第9話 どうやら俺の習得していた技能は使えるようです
翌朝、昨日筋トレをやり過ぎたようで、全身が筋肉痛だ。
元からむち打ちに似た症状もあったのでかなり酷いことになっている。
「う~~~っ……アタタッ……」
結局、昨晩父様は俺を訪ねてこなかった。
学校の処遇や婚約解消のことが気になったが、誰も知らないといって相手をしてくれないので確認のしようがない。
昨日のルルティエの悲しそうな顔を思いだすと胸が切なくなる。
正直に言えば、感情が記憶に引っ張られるのはちょっと勘弁してほしい。
凄く可愛い娘だったが、俺にとっては昨日が初対面なのだ。
ルーク君の幼馴染で、幼少時よりずっと好きな相手だからといっても、俺が好きな訳ではない。いきなり婚約者と言われても対応に困るというものだ。
こんなことなら最初からルーク君の記憶など要らない。記憶喪失ということにして、性格が変わってしまったというふうにした方がやり易かった。
女神様が王子に転生させた理由はなんとなく分かるんだけどね。10年という縛りがあるのだから、行動制限とか資金面で平民だと心もとない。
力をつけるまでには色々準備がいるのだ。
王家が後ろ盾だと多少の無理はできる。制限のあるダンジョンとかにも許可がもらえるし、商都とかの場合、一般人だと入門チェックに並ぶと半日とかかかる場所もあるのだ。そういうのも王家の威光が効くだろう。
農民の子だと家の手伝い優先で、戦闘訓練なんかやってる暇すらないからね。
* * *
今日も相変わらず自室謹慎中で扉の前の衛兵としか会話できない。その会話もトイレに行く数分のみだ。
あれから母親や妹も部屋にはきていない。母親はともかく、妹のチルルには会いたいのにな~。
やることがないから、今日も朝から筋トレダイエットだ! 筋肉痛だからと言ってここで止めては意味がない。俺はルーク君と違って、一度決めたことは意地でもやり遂げるのが信条だ。痛む体を「フンッフンッ」言いながら酷使する。筋力アップで脂肪燃焼効率を良くするのだ!
連続での回数は今は少ないが、毎日やっていれば徐々に増えるだろう。
それにしても居心地が悪い。食事を持ってきてくれた侍女なんか、話しかけても無視しやがる。
ルーク君が何度かお風呂を覗いたことを根に持っているのだろうけど……俺がやったことじゃないので納得がいかない。彼女の気持ちも分かるだけに釈然としない。どうしても『俺がやったんじゃないのに!』ってのが心の奥底にあって腹立たしいのだ。
この苛立ちの文句を言えるとしたら、俺を『豚王子』に転生した女神様だけだな―――
あれ? そういえば女神様の名前聞いてなかったな。この世界の主神とか言ってたっけ?
流石にバカなルーク君でも主神の名ぐらいは知っていた。
水の女神ネレイス様がこの世界の主神の名だ。
* * *
フンスカしていたら、ある気になることが芽生えたので試すことにした。
これまで俺が日本で習得している技能が、ルーク君の体でも使えるかという疑問だ。
机の引き出しからコインを1枚取り出し、コイン回しをやってみた。……うん、指が太っていてむくんでいるが、なんとかマジック技術はできた。折り紙もできる。鉛筆はないが、棒で試すとペン回しもできた。
向こうの世界で習得していた技能は、どうやらこっちでもできるみたいだ。
腕に付けられているこの【魔封じの枷】は針金2本で結構簡単に外せそうなんだけど……外したのがばれたら父様に本気で殴られて死ぬかもしれないので我慢している。
暇なのを良いことに、後でチルルと遊んでやろうと、机にあった紙を10cmの正方形に切りそろえて、折り紙用の紙を作っている。藁半紙のような粗悪な紙だが、紙が無い世界よりはいい。
そうそう、あの女神様が日本のアニメやゲーム、ラノベが参考になってできた世界だと言っていただけあって、文字はやっぱり日本語だった。小学低学年で習う程度の漢字も使われている。和製英語もカタカナ表記で使われていて、ほぼ現代日本語で通じそうだ。
魔法の本でも有れば良かったのだが、落下事故で自宅に搬送されたため、教科書類は教室と寮にそのままの状態だ。学校専属の医師より、宮廷医師たちの方が優れているから、飛竜で王城に運んだのだろう。
部屋の隅に練習用の木剣があったので振ってみる……意外と上手く振れている。
ルーク君は全く自主練習はしていなかったが、幼少時より剣の先生が兄弟たちに付き、強制的に週に4回剣術の稽古を一緒にやらされていたのだ。なので最低限の基礎はできている。もちろん真面目に取り組んでいる兄たちと比べたら児戯にも等しいが、基本の型は覚えているのでこれを繰り返し行えばある程度上手くなれそうだ。
武術の型には攻めと守りの要素が凝縮されている。
剣道でも柔道でも空手でも、型をなぞることによって基本技術は覚えられるのだ。攻めの型に対して受けの型があり、どの武術にも数通りの基本となる型が存在する。
流石に幼少時からやらされているので、基本の型は覚えている……俺はそれを繰り返し行う。
「ゼハァ~、ゼハァ~」
すぐに息が上がってへたってしまった。情けなさ過ぎるぞルーク君!
100m走を12秒前半で走っていた俺からすれば、この体はとてもじゃないが我慢できない!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます