第56話「VS魔王第二形態 その2」
爆煙が立ち込める中、1つの影が立ち上がる。
その影が手を払うと煙は吹き飛び、山羊頭の魔王が姿を現す。
「ふむ。爆破に紛れ、逃げたようだの」
姿の見えぬバーサスとエリザベスに、そのように結論を出し、今度はユキエの元へ近づく。
「出てこぬのならば、先にこちらから始末をつけよう」
手刀を作ると、ユキエへと向ける。
「命乞いをして、奴らを呼び出せ。そうすれば、殺すのは最後にしてやろう」
魔王の言葉に、ユキエはふっと笑みを浮かべる。
「もう死んでいるアタシが殺される順番惜しさに命乞いをするとでも? バーサスとエリザベスがいるんだから、言われなくてもメッチャするわよっ!!」
ユキエは、スマホのスピーカーを最大限にすると、叫んだ。
「助けて~~!! アタシのことは最大限に考えて、出てきて~~っ!!」
「お主、余が言うのもなんだが、人間として最悪だな」
ユキエの無様とも思える姿に魔王は半分呆れる。
いつもならば、ユキエの叫びに、エリザベスは「流石ユキエだ。自愛の精神が半端ないね」と言って見捨てつつも、土壇場では助かる一手を打ってくれるのだが、今はその気配すらない。
「あれ?」
不思議に思うユキエだったが、思いのほか遠くにぶっ飛んだのかなと思い、再び声を張り上げる。
「助けて~~!!」
しかし、返事はなかった。
「やはり誰も来ないようだな。見捨てられたという事だな。では――」
魔王が手刀を振り上げると、茂みが物音を立てる。
「むっ、戻ってきたか」
魔王は物音がした方向を見ると、そこには、両手を血に染めた異形が立つ。
「バーサスっ!! 来てくれるって信じてたっ!! あれ? エリザベスは一緒じゃないの?」
ユキエの言葉に、バーサスは神妙に首を横に振った。
「えっ? どういう事?」
「エリザベスは死んだ。我を庇った所為で」
重々しいバーサスの言葉に、ユキエもドニーもそれが真実だと悟る。
ドニーは歯を食いしばり、出血もいとわずギリギリと力を込める。目元には涙を湛えているが、必死にこぼれないように耐えていた。
ユキエは事実を認めようとせず、「嘘でしょ?」と呟く。
「嘘だって言ってよ! あのエリザベスが死ぬはずないじゃない!! か、仮に死んだとしてもエリザベスならアタシみたいに悪霊になってでも、魔王は殺すでしょ!! ねぇっ!!」
バーサスは何も答えることは出来なかった。代わりに、エリザベスの最後の願いを伝える。
「エリザベスは最後に、『
ドニーは、「分かった。殺す」と同意し、ユキエはコクリと頷いた後、ぶつぶつと呟き始めた。
「さて、第2回戦だ。悪いがエリザベスの残したこれを使わせてもらう」
バーサスは魔王に見せつけるように注射器を掲げる。
「それは、なんだ?」
「なんだと思う?」
不敵な笑みを浮かべるバーサスの挑戦に乗り、魔王は鑑定の魔法を使う。
「ふんっ、なんだ。鑑定結果は『人間に対し猛毒』と出たぞ。それで余を殺そうというのか? 果たして、それが余に刺せるのか? いや、出来ないな。所詮最初に脱落した人間の浅知恵。この魔王に届くはずもないっ!」
「ハハハッ! エリザベスが浅知恵とは笑わせてくれる。最近で一番笑ったぞ」
爆笑しながら、バーサスは唐突に自身の腕に注射器を打ち込んだ。
「何をしておる? 気でも触れたか?」
バーサスは魔王の言葉も気にせず、そのまま中の液体を注入する。
「どうせ、あの女のことだ。我が魔王に刺すことも敵わず、奪われ逆に刺されて一度は死を覚悟する様を嗤って見ていたかったのだろうが、エリザベスの考えなど、お見通しだ。やつは完璧な作戦はまず立てないからな!」
バーサスの腕から徐々に全身に毒薬が巡ると、全身の筋肉が隆起していく。
「はぁ~~。やはり、人間にとっては猛毒でも、我にとっては増強剤を渡してきたようだ」
獣のように前傾姿勢を取り、腕から剣を出すと、地面を蹴った。
「ぬっ!!」
魔王はバーサスからの一撃を防御して見せたが、その速さは先ほどまでの魔王と同等であった。
「これで対等に勝負出来そうだ」
暗闇の中、バーサスの眼が怪しく輝いた。
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