Lv.26 ゆ、ゆ、ゆ

「うう、うううう」

「ああ、ガイさん泣かないで」


 営業はモンスターたちに任せ、沢渡と高橋は事務所でがいこつ剣士に治療を施していた。土のついた顔を拭い、折れた骨はガムテープで固定した。がいこつ剣士はひとしきり泣いた後、顔を上げて少し怒りをにじませ犯人について語り始めた。


「今朝、店に来ていたら4人組の男女に出くわしたんです。大げさな鎧を着て、ちょっとエッチな服装を着て、魔法使いもいました。目があったのでご挨拶を、と思ったらいきなり襲ってきたんです」

「ガイさんは戦わなかったのかい?」


「応戦はしましたよ。でも多勢に無勢。おまけにみんな結構強くて。倒れたところを取り囲まれ、追いはぎに遭いましてボーナスを奪われてしまったんです」

「ひどい話だな」

「ワタクシ悔しくて悔しくて。せっかく頂いたのに」


 がいこつ剣士がまた泣き始めたので、少し休んでから店に立つように伝え沢渡と高橋は業務に戻った。



「嫌な人間もいるもんすね」

「まったくだね。ガイさん気にしてしまって可哀そうだな」

「ボーナス取り返せないっすかね」


「どうだろうね、ガイさんに勝てないのなら我々にはまず無理じゃないかな」

「うーん。お店のみんなで取り囲めば」

「これ以上ケガ人を出すわけにはいかないよ。みんな大切な従業員なんだから」

「そうっすねえ」

「みんなにも気をつけるように言わなくてはね」



 その日の仕事終わり、沢渡はがいこつ剣士を呼び出して茶封筒を差し出した。


「サワタリ店長、これは?」

「実はボーナスが少し余ってたんだ。良かったら貰ってくれないかい?」


 がいこつ剣士はフルフルと首をふるうと大変恐縮した様子で身を引く。


「そんな、頂けませんよ。取られてしまったのはワタクシのふがいなさが原因で……」

「悪いのはキミじゃないよ。だから受け取って欲しいんだ」


 沢渡の真摯な顔を見てがいこつ剣士はそっと手を伸ばすと茶封筒を受け取りぎゅっと抱きしめた。


「本当に、本当に何と言っていいか……」

「気をつけて帰ってね。1人は危険だからなるだけみんなで行動するように」

「はいっ!」


 がいこつ剣士は嬉しそうに返事をするとみんなの所へと向かった。


「店長あれ、店長のボーナスっすよね」

「構わないよ。別に生活かかってないから」

「町で買い物したいみたいに言ってたじゃないっすか」

「ああ、あれは蒲団が欲しくって」


「確かに! 自分もちょっと欲しいなって思ってました」

「今度町に行って余裕があったらでいいから私の分の蒲団も買って来てくれないかい」

「分かりました! まかせといてください」


 高橋はトンっと胸を叩くとにっこり笑む。


「でも、心配っすよね。危険な人間がいるみたいで」

「最悪、通勤は危険だから店で泊って貰うことも考えないとね」


 その時は単なる通りすがりの不幸な出来事。そう思っていたけれど、その話をした翌日、沢渡たちの心配をあざ笑うかのように第二の犠牲者がでた。



「みんなで取り囲んで一撃だったんです」


 涙目で当時の状況を語るドルイド。顔を腫らしてトレードマークの杖は折れていた。ガムテープで固定したけれど、使用できるかは分からない。やはりボーナスは奪われたようで、もしかするとがいこつ剣士を襲った人間がボーナスに味をしめて再び従業員を襲ったのかもしれなかった。


 この事態に従業員たちはおびえて、口々に帰りたくないと言う。怖がっている者を帰すわけにいかないのでその日は通勤を止めさせ、みんな店に泊らせた。



 翌日、昼の休憩が一緒になったミイラ男が高橋に教えてくれた。


「お客さんから聞いたんですけど、最近多いみたいですよ」


 ミイラ男が仕入れた情報によると襲われているのは従業員だけでなく客も、と言うことだった。モンスターを刈る人間がいても不思議ではないけれど、店側からすると大変迷惑な行為であることは間違いない。


「みんな家に帰れないってのは困りものだね。帰りたいでしょ?」

「ああ、いや寝に帰っているようなものだから別に困りはしないのですけど」

「ところでモンスターの家ってどんな所にあるの」

「……」

「ああ、内緒ね。ごめんごめん」


 こうして時々、モンスター側の事情に答えてもらえないことがある。みんな懐いてくれているけれど全ての秘密を明け透けというわけではなかった。


「危険な人間たちがいなくなるまで、店にいればいいよ。食べ物ならたくさんあるんだから」

「昨夜のてんぷら美味しかったです」


 高橋はみんなが店に泊るというので、昨夜張り切って軍隊アリと一緒に一口てんぷらを作った。肉や魚介は無かったけれどみんな大満足で喜んで食べてくれた。


「今日は何作ろうかな。売り物の肉や魚がちょっとしかないからね。使うわけにはいかないし」

「ところでお二人はどちらからいらしたのですか? 一緒に働いて思ったのですが普通の人間たちとは少し違う気がするのですけど。このお店にしても……」

「……」

「ああ、すみません。内緒ですね」


 ミイラ男はクスクスと笑うとベーカリーで買ったパンをかじった。


「まあ、話せないことがお互いにあるということだよね」


 高橋は笑いながら小上がりに寝転ぶ。


「ドラゴンさんに協力してもらって討伐に行くってのも考えとかないと」


 目を瞑り、頭でああでもない、こうでもないと考えをこねくり回す。店の従業員には正直あまり強いモンスターがいない。ガードマンを雇って従業員や客をその人間たちから守ることも考えるなくては。沢渡にも色々進言をしないと。そんなことを考えている間に眠ってしまっていた。


 高橋が起きるとミイラ男はいなかった。休憩時間はとうに過ぎていてなのに誰も起こしに来なかった。そのことを不思議に思い、呼びに来てくれればいいのにと愚痴を独りこぼす。しかし、次の人が休憩に来ていないというのもおかしい。もしかしたら店に何かあったのかもしれない。不安が押し寄せて急いで店内へと向かうと店内は騒然としていた。


 モンスターたちがみんなバタバタと店内を走り回りまるで徒競走をしているかの如く大パニック。高橋は目の前を通りかかったスライムをひょいと抱き上げ、「スライムくん!」と声をかけた。アワアワと揺れているのでほっぺをぎゅっと押してもう一度「スライムくん!」と声を大きな声で呼びかけるとスライムは我に返り、高橋の目を見た。


「何があったの?」


 高橋の言葉にスライムが体を震わす。


「ゆ、ゆ、ゆ、ゆ……」

「ゆ?」


 スライムはギュッと目をつぶりパッと開けてひと言叫ぶ。


「勇者が現れましたっ!」

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