第33話「VSデュラハン その2」
エリザベスは採血して得たデータを見ながら、アンプルの薬を注射器へと入れていく。
青い液体が注射器に満たされていく。
「基本は生きている人間と変わらないようだし、上手くいくと思うが」
青い液体をゾンビに注射する。
ゾンビはビクンッ! ビクンッ!! と跳ねるように仰け反りを繰り返すがやがて大人しくなる。
「さて、成功したかな」
エリザベスは自分の手を近づけると、「ガウッ!!」先ほどは無反応だったゾンビが今度はエリザベスの手を噛もうとしてきた。
「良し。成功だ」
そう言いながら、エリザベスは今度は自分に緑色の液体を注射すると、拘束はそのままに、ゾンビをベッドから降ろした。
「さてと、ユキエ、そろそろ行こうか」
「えっ? どこに?」
「そりゃあ、皆殺しに行くんだから、デュラハンのところさ」
エリザベスはゾンビを引き釣りながら
※
「さてと、セッティングOK」
エリザベスは自撮り棒をゾンビに装着させ、その先にユキエが取り憑いたスマホをセットする。
「ね、ねぇ、エリザベス1つ聞いていい?」
「ん? なんだい?」
「アタシの役目ってもしかして……」
囮なんじゃ、と言い掛けたユキエの言葉を遮り、エリザベスは満面の笑みを浮かべた。
「そんな訳ないだろ。私がユキエにそんな誰でも出来ることを任せるはずがないじゃないか」
「そ、そうよね」
ユキエはホッと胸を撫で下ろした。しかし、それが間違いだったとすぐに痛感した。
「ここにゾンビが来ると思うから、全員倒してくれ」
「囮も戦闘も両方やれってことっ!!」
「囮? なんの事だい。ここでならユキエの力で一網打尽に出来ると思ったから、ユキエを餌におびき寄せようというだけだが?」
「それを囮って言わなくてなんて言うのよ!! 餌って完全に言ったじゃない!!」
「まぁ、冗談はさておき、ちゃんとした作戦を伝えるよ。ユキエはここにゾンビが1体でも来たら、ビデオカメラの力で、こちらのゾンビを拘束から解放するだけでいい」
「ま、まぁ、それだけでいいならやるけど。エリザベスはその間何をしているの?」
「そりゃあ、決まっているじゃないか、デュラハンに絶望と敗北感を植え付けに行ってくるのさ」
エリザベスはショッピングにでも行くような気軽さで、ゾンビが群れなす方へと向かって行った。
「あのままじゃ、ゾンビの餌食に……なるわけないわね。あのエリザベスがなんの策もなしに自分から前線に行くわけがないし」
ユキエは時間にして1秒くらいだけしかエリザベスの心配は行わず、むしろ自分の方が大丈夫なのかなと心配し始めた。
「そう言えば、久々に独りになった気がするわね。ゾンビがいつ来るかわからないし、暇よね」
ユキエは時間潰しの方法を考え、このゾンビに名前を付けることに決めた。
「ゾンビだから、ゾンちゃんだと安直すぎるわね。服装がこっちの人間っぽいし、10代ぽいし、ティーンとか? う~ん、微妙ね」
ネーミングセンスの無さは自覚していたユキエだったが、特にすることのない今は、その中々定まらない名づけは絶好の時間潰しとなっていた。
「それじゃあ、ゾンビだし、日本での言い方で『シキ』なんてどうかしら。うん、なかなかいい感じに決まったんじゃない」
ようやく納得のいく名前が決まったと思っていると、さっそくゾンビが数体がこちらへ向かってきた。
「グッドタイミングね! それじゃ、行くわよ!!」
ユキエは先ほどから作動させられていたビデオカメラ機能の効果により、エリザベスが置いていったナイフを手にとると、シキの拘束を切った。
「さぁ、行きなさい!」
ビデオの力で、やってきたゾンビは地面に置かれたナイフを蹴飛ばし、それがシキの拘束を解いた。
「あ~~、あ~~~」
うめき声を上げるシキだったが、その場から動かずにいた。
「あれ? そういえば、シキの拘束を解いたらどうなるか説明聞いてないんだけどっ!!」
これはまさか、エリザベスに嵌められたか! と思ったその時、シキの視線にゾンビが映る。
「あ~~、あ~~~」
呻きながらも素早い動作で一番近くのゾンビに噛み付く。
肉を
「やっぱりエリザベスのことだから、同士打ちを狙って何かしていたのね! 信じてたし!!」
完全に嘘ゆえに、ユキエは大声で自分を騙すように叫んだ。
「しかし、エグイ絵面ね。ゾンビ同士で噛み付き合うなんて」
そうこうしている間に、数体のゾンビにシキは身動き取れないほど噛み千切られ、絶命した。
「えっ!? ちょっと嘘でしょ!! シキ~~! ってこれアタシも危なくない?」
シキの悲しさもそこそこに、ユキエは自分の心配を第一に考える。
「ヤバイ、動けない。どうしよう。エリザベス、絶対こうなるの分かってたでしょ!! ちょっ! どうしよう!!」
なんとか頑張ろうとしたが、どうにもならず、スマホの画面内で右往左往していると、不思議なことにゾンビたちはユキエに見向きもせず、去っていった。
「へっ? どういうこと?」
あとにはポカンとした表情のユキエが映されたスマホだけが残った。
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