第34話「VSデュラハン その3」

 紫紺の鎧を身に纏い、首なしの馬に跨る首なしの騎士、デュラハンは腕に抱えた頭部から一糸乱れず整列するゾンビを見て悦に浸っていた。


「美しい。理路整然、規則正しさこそ全てだ。規則ルールなどと真逆のゾンビをここまで完璧に揃えられるのは、世界広しといえど、吾輩くらいだけであろうな」


 こちらの世界に来て、新たに増えたゾンビにもそのルールは適用され、異世界風のチュッニック姿のゾンビと入り混じり、Tシャツ姿のゾンビもちらほら見えた。


 しかし、その隊列に一ヶ所ポカリと穴が空く場所があった。


「スケルトン部隊は何をしているのだ。敵対者を発見、戦闘に移ったと報告はあったが、依然戻らぬままか」


 その僅かな乱れのみ気に入らなかったが、すぐに戻ってくる、そして、完璧な布陣が見れることを楽しみにし待っている。首なし馬にも楽しみなのが伝わったのか、そわそわと足踏みし、尻尾をパタつかせる。


「やぁ、今日は良い天気だな」


「そうか? 吾輩は晴天より、曇天の方が好きなのだが」


 デュラハンは不意に掛けられた言葉にそのまま答えてしまったが、すぐに背後を振り返る。


「誰も、いない、だと? 今の声はいったい……」


 デュラハンが不審に思っていると、尚も声だけが響き渡る。


「お初にお目にかかる。私はエリザベス。エリーでもリサでもベスでも好きな愛称で呼んでもらって構わない」


「貴様っ! どこにいる!! 姿を現せ!!」


 デュラハンを腰からロングソードを抜くと、周囲を警戒する。


「ふむ、物騒だし、頭が高いぞ」


 パンッ!


 破裂音がすると、馬は前足を1度大きく上げ、デュラハンをその背がから落とすと、暴れ馬のように走り出す。


「くっ! 何が起きたっ!?」


 デュラハンは地面から起き上がると、すぐに自分の頭を拾う。


「なに、こっそりと馬に攻撃させてもらっただけさ。キミの視線が高かったものだからね」


 声はすれども、姿が見えない相手に、デュラハンは剣を振り回しながら、怒声を浴びせた。


「貴様、卑怯だぞ! 姿を現せ!!」


「おっと、危ない、危ない。間違ってその剣に当たったらどうするつもりだい」


 デュラハンはその発言を聞き、1つの結論に至った。


「ふんっ、なるほど、現地人ローカルにも変な魔法を使うものがいるということか。貴様、透明化の魔法を使っているな!」


「さぁ、なんのことかな」


 そのあざけた態度に、デュラハンは怒りの募らせる。


「だが、タネさえ分かれば、恐るるに足りず!!」


 デュラハンはロングソードを構え、相手が攻撃してきたと同時にカウンターを放つ準備をする。


「何をしたいのか分からないが、科学って言うものを知っているかい?」


「科学? ああ、あの魔法の下位互換だろ。それがどうしたというのだ!」


「下位互換、ねぇ。まぁいい。ところで、キミたちアンデット系には常々疑問があったのだが、なぜ、眼球が腐食していたり、スケルトンにおいては無いにも関わらず、相手を視認し襲うことができるのか。さらに無差別に生物を襲うのではなく、人間だけを襲えるのか。キミは答えを知っているかい?」


 その問い掛けにデュラハンはバカにしたようにフンッと鼻を鳴らす。


「そんなもの、無くても見えているのだろうさ。もしくは本能で、なんとかしているのだろ?」


 その答えに、エリザベスは深いため息をついた。


「その程度の認識で、将をしているのかい? 全く救えないし、彼らが救われないね」


「貴様、どこまで侮辱すれば気が済むっ!!」


 ギリリと歯軋りすると、剣を握る手に力が入る。


「まぁ、聞いてくれ、キミがバカにした科学はそれを解明したんだぜ。まず、ゾンビの解剖結果だが、体の至るところに腐食が見られ、とても生きていられる状態ではなかった」


「ゾンビなのだから当たり前だろう!」


「いやいや、これが実は当たり前ではないのだよ! こちらの世界のゾンビの生成方法と多少は差異があるかもしれないが、基本的に脳細胞は生きた状態であることが必要なのだよ。それすらも必要ないとなると、別のものが入っていると考えるのが妥当だろうね」


「そうに決まっているだろ!! ゾンビとは死体に死霊が取り付くことで生まれるのだぞ。やはり、現地人ローカルは無知なのだな」


「なるほど。やはり、魂というのは存在するということだな。科学的というには曖昧だが、魂の重さは人間では21gあると言われいるのをご存知かな?」


 デュラハンは何を言いたいのかだんだんと分からなくなり、それを悟られないよう語気を強める!


「知る訳ないだろ! そんなことどうでもいいから姿を現せ! 吾輩とちゃんと勝負しろっ!!」


「ふ~、やれやれ、今、なぜ、姿が見えないのかを説明してやろうとしているのに、随分せっかちだな」


 エリザベスの澄んだ声だけがデュラハンの耳に届き、その心に一抹の不安を与える。

 依然としてエリザベスの姿は見えないまま、説明はつづくのだった。

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