第27話「VSゾンビ その5」

「……95、96、97」


 エリザベスは300万はくだらないカルティエの腕時計で時間を測る。


「98、99、100……。やぁ、特に気分に変化はないかい?」


 目隠しされた男はエリザベスの声に、肯定の頷きで返した。


「じゃあ、次はこっちだ」


 エリザベスはゾンビを解剖するのに使ったメスで男の肩を切りつける。


「ッ!!」


 不意の痛みに男は身をよじり、その傷をなんとかしようとする。


「ああ、大丈夫だ。死ぬような傷じゃあないよ。むしろ私としては死ぬ傷だと勘違いしてそのまま本当に死なれる方が困る」


 目隠しされた男はエリザベスの言葉を理解し、大人しくなる。


 そして数分後。

 男には何の変化も起きなかった。


「そうか……、残念だ。唾液、血液と試しても感染しなかった。これで、こいつには体液による増殖・感染はないことが判ってしまったな。異世界のゾンビ、ちょっとぬるいんじゃないのかい」


 心なしか残念そうな表情を浮かべるエリザベスだったが、ユキエの声により、その表情は一変する。


「エリザベス。捕まえてきたわよ!」


「おおっ! ちょうど良いタイミング。流石ユキエだ!」


 エリザベスはユキエに体があったら抱きしめていたくらいの歓迎を見せた。


「これでもう1つの実験が出来る! 良しっ、そうと決まれば私の研究室ラボに急ごう! そこには武器も山ほどあるし、敵もわんさかいる。きっと楽しい虐殺が出来るぞぉ!」


「いや、敵はわんさかいなくてもいいんだけど……」


 ユキエは渋い顔を浮かべるが、反対にバーサスはその言葉に喜々として反応した。


「お前ら、早く行くぞ」


 気がはやるバーサスだったが、ふと、ゾンビのような相手に対して効果的な武器を持っていないことを思い出し、ドニーが持って来た元ドライアドだった丸太を拾った。


 死体で死体を潰す地獄絵図の完成なのだが、このメンバーにその事を気にするものはいなかった。



「…………行った、のか?」


 目隠しをされた男はエリザベスたちの気配が遠のくのを感じ呟いた。


「おぉい! もうこの目隠し取っていいのか? おいっ!!」


 どれだけ叫んでも返事は返ってこない。


「返事がないってことは取っていいってことだな!」


 男はゆっくりと目隠しを外し、そして、一か八かの思いで周囲を見回した。


「ハ、ハハッ。誰もいやしねぇ。クソッ。外して良いならちゃんと言ってからどっかに行けってんだよ! ぺっ!」


 男は口に入った土ごと文句を吐き出す。


「あの怪物に捕まったときはマジに焦ったが、やはり神は俺を見捨ててないようだ」


 仲間を切り捨ててでも生き残ってきた男は、口元を歪め、凶悪な笑みを浮かべる。


「それに、あいつら、エリザベスとかって言っていたな。確かこの近くの屋敷に、エリザベスって女がいたな。もし同一人物なら、金になるかもしれない。確かめる価値ありだな。ふふっ、運が向いてきたんじゃないかぁ」


 男はエリザベスの屋敷があった方向へ向かって歩き出した。

 屋敷跡地に群がるゾンビに食われる運命とも知らずに。


「な、なんだこいつら! ゾンビっ!? 痛っ! 噛むなっ!! 俺はこれから生き残って、金を得て、幸せに暮らすはず……、やめっ、やめろっ! あ、ああ……」


 

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