第19話「VSカニバル・フラワー その2」

「ねぇ、エリザベス。全然こっちに敵来ないし、アタシたちこんなくつろいでていいのかな?」


 ユキエは、若干の罪悪感を感じながら訊ねる。


「ん、ああ、いいんじゃないか。敵は全部バーサスの方に行ったはずだし」


「え? どういうこと?」


 ユキエは小首を傾げて、頭に「?」を浮かべる。


 ニッと凶悪な笑みを作り、エリザベスは優雅に足を組み直す。


「ユキエはバーサスが匂うと思わなかったか?」


「えっ!? そんな悪臭あったかな~? う~ん、お風呂とか入って無さそうだし、悪臭はしそうよね。でも途中からメイプルシロップみたいな甘ったるい匂いで気にならなかったわね」


「熊は自分の獲物の臭いをつけた相手を延々追い回すという。ユキエの動画を見る限り、あのカニバル・フラワーの甘い息もその類いだろう」


「えっと、つまり、今、バーサスは臭いを撒き散らしていて、敵からすれば絶好の標的ってこと? それ、教えてあげれば良かったんじゃない?」


 エリザベスは心底不思議そうな顔をすると、


「何故だい? バーサスは多くの敵と戦えるし、ドニーもやり返せる。私たちは安全に過ごせるとWIN・WINの関係じゃないか。まぁ、それにバーサスならそろそろ勝手に気づくだろうさ」


 ユキエはバーサスがこういうところがイヤだと言っていたことを思いだし、得心したが、それと同時に、自分の安全は守られているから、この作戦、なかなかいいじゃんとも思った。


「そうね。さっきまではバーサスがやられると困ったけど、今は、別に死んでもそこまでアタシは困らないものね! じゃあ、心配事もなくなったし恋話でもしよっ!」


 自分の利益100%の考えを、ユキエはあっけらかんと言い、女子会をするかのノリで恋話などといい始めた。


「エリザベスは、バーサスとドニー、付き合うならどっち?」


「なんだ、その非常に困る質問は……」


 珍しく、エリザベスは苦笑いを浮かべた。



(おかしい。敵が明確にこちらへと向かってくる。これは何かあるな)


 バーサスはファンガスには探知されていないことからカニバル・フラワー固有の何かがあると踏み、先ほどまでで思い当たる行動を探った。


(考えられるのはドニーがツタで巻かれたことか、我が臭いをつけられた事のどちらかだろう)


 バーサスは木の上へ登り、ドニーはそこから少し離れた場所で待機していると、次に現れたカニバル・フラワーは迷いなくバーサスの方を襲った。


「確定だな」


 バーサスは木から飛び降りると、重力を利用し、カニバル・フラワーに木の槍を突き立てた。


「ドニー! 奴らは我の臭いに引き寄せられている。だから我が寄せ餌になる。不意をついてカニバル・フラワーを始末してくれ」


 ドニーは大きくコクリと頷く。


(さて、あとは正面から戦える武器があれば完璧なんだが……)


 バーサスが周囲を見回していると、


 ブチブチ! ブチッ!


 繊維質な物体が千切れる音が響く。


「バーサス。これ。使う」


 ドニーはカニバル・フラワーの強靭なツタをやすやすと素手で千切るとバーサスへ手渡した。


「なるほど、ムチになるな。助かる」


 ヒュン、ヒュンと空気を切り裂く音を鳴らし、何度か振るい手に馴染ませていると、ちょうど良く数体のカニバル・フラワーが現れる。


「時間さえ稼げば、ドニーが始末してくれるんだ。簡単な作業だな」


 襲い来るツタをムチで叩きながら、バーサスはドニーが背後から忍び寄る時間を稼いだ。


 数十秒の後、カニバル・フラワーはぶちぶちっ! と言う音と共に、その存在を消した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る