解毒剤を飲んで騎士たちの命は救われたが、俺の危機センサーが未だにビンビン反応している。


 何か見落としているのか?


『♪ マスター、【周辺探索】のスキルを使ってみてください』


 妖精さんに言われたとおり、魔法を発動してみる。

 自分を中心にした詳細MAPが網膜上に半透明で現れた。


『おお! なんか立体的な3Dで凄いな! この赤とか青の光点は何だ?』

『♪ どうやら色で対象を表しているようです。熟練レベルを上げればもっと広範囲に表示できるようになるみたいですね。現在【周辺探索】魔法の熟練度はレベル1で、1キロが探索範囲のようです』


 白:人族(一般通常)

 青:パーティーメンバー

 緑:フレンド登録されている人が近くに居た場合

 黄色:敵意を持っている者

 赤:殺気を向けてきている者

 紫:魔獣

 金色:宝

 ☠:罠

 ★:マーキングを入れた者

 *:マーキングを入れた場所


『これマジ凄いぞ! 赤や黄色が集まっている場所以外に、1カ所赤表示があるな。林に誰かまだ居るのか?』

『♪ そのようですね』


『これ、今でも凄いけど、【詳細鑑定】と一緒に連動できたらもっと凄いのにな……』

『♪ エッ!? マスター! マスターのイメージで併用可能になりました。林の赤表示をクリックしてみてください』


『マジか!? どれどれ……クリックってどうするんだ?』

『♪ 思考でクリックできます。詳細に見たい光点に視点を合わせ、詳しく表示するイメージをしていただければ、ゲームなどでカーソルをマウスでクリックしたときのようなことができます』


 林に潜んでいる赤点に視点を合わせ意識してクリックしてみる。


『アサシン! 他にもヤバいのが居たのか。俺の第六感の危機センサーもまんざらじゃないな』

『♪ アッ! 姫を毒矢の弓で狙っています!』


 【インベントリ】から即座に盾を出して王女と林に潜む暗殺者の射線上に割り込んだ!

 カン! という盾で矢を弾いた甲高い金属音が響き渡る。


「姫を馬車の中に! まだ敵がいるみたいです!」


 チート3点セット素晴らしい!


 女騎士たちが姫を取り囲み、騎士たちは林に向かった。だが、すぐにアサシンは馬に乗って街道に出てきて逃走した。


「チッ! 今からじゃ、追っても追い付けない!」


 騎士隊長が口惜しげに吠えた。

 騎士たちの馬は少し離れた場所に固まっていた。馬の下に辿り着くまでにかなり離されるだろう。それから追ったとしても、騎士の重い金属装備より、アサシンの軽い革装備の者を乗せた馬の方が速い。

 俺は弓を出して連射で3本射る。既に150mほど距離があるが、矢は山なりになって1本目はアサシンの足に、2本目は背中に、3本目は馬の後ろ足付近の尻に当たる。全射命中だ! 馬は尻を射られて飛び跳ね、騎乗者を振り落す。


「「「凄い! この距離で命中させるとは!」」」



「バルス! あいつ捕まえてきて! 殺しちゃダメだよ! 奴は毒を使うから、ちょっとなら毒を使えないように先に痛めつけていいからね」


「クルル~!」


 バルスは軽く助走をつけたあと飛び上がり、そのままアサシンの元まで滑空し、がっしり爪で体を鷲掴みにした。両腕はひしゃげて、持っていた短剣も落としてしまっている。


 バルス……ちょっとやり過ぎだ。あれでは肋骨も何本か逝ったかもしれないな。


 お使いを果たして帰ってきたバルスは、嬉しそうに俺の目の前にアサシンを投げつけた。今度は右足が衝撃で折れた。


 ちょっとは痛めつけていいといったけど……やり過ぎだね。

 でもここでそれを言ってはいけない。バルスは褒めてほしそうに尻尾を振っている。


「バルスありがとう! お願いどおり殺さず連れてきてくれたね! 偉いぞ~、ほらご褒美だ!」


 【インベントリ】から毛皮を剥いてあるホーンラビットを1匹出してやる。頭に1本長い角のある、体高1mほどの大きな兎の魔獣だ。


「遠慮しないで食べていいんだぞ」

「クルル~~♪」



 やっぱドレイクは可愛いな……凄く頭が良く、懐くと愛らしい。

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