第12話

検べますから、といって彼女は自宅から二組の軍手を持ってきた。秀太には小さかったが無理やり手を突っ込んだ。

そして、老婆のいる部屋に堂々と向かう安川氏の後を追う形で、秀太は扉の前に立った。


「奥様、開けてもよろしいですか?」

返事はなかった。何度もノックしても同様。

心胆から震える秀太をよそに、安川氏は扉に手をかけた。

「入らない方がいいですよ」

「なら黙っててくださいっ」

安川氏は再び足を踏み入れた。老婆はぐったりとしていたが、二人が進入したのを見て唸り吠えはじめた。気にせず部屋を検める安川氏の猟奇趣味を疑ったが、その顔には彼女がおぞましさを圧し殺しているのが見てとれた。


昨晩は暗くて見えなかったが、老婆は眼が見えていないようだ。手を振り回してもがいているのも、見えないが故のことだったらしい。彼女の眼は白濁としていた。

部屋中が黒ずんだ血や、吐瀉物や汚物で汚れていた。安川氏は秀太のスマホでそれらを撮影した。臭いに耐えきれなくなったようで、使い捨てマスクをつけた。

「あの、僕の分は」

「忘れてた、ごめんな」

安川氏は悪びれる様子もなく物色を続けた。老婆の体を検査するだけでなく、不衛生なカーペットの下まで確認してから、いよいよと覚悟をして襖をあけた。


そこにしまっていた段ボールを取り出した。それは、一ヶ所穴が空いていて、そこからケーブルが延びている。先端はコンセントに刺さっていた。秀太を手招きした。

段ボールの中には、小型の冷蔵庫が入っていた。

安川氏に命じられるまま、秀太は冷蔵庫を開けた。

「これ、どう見ても身体だと思うんだけど」

段ボールの中には、真空パックされた肉体が入っていた。指や耳、そして千切れていた右足など、おそらく彼女の欠損部位はここに収納されているだろう。


安川氏は袖に手を当てて嗚咽をしていた。秀太は老婆を見つめた。

「どうしてこの人は死んでいないの?」

冷蔵庫の中の肉片は、サキによって千切られたものだろう。毎夜、このような拷問が行われていたとすれば、老婆の悲鳴は当然であった。

「矢柄さんはこんな人だったんですか?」

「私たち越してきたばかりなので知りません」

「ご近所付き合いとか無かったんですか」

安川氏はもはや手に負えないと、秀太に有無を言わせぬまま警察に電話をしようとしたときである。

「安川さん、そのスマホをこっちに寄越してください」

文化包丁を握ったサキが立ち塞がっていた。

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