第13話 盗賊相手とはいえ人を殺してしまいました

 魔枷をやっと外してもらったのだが……何じゃこりゃ~!!


『♪(チロリ~ン) マスター! まだ戦闘は危険です! お止め下さい!』


 枷を外してもらって間もなく、『チロリ~ン』と鳴って例の可愛い声が頭の中に響いた。


「兄様、少しだけお待ちください。すぐに装備を整えます」

「ああ、今のうちに預かっている物も全部渡しておく」


 持参金などのお金や、俺の着替えなどの所持品が入っている木箱なども受け取った。


『♪ マスター、【念話】で私と会話できます』


 話始める時に何やら『チロリ~ン』と鈴の音が鳴るのがちょっとウザい。この仕様って、俺がやっていたMMOのアシスト妖精が喋る前に必ず鳴っていた音だ。女神様……ウザいと評判悪かった『チロリン』仕様まで忠実に再現しなくて良かったのに。


『飛行機の中で女神様と会話したときのようなこんな感じで良いのかな? 【念話】できてる?』


『♪ ハイ。申し訳ありません。【魔封じの枷】で、ずっと会話できない状態でした』

『そんなことより! 種族レベル1って何だよ! 俺の記憶ではルーク君はレベル18じゃなかったのかよ?』


『♪ 転生扱いになり、一度生まれたての状態になったみたいです。その後、鏡を見た時にルークの記憶と経験などの熟練度が再構成されたようですね』


『道理でビンタされただけで死にそうになるはずだ。お前のことも詳しく知りたいが後だ!』


 この状況で救いなのは【亜空間倉庫】内の物がちゃんと残っていたことだ。いや、正確には残っていたというのは違うか……。正しく言い換えると、【亜空間倉庫】の中は空だった。【亜空間倉庫】の中に有った物は、新たに手に入れた【インベントリ】の中に移されていた。女神様が言っていたチート3点セットの1つ、倉庫チートだね。


 ルーク君の熟練度は引き継がれるようだが、戦闘に関してはどれもパッとしない。

 薬学・錬金術・錬成術はちょっとおかしいくらい極めているようだが、剣術などの武術はからっきしだ。


 父様がくれた剣を帯剣し、胸にプレートアーマーを装着する。背に矢筒をしょって弓を装備したら、戦闘ができる格好にはなった。


「兄様、僕が作った回復剤をお持ちください。【亜空間倉庫】に沢山所持していますので、降り立った時に負傷している騎士に使ってもらっても結構です」


「有難い。お前は今回弓を使うのか?」


「はい、婿入りする大事な身なので、前線に出て死ぬわけにはいきません。兄様はどうなされますか?」


「俺は魔法使いに上空から切り込もうと思う。上手くいけば戦局を変えられる筈だ」

「良い作戦です。では兄様の騎竜をお借りしていいですか? 僕は上空から兄様たちを弓と回復でサポートします」


「お前の主属性を考えれば、それが一番良いだろう。無理せず遠距離からサポートに徹するんだぞ?」

「はい。兄様もお気をつけて。【フロート】をお掛けしますので、そのままタイミングを合わせて飛び降りてください」


「了解だ。お前にパーティー申請を出すので、了承しろ」

「パーティーに参加しました。バルス、少し僕を乗せてね?」


 バルスは兄様が育てた騎竜の名前だ。気性は少し荒いが、兄様や俺にはとても素直なオスのドレイクだ。


「グルル~!」

「良い子だね」




 襲われている者に加勢するために、兄様と2人で突撃した。



 パーティー申請した後、騎竜の操縦を兄様と交代している。本来騎竜は従魔契約した主人以外の命令しかあまり聞かないのだが、俺はこの子を生まれた時から可愛がっているので、よく懐いてくれているのだ。


 俺は盗賊たちの後衛組が集まっている場所にバルスを急降下させた。

 盗賊の上空から強襲をかけた形になる。そして、弓使いに向かってバルスに命令を入れる。


「バルス、【エアロラカッターストーム】だ!」


 バルスは弓兵に風系中級魔法のカマイタチを広範囲に放った!

 カマイタチを受けた弓使いたちは数名が即死し、残った者も瀕死状態で弓弦が切られて使えなくなった弓を片手に呆然と立ち尽くしている。何人かはそのまま出血死ですぐにこと切れるだろう……俺の命令で人が死んだ。



「竜だ! ドレイクだ!」

「何でこんなところにドレイクが!?」


 突然上空から襲ってきた竜の魔法に場は騒然となる。


 真下からでは竜の背に乗っている俺たちが見えていないようだ。

 兄様は竜から飛び降り、魔法使いに切りかかった。


 凄い! 上空からの不意打ちとはいえ、あっという間に魔法使い2人を切り殺した。

 初めての殺人なのに一切の躊躇がない!


 俺も杖を持った奴に矢を撃ち込む。


 ウッ……狙い通り頭部に刺さった……即死だろう。人を自らの手で殺してしまった。


 ここで気負いして躊躇うと自分が死ぬ羽目になる。

 どんどん矢を放って盗賊を殺していく。


 俺が弓を選んだ理由なのだが、種族レベルが1になっていたため、現在生活魔法しか使えないのだ。ルーク君は初級魔法と中級魔法をいくつか習得していたが、種族レベル1では発動できない。種族レベル10前後ないと初級魔法は発動できないのが一般的のようだ。中級魔法はレベル20前後が必要レベルとされている。


 生活魔法の中に攻撃魔法はない。必然的に、現在所持している剣か弓を使うしかないだろう。

 

 だが、ルーク君は剣術の熟練レベルは元からかなり低い。だって練習なんかしてないんだもん!

 訓練・勉強とか努力や苦労することは一切したくないのだ。だから太っているし、腹筋が1回もできないのだ!


 じゃあ、どうして弓が扱えるのか? 俺が弓道二段だからだ。

 高校では弓道部に入っていた。二段だが、段位と腕前はあまり関係ない。同じ二段の人でも上手い人は上手いし、下手な人は下手だ。部活の3年間では二段までしか昇段試験を受けられなかったのだけど、俺の腕前は結構良い方だと思う。


 和弓の命中率はあまり良くない。でもこの弓は狙ったところに数ミリの誤差で当たりまくっている。精度でいえば洋弓のアーチェリーやボウガン以上だ。威力もハンパないが、弦を引く力もかなりいる。この命中率は異常だから、何らかの異世界仕様の補正があるのだと思う。後でAI妖精さんに聞いてみよう。


『♪ マスター、種族レベルが先ほど10に上がったので、初級魔法が全て解放されました』

『エッ!? もうレベル10?』


 スライムやゴブリン等の下級魔獣より、盗賊退治の方が経験値は良いみたいだ。


 まぁ、レベルが低いうちは、次のレベルに上がるために必要な経験値が少なくていいのはお約束だね。


 手持ちスキルを確認しつつ、どう立ち回るのが最適か、上空から盗賊たちと騎士たちの動向を眺めながら思案するのだった。

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