Lv.45 コラボレーションをしよう

「魔王さまが何でもいいって仰って下さったじゃないか!」

「だから、何でもいいんだったらハンバーグで良いだろう!」


「そんなもんいくつも作れないだろうが!」

「肉をたくさん仕入れて来れば済む話じゃないか!」


「ここはカレーパンで行くのが筋ってもんだろう! 」

「カレーパンこそたくさん作れないだろうが!」


「いい加減にしないか!」


 沢渡の怒声で静まり返る店内。言い争っていた魔道士とお化けネズミは口を噤み、シュンとなる。2人がぶつかったであろう島陳は派手に崩れ床には商品が散乱していた。


「お客さまが居るのにみっともない。一体何をケンカしているんだ!」

「ネズくんが魔王さまとコラボするのはハンバーグが良いって言うから……」

「お前こそカレーパン何て提案しやがって!」

「何だと!」


「あー、もう! 止めないか!」


 再び掴みあいになりそうなのを離して沢渡はため息をつく。


「コラボを決めるのはスライムくんの仕事。意見があるのならスライムくんに伝えるように。ほら売場直して」


 商品を拾う沢渡を見て2匹は渋々落ちた商品を拾う。騒ぎを見ていた他の従業員も手伝い始めたので彼らに任せて沢渡は休憩に戻った。


 ロッカールームでは食事を終えた魔王とスライムが楽しく談笑していた。今日の商談に合わせて魔王は魔王城から足を運んでくれていた。これからはこうして時々店を訪れて貰うことになっている。


「やっぱり、ボクとしてはプリンがおススメなのですよね」

「プリン? 何だそれは」

「卵と牛乳と砂糖を合わせたとっても美味しいデザートです」

「ほう」


「ポイントはバニラというとっても良い香りのスパイスなんですけど、嗅ぐととっても良い香りがするんです」

「ほう、それは興味があるな」


「バニラを取ってきましょうか」


 スライムは慌てて調理場へと駆けて行った。

やり取りを見ていた沢渡は魔王の対面に座るとポットのお湯をマグカップに注いで2人分のドリップコーヒーを入れた。


「さあ、魔王さま。コーヒーです」


 差し出されたコーヒーを魔王はまじまじと見つめながらカップを受け取った。


「……」

「コーヒーは飲まれたことはないですか?」


「いや、幼き頃勇者アスタナの家で賞味したことがある」

「ああ、仙人はコーヒーが大変お好きですからね」


 魔王はじっくりと丁寧に香りを嗅いでひと口飲んだ。そしてたったひと言。


「美味くない」

「美味しいですよね、こんな簡単に淹れられて手軽で……えっ、美味くない?」

「うむ。美味くないと言ったのだ」


 沢渡は言葉を無くしてコーヒーカップを見つめた。


「勇者アスタナの家のコーヒーはそれは美味かった。もっと香りが強く、程よい苦みがあり印象に残る味だった。このコーヒーは飲みやすいがそれが無い」

「なるほど」


 頷いているとスライムが調理場から戻ってきた。


「魔王さまー、バニラを持ってきました!」


 小さな黒い枝で一見ゴミと勘違いしそうな見た目の不思議なもの。魔王はそれの匂いを嗅いだ。


「ほう、わずかだが良い匂いがするな」

「開いて中身を取り出すともっと良い香りがするんです」


 魔王は「そうか」と頷きバニラをスライムに返した。


「コラボレーションするのはお前の望み通りプリンでよいぞ」

「ホントですか!」


 スライムは目を輝かせた。沢渡も納得して喜ばしく思っていた時だった。


「大変です! 沢渡店長」


 血相を変えて飛び込んできたのはがいこつ剣士だった。


 慌てて店内に行くと従業員がレジ業務もフロア業務も放りだし真っ二つに割れて言い争いをしていた。


「ガイさんこれは一体……」

「ハンバーグ派とカレーパン派に分かれて論争をしているのです」

「あー」


 沢渡は頭を抱えた。


「ハンバーグに賛成の方ー」

「ハーイ」


「カレーパンに賛成の方ー」

「ハーイ」


 左右に分かれ手を挙げあっているだけで根本的な解決にはなっていない。


「今はその話はおしまい! みんな今は仕事に戻って……」


 パンパンと手を叩いた沢渡に従業員が訴えかける。


「どっちか決めてもらわないと仕事出来ません!」

「……」


「そうだ、魔王さまがいらっしゃるからどちらか決めて貰おう」

「みんな悪いけれどコラボレーションするのはプリンに……」

「……」


 沢渡の声にみんなが「アー」と一斉に肩を落としたのが分かった。

沢渡は困ってしまいそれ以上何も言えなくなった。シンと静まる店内で魔王が「ううん」と声を上げた。


「コラボレーションする商品は1つで無くともよいのだぞ?」


 途端に満ちる希望。みんなが笑顔の花を咲かせる。


「魔王さま、ありがとうございます!」


 みんなキラキラとした笑顔を浮かべ抱き合って喜んだ。





「長い布ありますか?」

「お客さん長いってどのくらい?」


 問い返された高橋はうーんと首をひねる。メートルで言って通じるのだろうか。


「ええっと、長ければ長いほど良いんですけど。この壁からあっちの壁に届くくらいの」

「これでいいかい?」


 店主がゴソゴソと漁って出してきたのは真っ赤な布だった。広げてみると確かに壁から壁に届く。


「赤か……出来れば白が良かったんだけど」

「この間大量に仕入れて余ってしまったんだ。これなら安くしておくよ」

「赤だと目立つから、かえって良いかもしれないわよ」


 リズが横で頷く。高橋は心を決めると「それください!」と言った。




「布は赤だからペンキは白だよなー」


 人々の行きかうクイーンズベリーの中央通りを通りながらこんどは塗料の店を探す。探している途中、武器屋の前を通った。


「お兄ちゃん、良い武器あるよ。買って行かないかい?」

「良い武器かー。福引きの景品に良いかもしれないな」


 高橋は台の上に並んでいた武器の1つを手に取った。


「おお、お目が高い! それはあの伝説の勇者アスタナが冒険初期に使っていた銅の剣」

「要するにただの銅の剣ってことね」


 良いながら高橋は銅の剣を元の位置に戻した。


「良い武器ならもしかしたら仙人が持っているかもしれないわ。譲ってもらうことは出来ないかしら」

「あっ、リズ冴えてるじゃん! そうしよう」

「えへへ」


「じゃあ、ここではいくつか普通の武器を買って行こう。特賞以外の賞も用意しとかないと。おじさんたくさん買うからおまけしてね」




 その後、高橋とリズは露店を巡り、武器の他、防具、アクセサリー、さまざまな物を手に入れた。武器屋でリヤカーを借りてまとめて町の外に停めている馬車まで運んでいる最中だ。


「帰ったら福引きの抽選券作らないと、コピー機を使っても良いかな」

「みんな頑張ってるから楽しいセールにしないとね。そうそう実は私、報告があってね」

「何?」


「私、なんと!」

「なんと?」


「食パン作っても良いって許可貰ったのー!」


 高橋は驚いた顔をしてすぐに笑顔を浮かべた。


「すごいじゃん! リズ。おじさんに認めて貰えたんだね!」

「実はちょっとおまけで認めてもらったんだけど、十分クオリティは満たしてるから良いだろうって」

「それって一人前ってことじゃない?」


「ああ、それはまだまだ。でも認めてもらえたってのは嬉しいな」

「なんかお店盛り上がってるなー。いつから売るつもり?」

「今日店に帰ったらみんなに食べてもらって良かったら明日から売るつもり」

「楽しみだなあ、リズの食パン」

「楽しみにしててね」


 高橋はウンと頷く。お店が盛り上がっている、そのことを嬉しく思った。


「それにしてもセール準備って忙しいな。おコメの炊き出しと福引きと料理教室と宝探しと競売とバルーンアートと……」

「それ全部やるつもり」

「やるよ?」


「それいっぺんにやったらお店爆発しちゃうんじゃないかしら」

「あはは、日を変えてやればいいんだよ」

「あ、そっか」


「楽しいセールにするぞー」

「おー!」


 高橋とリズは握りこぶしを空へと突き上げた。





 2人の買い出しから後日……


「えー、色々検討しました結果、魔王さまとコラボレーションするのは『プリン』、『ハンバーグ』、『カレーパン』、そして『コーヒー』の4品に決めました」


 スライムはみんなの前で自身の決定を述べた。みんな満足の様子で頷いている。沢渡はスライムに続いて話をした。


「これから2カ月かけて商品開発に取り組んでいきます。一番は魔王さまに御納得頂けること、そしてお客さまのため。大変かと思いますがみんなで力を合わせて準備に取り組んでいきましょう」


 高橋がパチパチと拍手を始めたのでそれにならってモンスターたちも拍手を始めた。みんな希望に満ちた良い表情をしていた。きっと良いセールになる、最高のセールになる。最高のセールにしよう! 

 沢渡はそっと心の中で誓った。

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