第3話「巨漢の怪物」
「キャハハハッ!!」
周囲が森に囲まれた湖近くのキャンプ場。そこに少年少女たちの笑い声が響き渡る。
……うるさい。
巨漢の怪物ドニーは不愉快そうに眉をひそめる。
バシャバシャ!
水面の水が走り回る彼らによって乱される。
うるさいっ。
「ウェーイ! ウェーイ!!」
ウェーイしか語彙がないのか、少年少女たちはそれしか言わない。
うるさいッ!
「…………」
やっと静かになったかと思うと、今度はボチョン、ボチョンと湖へ何かを捨てる音がドニーの耳に入る。
目障りな騒音にクリスタルのように透明で美しい湖を汚す輩に、とうとう巨漢の怪物は我慢の限界を向かえ、立ち上がった。
「……ふぅ~」
ゆっくりと息を吐き出し、ドニーは大股に歩き出した。
湖にはゴミが散乱し、怪物はその様子に心を痛めながら、ビニール袋を拾い上げる。
自身の顔に酷くコンプレックスを抱える巨漢の怪物は、目の部分となる場所に穴を開けると、そのビニール袋を被った。
本人にとっては顔も隠せるし、ゴミもリサイクルでき、一石二鳥の行いだった。
ビニールを被ったドニーは、空き缶や割れた空き瓶を律儀に拾いながら、目的の人物たちを探した。
そして、その人物たちを見つけると、少し様子がおかしく、ドニーへと向かって一心不乱に走ってくる。
「?」
ドニーは今までありえなかった光景に一瞬戸惑ったが、それでも先頭を走る男を捕まえ、持ち上げると、割れた空き瓶を突き刺す。
「こっちにもモンスターが……」
絶命する直前、男が語った内容が、なんのことかわからずドニーは首をひねった。
その間にも、叫び声を撒き散らしながら、他の少年少女たちはドニーの脇をすり抜けて走っていく。
巨漢の怪物は意識を切り替え、彼らの追跡を開始しようと、男を放し、踵を返した。
ゆっくり大股で歩き出そうとすると、左脚に違和感が訪れた。
「??」
見ると、そこには植物のツタが巻きついており、まるで明確な殺意を持って締め上げてくる。
ただの人間ならばすでに足が千切れ飛んでいるところだが、逆に巨漢の怪物はツタを難なく千切る。
「???」
怪物はよくわからぬ攻撃のようなものに疑問符を浮かべていると、殺したはずの男性の体が宙へと舞うと湖に面した森の中へと引きずられていく。
「!?」
大きな体を最大限駆使し、怪物は森の中へと入ると、そこには今まで見たことのないようなツタで構成された植物の姿があった。
花弁がまるで口のように大きく開き、中にはキバが覗く。根はまるで脚のように地表へ露出し蠢きつつ移動する。
この世界ではありえないモンスターと呼ぶに相応しい植物が人間を丸呑みにしていた。
その植物は人間だけではなく、周囲の小動物やまだ年数のいっていない若木なども手当たり次第に飲み込んでいく。
ボトンッと子リスが樹上から投げ出され、地面へと打ち付けられる、
その光景にカッと怒りを
「モリ。守る」
一体を
植物モンスターは根を動かし、見た目よりも素早いスピードで巨漢の怪物へと向かう。
しかし、ただの動く植物程度では巨漢の怪物の敵ではなく、次々に破壊していった。
怪物はビニールの穴から見える景色の範囲では敵がいなくなったことを確認し、下へ落ちてしまっていた子リスを拾うと樹へと戻した。
「リス。カワイイ」
ビニール袋の下でニコリと笑みを浮かべる。
これにて一件落着。これで心置きなくうるさい若者どもを殺しに行けると思った矢先、自分の意思に反し、片膝をつく。
「コレハ??」
微かに視界にモヤがかかり怪物は眉をしかめた。
周囲を見渡すと樹木の影からキノコのようなモンスターが現れ、胞子をフンッフンッと撒き散らしている。
「ドク!?」
怪物自身だけではなく、その胞子の毒は、周囲の動物や、樹木にまで影響を与え、動物は死に絶え、樹木は溶ける様に枯れていった。
巨漢の怪物も徐々に意識を失っていく。
朦朧とした意識の中、ドニーは子リスだけでも助けようと巣穴に手で蓋をする。
そんな中、怪物はビニールの穴から、人と変わりない姿をした緑色の女性が近づくのを見た。
「あら? ずいぶんしぶとい
新たに現れたカニバルフラワーがツタをうねらせ、怪物を突き刺す。それでも絶命しない様子を見ると、今度はツタで全身を締め上げる。しかし、四肢を千切る事も不可能と見ると、締め上げたまま、カニバルフラワーは根を下ろした。
巨漢の怪物は思った。
このままではこの静かで美しい自然が汚される! 誰でもいい! この拘束を解いてくれと。そうしたなら、こいつらを根絶やしにしてやる。と。
ドニーはただただ、待つことしか出来ない自分に歯噛みした。
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