第4話 召喚や転移ではなく、転生のようです
一瞬激痛が起こり間違いなく死んだと思ったのだが……何故だか未だに顔に強い風を受け浮遊感がする。
『♪ マスター! 起きて!』
女神様の時と同じように、耳からではなく直接頭にチロリーンと鈴の音が鳴ったような気がした後に可愛い声が響き、びっくりして目を開ける。
俺は未だに空中にいて、どんどん地面が迫ってきていた!
「モ、モモンガー!!」
咄嗟に両手両足を広げ滑空態勢を取ったのだが、縫い付けてあった筈のベッドマットがない!
「俺のウイングスーツどこいった!?」
『♪ 「モモンガー!!」じゃなくて! 魔法! 早く魔法を! 何、寝ぼけているのですか!』
「『寝ぼけてる?』ってなんでまたパラシュートなしで俺は空飛んでるの!?」
そう言ってる間にもどんどん地上が迫ってきている。
「飛べ! 飛行魔法発動! 魔法の箒! 魔法の絨毯!」
『♪ 何を言っているのです! 【フロート】です! 早く!』
「【フロート】!」
あっ! 発動した! けど止まらない!
「止まれ! 【フロート】! 【フロート】! 女神様冗談じゃないよ!」
『♪ マスター、慣性の法則です』
なに冷静に物理法則のことなんか言ってるの! てか、この可愛いアニメ声の人誰!
もうダメだ! ゆっくり速度は落ちているが、もう数秒で地面にぶつかるだろう。
あと数メートルという地点で背後から何かに鷲掴みにされ放り上げられた!
俺を掴んで投げたのは竜だ! ドラゴンだ!
だが、その竜は俺の代わりに地面に激突してしまった。
竜が放り上げてくれたのだが、それでも止まり切れず、間もなく俺もその竜の上に衝突する……【フロート】と竜の投げ上げで速度はかなり落ちたが、完全には速度を殺しきれなかったようで、両足がぽっきりと折れた。
竜は口から血を吐き、俺と目が合って何度か尻尾を振ったが、間もなく力を失って横たわってしまった。
竜が横たわったのを見届けた直後、俺も意識を失った―――
* * *
不意に体の痛みで目が覚める―――
「アタタッ……どうなったんだ?」
どうやら俺はベッドに寝ているようだ……どこだろ?
体の痛みは骨折のものではないようだ。折れた足は何故だか治っている。
この痛みは筋肉痛に近い。落下時の筋硬縮によるものかもしれない……所謂ムチウチのようなものかな。
体を起こそうとするが起き上がれない。
両手を使って体を起こし、周囲を見回す。知らない部屋だが、高級そうな家具や調度品が一杯だ。
ヨーロッパのアンティークな品物に似ている。
これは転移に成功したと考えていいのかな? 赤ちゃんではないようで安心した……邪神復活まで10年の猶予があるとか言っていたけど、俺自身が0歳児からのスタートでは絶対討伐なんか不可能だろう。
周囲を見渡し、家具などからそれなりのお金持ちかなと想像できる。
時間がなかったとはいえ、ある程度こちらの世界の情報がほしかったな……。
家具の中に姿見のような鏡があったので、ベッドから出て自身を映してみる……容姿は気になるからね。
鏡を見た瞬間脳が焼切れるような激痛が走る!
どうやらこの豚の記憶が、俺の記憶と融合されているようだ。
そうなのだ……鏡に映っていたのは太った色白なぽっちゃりさんだった。いや言い直そう……豚だ! 太った豚だ! さっきベッドから起き上がれなかったのは、太っていたせいだ! 腹筋が1回もできないほど太っていたからだ!
この腹筋すらできない体でどうやって邪神を倒せと? 女神様聞いてないよ!
記憶が流れ込んでくる激痛で、その場に倒れてしまう―――
元々この体はこの豚君のものだ……俺の記憶が彼に流れ込んでいるのか、彼の記憶が俺に流れ込んでくるのか良く判らないが、二人分の記憶が脳を侵食しているような不思議な感覚だ。
「今、部屋の中で音がしなかったか?」
「したな……目覚めたのかな?」
扉が開かれ、誰かが入ってきた。
「あっ! ルーク様が倒れているぞ! ルーク殿下、大丈夫ですか!?」
どうやら、俺はルークという名前のようだ……召喚や転移ではなく、新規の転生でもないみたいだ。
実在している人物への記憶と魂の転生……乗っ取り系ってやつか?
色々面倒そうだ。
「宮廷医師を呼べ! 国王様にもお知らせするのだ!」
ベッドまで介助してもらい移動したが、そこでまた意識が遠のいていった―――
「ルーク! いい加減起きぬか! 何時まで寝ているのだ! このバカ息子が!」
軽く頬を叩かれて、覚醒する。
ボーとした状態だが、俺の頬をペチペチしているのが父親だというのが分かる。
どうやらさっきの頭の痛みは、ルーク君と俺の記憶が融合されるにあたって起きた弊害みたいだ。
さっきは知らない部屋だと思ったが、ここはルーク君の自室だと今ではちゃんと理解できる。
「どうした!? 俺が分からないのか?」
「お父様、ですよね? 頭を強く打って、ちょっと記憶が混濁しているようですが、大丈夫です」
「足の怪我は回復魔法で治してある……このバカ者が!」
ゴツンッ!
拳骨で頭をぶたれた。あっ! ヤバっ! なんか死にそう!
俺は慌てて【ステータスプレート】を呼び出そうとしたが、呼び出せない――何で?
腕に枷がはまっている。本来これは囚人や奴隷が付ける物で、魔法を発動できなくする魔道具の一種だ。両手を後ろで拘束することもできるのだが、この枷には鎖は付いていない。俺の魔法を制限するために付けたのだ。【ステータスプレート】が呼び出せないのもこれが原因だな。以前に悪さをした時は、鎖も付けられて拘束されていたっけ。
俺……というより、この宿主のルーク君……この国では超有名な悪童だ。
悪童と言っても犯罪になるほどのことはしていない。なのに何故有名なのか。
目の前のお父さんが、この国の国王だからだ。
俺は大国の第三王子に転生したみたいだ。
王の子供……必然的に注目が集まる。
ルーク君は悪戯ばかりして勉強は全くしていない。この国の貴族界では超有名な悪戯ばかりしているバカ王子なのだ。
あだ名は『オークプリンス』醜く太った豚王子をまんま表現した上手いあだ名だね。
対象が俺自身じゃなかったらそう思えるのだけど……ハァ……溜息しか出ないや。
女神様酷いよ!
色々噂が酷すぎて、この国で『ルーク』として生きていくのはきついです!
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