第36話「VSデュラハン その5」

「吾輩の魔眼は視線を俯瞰で捉えることができ、さながらレーダーのように敵を追い詰める! 貴様の敗因は吾輩相手に時間を掛け過ぎたことよっ!」


 デュラハンは頭を掲げ、高らかに叫び、ゾンビの密集具合を俯瞰図で確認する。

 しかし、その声は、すぐに小さなものへと変化する。


「なん……だと……。馬鹿な、なぜ、どこにもいない?」


 デュラハンの視線には、ゾンビは一分の隙間もなくぎゅうぎゅうに押し詰められている映像しか映らなかった。


「あれ? 私、そこに居ると一言でも言ったかい?」


 そんなエリザベスの声に、デュラハンは先ほどまでの会話を思い出す。


「た、確かに言ってはいない。だが、だが、しかし! 貴様、吾輩の愛馬に攻撃を仕掛け、こうしてすぐ近くで話してるだろう!! それに、なぜわざわざ消えるだの認識できなくなるだのとわめいた!?」


「ああ、確かに一度は近づいたよ。そのときに爆弾とスピーカーをいくつか仕掛けさせてもらっただけさ」


「スピーカー?」


「ああ、そっちの世界にはもちろんないよね。これは音を遠くに飛ばし聞かせる装置だと思ってくれていい。もっと正確な理論の話をすると長くなるから、割愛させてもらうよ」


「そもそも居なかったという訳か……、ふっ、ふふっ、ふふふっ! 吾輩はなんという道化だったことか、その様を見ていた貴様はさぞ楽しかっただろうよ。だがっ! 所詮、逃げ回るしかできぬ低脳な存在だと自ら露呈したことが分からぬとはな! こちらは、貴様がいかに見えずとも、この方法でしらみつぶしに探せば良いだけよ!」


 勝ち誇ったように宣言するデュラハンの言葉に、エリザベスは深いため息をついた。


「キミは馬鹿のようだね。なぜ、私がわざわざこんなに時間と労力をかけて、自分の弱点になるような話をしたと思っているんだい」


「ふんっ! 大方自分の科学力に酔い、それをひけらかしたかったからだろう」


「はぁ~、こんなヤツに私の肉は奪われたのか……。もういい、正解は私も時間が欲しかったからだよ。そろそろ、感染が行き届き、暴れ始めるはずだよ」


 エリザベスがそう呟いたとき、何体かのゾンビが急に暴れ始め、近くのゾンビを襲う。


「な、なんだ? 何が起きている?」


 うろたえるデュラハンを前に、エリザベスは呆れながらも説明をする。


「さっき、言っただろ。こっちにもゾンビの生成方法はあると」


「まさか、貴様っ!?」


「こちらのゾンビは感染するぞ。ウイルスが体液を媒体に細胞に入り込み、再活性を行う。つまり、一度死んだ肉体でも甦るのさ。ただし、その再活性は時間が経ちすぎると、脳にまで影響を及ぼすらしく、食欲しか残らなくなる。そうして、イメージ通りのゾンビの出来上がりだ。今は数体だが、ネズミ算式に増えていくぞ。いまのうちに始末した方がいいんじゃないか?」


 襲い来るゾンビに対しても、魂の形だけで判断するゾンビは仲間だと認識し、無抵抗に引っ掻かれ、噛まれ、どんどんと感染は拡大していく。


「くっ! なぜだ。なぜ、貴様のゾンビはこちらを襲える!? はっ! まさか、目や脳も回復しているのか?」


「おおっ! 正解だ。賞品はあとでくれてやるよ」


 デュラハンは最後までその戯言を聞くことなく、ゾンビの群れの中へ走り出した。


「動いているものさえ、殺せばいいのだろう?」


 目が紫に煌く。


「第2の魔眼、発動!」


 デュラハンはまるでゾンビがどう動くのか分かっているように、掻い潜り、ソードを突き刺していく。


「この魔眼は未来予知よっ! 数秒先なら、吾輩は未来すらも見通せる!」


 そして、動いているゾンビを次々に調子良く片付けていると、再び、エリザベスのため息が聞こえた。


「はぁ、あれか、キミは頭の回転が悪いのか? やはり、頭もパソコンも無線より有線の方が良いということなのか?」


 デュラハンは眉をひそめ、苛立ちを募らせながら抗議する。


「この吾輩のどこが頭の回転が悪いというの――」


 最後まで言葉を発する前に閃光がその身を包んだ。


「ぐはっ!!」


 体に受けた衝撃と熱から、近くで爆破が起きたのだと理解はできたが、なぜ、爆破がそこで起こされたのかは不明のままだった。


「おいおい、さっき、ちゃんと言ったんだぜ。爆弾とスピーカーをいくつか仕掛けたって。なんで忘れるかねぇ」


 エリザベスは何体かのゾンビの背に首無し馬同様に爆弾を仕掛け、それを今、デュラハンが近づいたタイミングで起爆させていた。


「ぐっ、ぐぅぅ」


 うめき声を上げながらもデュラハンはなんとか立ち上がる。


「時間を掛け過ぎたようだぜ。ほら、元キミのゾンビが皆で押し寄せてくるぜ」


「あ~~あ~~」


 いつの間にか周囲を取り囲むゾンビ、そしてそれらは一切の情も恐怖心も見せず、デュラハンに襲い掛かる。


「吾輩が伊達や酔狂で将になったと思うなよっ!! 奥の手、第3の魔眼!」


 頭を大きく掲げ、目からは赤黒い禍々しい光が溢れ出す。その光は見るもの全てに死の恐怖を与えるような絶対的な絶望を秘め――。


「ああ、ちょいと失礼」


 掲げられた頭部が何者かに奪われた。


「なっ、なっ、なにぃぃぃぃーーーー!!」


「魔眼って言っているし、この眼を覆えば無力化出来るんだろ」


 瞳を多い隠す何かを装着され、何も見えなくなったデュラハンは、先ほどまでは確実にこの場に居なかった人物、絶世の美女にして食人鬼のエリザベスの声を聞いた。


「貴様、なぜ、この場に

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