第35話「VSデュラハン その4」
エリザベスの明朗な声がいつまでたってもデュラハンの耳元から離れず、説明を告げる。
ただ、話すだけ、それしかされていないにも関わらず、デュラハンの神経は猛烈に
すり減らされていた。人間であったなら、すでに何十滴と汗が地面へ滴り落ちていたことだろう。
「魂というものは確かに存在する。それはこのゾンビやユキエと言った者たちが証明してくれている」
なかなか本題に入らないことに焦りと苛立ちを感じるが、体と分離した頭部では、プレッシャーを切り離し考えていた。
冷静な頭脳は、敵の思惑を阻止し、完膚なきまでに打ち倒すには情報と時間が必要不可欠と考え、デュラハンは油断なく構えながらもエリザベスの次の言葉を待った。
「そこで私はゾンビやスケルトンは魂の形や重量を見ているのではないかと予測を立てた。その結果、ズバリだ! 虫やヘビなどの小型の動物には反応しない変わりに、魂だけはあるユキエにはスマホだろうと反応した! つまり、キミらは私たちを魂として眼ではなく別の器官でそれを探知しているということになる」
「それが分かったところでなんだと言うのだ!」
「つまり、その魂の形もしくは重量を誤魔化せれば、キミらの眼を掻い潜れるということだろ?」
ここにきて、何が言いたいのかは理解したデュラハンではあったが、
「そんなことできる訳がないっ!!」
「チッチッチ!」
姿は見えないが、きっと指を振り、デュラハンのことを小馬鹿にしていることは容易に想像がついた。
「一見不可能に思えることでも、トライ&エラーを繰り返して実現してきたのが科学だ。そして人間だ。では方法を説明しよう。まず、私がこの方法を思いついたのは、ゾンビを解剖しているときだ。ゾンビの体内には不思議なことに無数の生物が寄生していた。まぁ、腐食している時点でそれは容易に想像はつくことではあったがね。さらに、もう1つ。エルフの肉をあとで試食してみようと密かに切り取ったのだが、そこにも寄生虫が生息していた。検体が2つだけでは情報としては弱いが、仮説を立ててみた」
途中に出てきたワードに思わずデュラハンは質問を投げかけた。
「待て待て、貴様、今、エルフの肉をなんと言った!?」
「ん? 説明の途中なんだが、仕方ない。食べようと思ったと言ったのだよ。まぁ、寄生虫だらけだったから止めたが」
「こ、このバケモノめ……」
エリザベスの姿形ではなく、その異常性を持って、デュラハンはバケモノとそう評した。
「おいおい、これでも、美女に分類される美貌だと自負しているんだぜ。それをバケモノだなんて失礼だな」
全く怒った様子もなく、ふざけたように言い放つ。
「さて、話を元に戻そう。私の仮説だが、異世界のモンスター、つまりキミたちは何かしら寄生虫が体にいる。それも微生物とかではなく、それなりの大きさだ。目で確認できるクラスのね。そして、寄生された状態では魂の形が虫なのか人なのか判別出来なくなり、結果、認知できなくなるのではないか。そうなれば確実に敵の人間と味方のモンスターの区別がつく。また人間が寄生されていた場合襲うことはできないが、キミらの世界の医療レベルだと完治は難しく、どの道、死ぬのではないかな?」
その仮説を聞いたデュラハンは、エリザベスが何をしたか、想像がついた。
「貴様、まさか……」
「ああ、飲んだよ。こちらの世界には、サナダムシという寄生虫がいるんだ。主にサーモンやポークについて人の体内へと入り込むやつなんだが、栄養をガシガシ奪って宿主を餓死させる以外は害のない、可愛いやつさ」
「その1つで害が過ぎるだろっ!! き、貴様、正気じゃ、ない……」
「そんなこと言うなよ。こっちの世界では、花粉症の治療やダイエットとして使われているんだ」
「吾輩は、この世界の認識を誤っていた。こんな狂人
デュラハンは剣を降ろすと、頭部を高々と掲げた。
「貴様の話のおかげで、正体も分かった。そして、時間も稼げたぞっ!!」
デュラハンの周囲には、ゾンビが集まり、ぎゅうぎゅうにおしくら饅頭状態になっていた。
「いくら姿が見えなかろうと、どこかにはいるのだろう? ならば、ゾンビがいないところを探せばいいっ!! 吾輩の全てを見通す魔眼の力を味わえっ!!」
掲げられた頭部、その眼から赤い光が放たれた。
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