第21話「VSドライアド その2」

 ドニーはドライアドを見つめると、ぐっと足に力を込め、走り出す。


「ふんっ、貴様は別に怖くともなんともないわっ!!」


 三度、魔法陣が周囲に展開される。


「わかっていれば。問題ない」


 チラリと魔法陣の方へ走りながら視線を送る。

 その一瞬の動作をドライアドは見逃さなかった。


「そうそう、何度も避けられる攻撃をすると思って?」


 さらに倍の魔法陣が生まれると、先のバーサスのときの比ではない量のツタが槍のようにドニーを襲う。


「問題ない」


 ドニーはツタが突き刺さっても、一瞬たりとも歩みを止めることなく、突き進んだ。


「へっ!?」


 バーサスが全てを避けていた為、この巨漢の怪物もどうにか避けるものだと思っていたドライアドは、驚きのあまり変な声を漏らす。

 そして、その1秒にも満たない動揺が命取りとなった。


「くっ、ならばっ!」


 慌てて手をかざそうとした、そのときにはもう、ドニーは目の前に現れており、ガシッと万力のような力で首を締め上げる。


「ぐっ、ががが……」


 ペキッペキッと小枝が折れるような音がドライアドの首元から小さく響く。


「接近。これで、無力」


 勝利宣言とも取れるような事実を口にしたドニーに対し、ドライアドは歯を食いしばり、最後の抵抗を行った。


「わらわを舐めるなよ……」


 葉で出来た髪が蠢き、ドニーの腕を締め上げる。わずかに緩んだ手を感じ、ドライアドは笑みを浮かべる。


「惜しかったのぉ」


 手を細く強く鋭利な枝へと変形させると、ドニーの胸部、心臓が位置する場所を貫いた。


「いかに防御力が高くとも、心の臓を貫かれれば死ぬであろう? これはダメ押しじゃ」


 ドニーの体の中で枝は枝分かれを起こし、五方向へと広がる。


「心臓は潰れ、内臓はぐしゃぐしゃじゃ! ホーホッホホ……ホ?」


 勝利の高笑いを浮かべたはずだったのだが、いつまで経っても力が抜けない手を不審に思うと……。


 メキメキメキッ!


「えっ!? どうなっておる!!」


 力が抜けるどころか逆に指がめり込み、手の平が圧迫してくる。


「ま、まさか、これでも死んでいない? それどころか、ダメージさえないというのか? そんな、ウソじゃ」


 ゴキンッ!!


 一際大きな音を立て、ドライアドの首は2つに折れ曲がった。

 ドニーは静かに枝葉が絡みついた腕を抜くと、ドライアドは力なく地面へと堕ちた。


「ふんっん」


 大きく息を吐き出し、胸部から突き出した枝を折ると、何事も無かったかのようにバーサスの方を向き直る。


「これで、終わり」


 バーサスは頷き、ながらドニーを出迎え、


「不死身を最大に生かした良い戦いだった。相手のドライアドも最後まで勝とうとする姿勢は敵ながらあっぱれだったな」


 気分良く、そう評していると、「ピピピッ! ピピピピッ!」と腕につけた通信機が鳴り出す。


 いぶかしみながら、着信を取ると、不吉な声が耳へと届く。


――ハロー。そっちはもう終ったと思っている頃かな?


 エリザベスの声に、バーサスは顔をしかめる。


「どういうことだ?」


――いや、言い忘れていたんだが、もし彼女がドライアドなら、本体の樹もあるはずなんだけど、それも倒したかい?


「いや、緑の女は倒したが、樹はまだだ。場所も不明だ」


――そうか、そうか、それなら、相手はキミらを知って逃げているはずだ。『逃げているんだ』これをドニーに伝えてくれ。あとは彼がどうにかするだろうさ。


「それはいったい――」


 詳しく聞こうと思ったところで通信は一方的に切られた。

 バーサスはチッと軽く舌打ちすると、今のエリザベスの言葉をドニーに伝える。


「わかった。大丈夫。任せて」


 ドニーはそう言うと、バーサスにも知覚されず、森へと消えていった。


「消えた? 今のは……」


 一人残された形となったバーサスだったが、ガサガサという物音に反応し、振り向くと、数体のカニバル・フラワーとファンガス1体が出現していた。


「そういえば、残り香があったな。いいだろう。暇つぶしとドニーの梅雨払いだ」


 拳銃とツタのムチを構え、バーサスはカニバル・フラワーに襲い掛かった。

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