第25話「VSゾンビ その3」

「あっ、ドニー。そこの樹の影、怪しいからちょっと、スマホそっちに向けて」


 ドニーはたどたどしい手つきでスマホを横向きに構える。


「いや、違う、逆よ逆! これじゃあ、自撮りになっちゃう!」


 何をどうしていいか、わからないドニーは小首を傾げ、右にスピーカーが位置するところを左に持ってくる。


「いや、そうじゃ……。もういいわ。こっちでカメラの機能を自撮りにすれば、普通に写るし」


 ユキエはスマホを操作して、自撮りモードに変更する。そして撮られた動画の死角を調べる。


「残念。何もいないようね。もう少し先に行ってみましょ!」


 ユキエの言葉に従い、ドニーは歩き出す。


「うーん。一時は落とされる心配をしていたけど、案外、これは快適ね!」


 鼻歌でも歌いだしそうな勢いでくつろいでいると、急にドニーが止まる。


「わわっ! ちょっと、どうしたの?」


 スマホが揺れただけで、別にユキエが揺れた訳でもないのだが、驚きの声を上げる。


「死臭、する」


 ドニーは庇うようにスマホをポケットに仕舞う。


「ちょっ!? 何も見えないんですけどっ!? これ、アタシいる意味無くなるわよ!」


 ユキエの言葉を無視し、ドニーはズンズンと進んでいく。


 木々を掻き分けると、そこには、遠目には人間だが、近くで見ると明らかに人間とは一線を画す様相のモンスター。ゾンビがゆっくりとした足取りで腐食した体で重そうに歩いていた。


「見つけた」


 ドニーが呟くと同時にゾンビも気づいたようで、こちらへ向かってくる。

 瞬時にドニーは迎撃に走り、ゾンビの首を掴む。


 ぐしゃ!


 ゾンビの首は腐食のため、ドニーの力では簡単に崩れ落ちた。


「……どうしよう」


 エリザベスとの約束を守れず落ち込みながら、自分一人では解決は無理だと思い、ポケットからスマホを取り出す。


「ユキエ、どうしよう」


 スマホを向けた先にゾンビの死体が映り、全てを理解したユキエは、胸を張って、


「探索ならアタシに任せなさい!! ゾンビの1体や2体、追加ですぐ見つけてあげるわよ!!」


 その言葉に、ドニーは羨望の眼差しを向けた。



「おい、バーサス見てみろよ。このゾンビ、眼球もぐしゃぐしゃだ。これじゃあ、機能は見込めないんじゃないか」


 ゾンビの至る所にメスが入り、その中で眼球についてエリザベスは興味を抱いた。

 

「臓器も機能していないのは予想通りだったが、眼球までとなると、脳も機能しているか怪しいところだ。いったい、こいつらは何で動いているんだ?」


 エリザベスの呟きに、


「急所がないという事か?」


 バーサスは殺す上で重要な質問を述べる。


「いや、これだけ損傷や腐食が激しいと、四肢以外どこも急所と言えるだろうね。普通の人間が行動不能な状態にすれば、こうして動きを止めるのだろう」


「ふむ。それなら問題ないな」


 エリザベスはしぶい顔をしながら、チラリと横にいる子リスに視線を送ってから、諦めたように息を吐く。


「あとは、どうしたら、他者をゾンビにするかを知りたいのだが、流石にバーサスにその危険を冒させる訳にもいかないし、そこの森の生物に試したら、ドニーが怒るだろ。結果、戦力が減るのは避けたいのだが……、試したい」


 今度はバーサスをちらりと見る。


「どうしたら、いいと思う?」


 仲間もダメ、森の動物もダメ。それなら答えは1つしかない。エリザベスも分かっているはずなのに、わざわざ訊ねるということは、そういうことなのだろう。


「人間なら問題ない。わざわざ我に言うということは、調達して来いということだな」


 エリザベスはニヤリと笑みを浮かべ、「流石、話が早くて助かる」と暗に命令してきた。


「いるか分からないが、探してみよう。その間は自分の身は自分で守れ」


 バーサスは残り1発のベレッタをエリザベスに返すと、実験体となる人間を探しに歩き出した。


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