第26話「VSゾンビ その4」

「あっ! 見つけたわよ。そこの樹の影に1体!!」


 ユキエの声に、ドニーは安堵の息を漏らし、ビニール袋が膨らむ。


「ありがとう。今度こそ」


 ドニーはユキエの指示を受けながら、ゾンビの背後へと忍び寄る。

 そして、今度は簡単に首を刎ねないように胴体に掴みかかった。


 ぐしゃん!!


「あっ……」

「あっ!」


 2人が同時に声をあげたのは、胴体から真っ二つになったゾンビの頭が地面に落ちるのと同時だった。


「ちょっ! ドニーッ!! 何やってるのよ! 2回目は流石に力の調整しなさいよ! 普段動物と触れ合うときも、殺してんの!?」


 一気に捲くし立てるユキエに、ドニーは肩をすぼめ小さくなりながら、言われたことに律儀に返事を返す。


「動物、平気。人間だと思うと、つい」


 ユキエは大きくため息をついてから、流石に言い過ぎたかと少しトーンを落としてから再び、ドニーへ話しかける。


「ごめんなさい。ちょっと言い過ぎたわ。それに人間相手だとついっちゃうんだって言うのは分かるわ。そういうことならアタシの隠された能力で掴まえてあげるわ」


 そう言うとユキエは三度、ゾンビを探し始める。


「あっ、居たわ。やっぱり結構いるわね。ゴキブリみたい」


 そんな感想を漏らしながら、ドニーにしっかりとスマホの持ち方を指導し、ゾンビを直接映させた。


「まず、呪いの第一段階。抵抗しないでよね。えいっ! かなしばり!!」


 その掛け声と共に、ドニーは指一本動かせなくなった。

 ゾンビはそんなドニーの様子にいち早く気づき、まっすぐにこちらへと向かってくる。

 どちらも死なない2人はそんな状況でもまったりとしており、ユキエはこれから何が起こるか懇切丁寧に説明をし始めた。


「アタシのビデオカメラでの呪いは、アタシと誰かがビデオに録画されると発動するのよ。ビデオカメラ録画者はかなしばりに遭い、それが解けるまでに、アタシがビデオ内で行ったことは全て回避不可能な現実になる。難点はフレームアウトされると何もできなくなることね」


 ドニーに説明しながらも、ゾンビの靴の紐を両足で結び、首吊りに丁度いい荒縄を取り出すと、ゾンビの体を縛る。


「はいっ! これで良し」


 そしてドニーのかなしばりが解けると、ゾンビは足をもつれさせ、一瞬転びそうになると、なぜかその動作によって靴紐が結ばれる。

 それでも真っ直ぐにドニーに向かうと、当然のように足が絡み、その場で倒れ転がる。

 すると不思議なことに、たまたまそこに荒縄が埋まっていたのが掘り起こされ、転がるうちにゾンビに絡み巻きついていく。

 最後にその荒縄はたまたま固結びになり、見事にゾンビの捕獲に成功したのだった。


「別に蝶々結びも出来るわよ! 出来ないから固結びにした訳じゃないんだからね!」


 誰も何も言っていないのに、勝手にそんな事を口走る。

 ここにエリザベスやバーサスがいたなら、「出来ないんだ」と心の中で思ったことだろうが、ドニーは素直にユキエの言葉を受け止めた。



「エリザベス。これでいいか?」


 バーサスは首根っこを掴んでいた人間の男を無造作に放った。


「まだ人間が居たとは驚きだ」


 エリザベスは嬉しそうに声を上げる。


「他にも2人いたが、この男は我を見ると、その仲間たちを我への餌にしようと、突き出して自分だけ逃げようとした。エリザベスやドニー好みの人間だと思いこいつだけ連れてきたが」


「ああ、一人いれば充分だ。それに、私は人間なら皆等しく好みだが、ドニー好みなのは間違いないね。さて――」


 エリザベスはその男を踏みつけると、ハンカチで男の目を塞ぐ。


「キミは運が良ければ生きて帰れるかもしれない。そのときに私の顔を見ていると都合が悪いのだよ。この目隠しがどういう意味を持つか判るかい?」


 つまり、この目隠しさえ解かなければ、生き残れるかもしれない、見逃してもらえるかもしれないということで、男は全力で首を縦に振った。


「ふむ。理解力があるのは私も好きだ。じゃあ、最初の実験を始めようか」


 エリザベスはゾンビの唾液を小枝に付着させると、男に無数にある生傷に塗りつけた。


「さてさて、どの体液でゾンビ化するか楽しみだね。まぁ、すでにある程度予想はついているがね」

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