第20話「VSドライアド その1」

 バーサスとドニーの周囲には青々とした葉や真紅の花弁が所狭しと散らばり、ここだけを見たのなら、花嫁がフラワーシャワーの祝福を受けて通り過ぎたのではないかと思える程、粉々になったカニバル・フラワーは美しかった。


「これは、いったい……。誰かおらぬかっ!!」


 仲間のものではない、聞くものを萎縮させるような甲高い声に2人は振り向くと、そこには緑色の女性が佇む。

 その緑の女性は肌が緑色であることを除けば、一見普通の人間のようだが、その髪を間近に見ると、葉と枝の集合体となっており、人間ではなく植物系のモンスター、ドライアドであることが伺えた。


 ドライアドは汚物でも見るかのような目で、バーサスとドニーを視線の端に置く。


「誰も、おらぬのか?」


 周囲の敵は一掃され、すぐにドライアドの呼びかけに反応するものはいなかった。


「チッ。使えねぇーなぁー! たかだか現地人ローカルにわらわの手をわずらわせやがって」


 カニバル・フラワーの死体に対し、ペッと唾を吐き捨てる。


「……仲間に」


 ドニーは悲しそうに呟く。


「はぁ? 仲間? 死んだら土に返るただの肥料だろうがっ! そこらたの糞便と変わらぬわ!」


「肥料。植物の栄養に」


「ふんっ、それは、わらわのような上位種には関係ない話ねぇ。わらわは、人間や動物を捕食し養分を得るのよ。死体や糞便から染み出て土と同化した栄養をチマチマと吸うのは下級なのよ。下の下よ」


 先ほどのドライアドの汚物を見るような目は自分たちだけではなく、その下で眠る仲間たちにも向けていたことを悟ったドニーは怒りの咆哮をあげ、突撃した。


「ふんっ。突撃するしか能がないのか?」


 周囲の木々に魔法陣が刻まれると、そこからツタが生え、ドニーに襲い掛かる。

 死角から襲うツタに手や足を貫かれるが、ドニーは止まらず、ドライアドへと向かっていく。


「脳筋もここまでくると、あっぱれね。でも、無駄よ」


 ドライアドが手をかざすと、そこから魔法陣が生まれ、巨木が飛び出す。


「ぐがっ!!」


 巨木によって押し飛ばされたドニーはゴム鞠のように何度も弾み、最後には木へぶつかってようやく動きを止める。


「まずは一人ね。まったく、こんな雑草に手を焼くだなんて、また1から品種改良しないといけないわね」


 すでに戦いは終ったとでも言いたげな、無関心な眼差しをバーサスに向ける。


「あなたも早く、死んでくれる?」


 再び、周囲の木に魔法陣が刻まれると、ツタが、今度はバーサスを襲う。

 バーサスは周囲を呆然と眺めながら、ツタが迫るのを待つ。


「ふむ。やはり我には理解できないな」


「そうよね。わらわの魔法は至高そのもの、たかが現地人ローカルに、魔法の強さも美しさも素晴らしさも理解できるはずがないわ。オーッホッホホホ」


 手を口にあて、わざとらしい高笑いを響かせる。


「いや、なぜ、わざわざ死角から攻撃するのに、バレバレの魔法陣を浮かべるのだ? 仮にトラップのように使いたいとしても、これでは意味がない」


 バーサスには完全に死角から来ることがすでにわかっていた為、ツタを全く見ずに最小の動きで、全てをかわす。


「なっ!?」


「昔戦ったゲリラの方がよほどトラップは上手かったな。そういえば、我の一族の者が一人、トラップで殺られたらしい。こんな攻撃じゃ何回やっても我には当たらないし、やはりこちらの人間の方がよほど恐ろしいな」


 一人過去を思い出しながら、「う~む」と頷いていると、それを挑発と見てとったドライアドは、ドニーを押し飛ばした魔法を展開する。


「よくもわらわをコケにしたな!!」


 魔法陣から巨木が飛び出そうというそのとき、バーサスは逃げるどころか逆にドライアドに向かって走り出した。

 そして手から出る前に、腕を振るう。

 バーサスの手にしたツタのムチがドライアドのその手を少し下へ叩き落とした。


「なにっ!?」


 巨木はドライアドの足元にめり込み、その反作用でドライアドは後方へ大きく飛ばされる。


「くっ!!」


 ドライアドの手がツタへと瞬時に変わると、それで近くの木へ掴まり、落下を防ぐ。


「前回のダークエルフというのもそうだったが、タイムラグがありすぎる。自爆の危険もある。魔法は2度目だが、やはりこれなら普通に銃火器の方がよほど魔法じゃないか」


「おのれ、おのれ、おのれ、おのれ!! 許さんッ!! 貴様は確実にわらわが養分を吸い取って、血の一滴すら残らぬ搾りカスにしてやるわ!!」


 バーサスは楽しくなってきたなと思ったとき、背後に気配を感じた。

 ふっと力を抜き、一歩下がると、変わりに袋を被った巨漢の怪物、ドニーが姿を現す。


「選手交代だ。本来はお前の相手だからな。一人で勝てそうか?」


 バーサスの問いに、ドニーは静かに頷いた。


「2度、見た。バーサス、回避教えてくれた」


「なぜ、こやつ生きておるのじゃ?」


 驚くドライアドを尻目に、ドニーは強い眼差しを向けた。

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