第57話「VS魔王第二形態 その3」

 バーサスの剣閃が煌めく。

 それに応対し、魔王は止め、逆に拳を繰り出すが、まるで蛇のようにうねった動きでかわしていく。


「余の動きにここまでついてくるとは、凄まじいのぉ。しかし、お遊びはここまでじゃ」


 魔王はだらりと両手を下げると、バーサスの次の一撃を待った。


 ザンッ!! 


 肩に確かに剣は届いたのだが、皮一枚切ったところで刃が止まる。


「しまっ――」


 次の瞬間バーサスは殴り飛ばされていた。


「ほぉ。ギリギリで自ら後ろに跳んで威力を殺したか。だが、これで分かったであろう。先までの攻防が拮抗しておったのは、余が少しの傷も負いたくなかった故よ。こうして皮を切られる覚悟さえすれば、お主など敵にすらならぬ」


 絶望的とも思える告白だったが、バーサスは気にとめた様子もなく、「それがどうした」と言うと同時に再び疾駆した。


現地人ローカルには無謀や無駄といった言葉がないのか? 雑魚モンスターが余の手をこれ以上煩わせるでないっ!!」


 バーサスは飛び込んだスピードも威力に加え、剣を振るった。しかし、それが魔王に辿り着くことはなく――。


「グッ、ガァァァアアッ!!」


 魔王の放った手刀により、バーサスの右腕が吹き飛び、鮮血を散らす。


「焦って直線的な攻撃になりおったのぉ、馬鹿めがっ! トドメじゃ!!」


 返す手で腹部へ貫き手が迫る。


「我は、自分が最強だと思ったことは1度もない。我より力が強い者もいれば、素早い者、技術や知恵のある者は山ほどいる」


「何を言っている?」


 魔王が訝しんだ、その瞬間、魔王のあごに衝撃が襲う。


「なっ!?」


 魔王は顎から伸びる物体に視線を向けると、それは、人間の腕のように見えた。


「う、で?」


 その腕は、腕だけにも関わらず、魔王の首を絞め始める。


「この腕、あの不死者のモノかっ!」


 ドニーの腕だと悟った瞬間、魔王の眼にさらに飛び込んで来たものは、自身の太い脚を持ち、投げつけるドニーの姿だった。


「許せ、ないっ!!」


 ドニーの腕はかつてない程、筋肉が隆起し、全力を持って脚は投げられた。


「このパワー、まずいっ!」


 必死に脚の投擲を避けようとするが、足が上手く動かず2、3歩ふらつく。


「あ、足が動かぬ。う、うぅ、目も回る。いったい余に何が……」


「ドニー、クリーンヒットだ。上手く脳が揺さぶられているぞ」


 ニヤリと笑うバーサスの言葉を合図にしたかのように、次弾の脚が魔王の胸部を捉えた。


 メキャメキャッと骨が砕ける音が響く。


「ぐぅうぅ、しかし、これしき、耐えられぬ余だと思うかっ!」


 ドニーの脚を跳ね除け、首を絞める腕を荒々しく外す。

 再び、目の前のバーサスに焦点を合わせたのだが。


 バーサスを地面から何かを蹴り上げると、それごと魔王へ叩きつける。


「ただの目暗ましか。なんのダメージも余にはない――」


 魔王の言葉は、呪怨によってかき消された。


「この怨み、はらさでおくべきか……」


 バーサスが蹴り上げたそれはスマートフォンであり、そこには黒髪をだらりと垂らし表情の伺えないユキエが映る。


「よくも、エリザベスを……。絶対許さない……。這いつくばって、死になさい……」


 その声が聞こえると魔王の体は地面へとめり込む。


「馬鹿なっ! 余のスキルは呪いも魔法とみなし分解するのだぞ! なぜ、使えるっ!!」


 宙へ浮くスマホから、ユキエは魔王を見下した冷淡な言葉を吐く。


「魔法。呪い。なにそれ? アタシの怨みが、その程度だとでも? いいから、さっさと死んじゃえ!」


 意思とは関係なく、魔王の体はどんどんと押しつぶされていく。


「くそっ! スキル解除。そして、解呪デスペル


 魔法陣から金色の光が降り注ぐと、一瞬、体が軽くなったが。ユキエの「うるさい。死ね」という言葉1つで再び体が押しつぶされていく。


「ならば、解呪デスペル。そしてっ!!」


 手から光の帯が伸び、ユキエを襲う。このままでは貫かれると思ったその時、スマホの前にバーサスが立ちふさがった。


 ドスンッと光の帯はバーサスの腹へと刺さると、その勢いを止めた。


「バ、バーサスっ!!」


「我のことは構うなっ! それより奴を殺せっ!」


 ユキエは驚愕の声を上げるが、すぐにバーサスの言葉で呪いを継続する。


「おのれ、よくも邪魔を。だが、もう一度行えばいいだけよ!」


 魔王が再び魔法を唱えようとしたとき、グシャリという鈍い音と共に、顔面に痛みが襲う。


「唱えさせなければいいのだろう?」


 バーサスの左手には血濡れた拳大の石が握られていた。


「なっ、なっ、なっ」


 事態が呑み込めない魔王に、間髪入れず、再び、石で持って顔面、主に口元目掛け殴りつける。


「がっふっ! 余をたかだか石ころで殺そうというのか!? ぐっふ!」


 魔王が自由に喋ることすら許さず、バーサスは何度も何度も石を叩きつける。


「この、余が、魔王が、聖剣でもなく、極大魔法でもなく、たかが石で殺されるのかっ!?」


 ガスッガスッと何度も何度も石で魔王の山羊面を殴り、石は赤く染まる。


「こ、こんな死に方は嫌だ。止めろっ! 止めろっーー!!」


 しかし、バーサスの手もユキエの呪いも止むことはなかった。


「が、あ、あ、あ、た、助け、あ、が、が、が……。い、りゅ、う、う、う」


 完全に魔王が動かなくなると、バーサスは真紅の石を捨てると、「ハッハッハ」と笑い声を上げると、その場で意識を失った。

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