Lv.17 買い取りします
馬車は村所有の物を3台借りられることになった。村内で作物を運ぶ時などに使われているそうだがとても状態は良く容量も大きかった。3台全部借りたいと言った時には村民はみんな驚いていたけれど、沢渡はそのくらいは仕入れる気でした。
馬車を風車の前につけて、その前に長机を設置し沢渡とスライム2人体制でやってくる村民を待ち受けている。しばらくしてはじめての村民がやってきた。リヤカーいっぱいにキャベツのような野菜を載せている。
「トルドーさんこんにちはー」
スライムが長机の上でピョコンピョコンと跳ねる。どうやら顔見知りらしい。
「余った今年のキャベツなんだけど買ってくれるかい?」
キャベツは日本の物に比べてとても色が濃く、玉もやや大きい。
「味見をさせていただけますか」
沢渡の頼みに「良いよ」と頷いてトルドーは外葉を1枚ちぎった。最初に半分スライムに食べさせて、沢渡も半分を食べる。
「うーん、絶妙な味ですねー」
スライムが唸りながらもう1枚要求している。
「非常に甘いですね。みずみずしくて歯ごたえもいい」
沢渡が頷くともう1枚くれたので受け取り食べる。
「保管は常温で大丈夫ですよね?」
「ああ、どこでももつよ」
1個当たりの買い取り価格は8ゴッドにして、全部で26玉なので全部で206ゴッド。現金を渡すとトルドーは「こんなにいいのかい?」と喜んだ。
原価のことは正直良く分からない。沢渡はバイヤーではないのである程度の知識しかない。店が経営していけるように、でもせっかく作った作物を買い叩かないように注意しながら取り引きを進めなければならない。
キャベツを馬車に積み込んでいると木箱いっぱいのリンゴをリヤカーに乗せた親子がやってきた。長机の前にリヤカーをつけて、「ああ、重かった」と息をつく。木箱の中を見ると色の薄いリンゴ。とても小さくて不揃い。状態も極めて悪く、ぱっと見、あまり美味しそうには見えなかった。
味見をさせてもらうと見た目以上の味がせず、正直あまり美味しくなかった。このレベルの商品は店に置きたくない。どうやって断ろうと考えているとスライムがズバリ言う。
「これは美味しくないですよ」
女性はマッと顔を紅潮させ、「要らないものを売れって言ったじゃない!」と金切り声を挙げた。察するに女性はたくさんとれたリンゴの中からあまり熟れていないリンゴを集めて、持ってきたらしかった。
「申し訳ありません。要らないものでいいのは確かです。ですが、我々といたしましても置いて売れるものでないと買い取ることができないのです」
「ジャムになら出来るわ!」
「モンスターもジャムを作るのですか?」
問うと女性は不機嫌に「帰るわよ!」とヒステリックに言って、リヤカーと娘とともに帰ってしまった。
「帰っちゃいましたね」
スライムが後ろ姿を見送りながら気にしている様子を見せた。沢渡は声をかける。
「スライムくん、あれで良いんだよ。我々はお店の品格を守らなくちゃいけないんだから。どんな商品でも置くというわけにはいかないからね」
そうしていると今度はイノシシがリヤカーいっぱいの葉野菜を持ってきた。
「あ、カブリの葉だ!」
スライムは長机を飛び降りるとイノシシの元へと跳ねた。リヤカーに飛び乗り、嬉しそうにしている。
「とびきりの良いヤツだけを集めてきたぜ」
カブリの葉は見た目はホウレンソウのような見た目、けれど食べさせてもらうとわさび菜のようなピリリと効いた辛さ。美味しいけれどそんなに売れるだろうか、と心配するとスライムが「じゃあ、全部ください」と言った。
「ちょっとちょっとスライムくん、全部は……」
慌てた沢渡をイノシシが笑う。
「ちょっと辛いと思ったんだろう?」
「はい」
「人間は辛いっていうけれどモンスターはこの辛みの効いた味が大好きなんだ」
「スライムくん、そうなのかい?」
「そうなんです。ボクもカブリの葉大好きで。きっとすごく売れると思うんです」
「そうかなあ」
半信半疑だが、沢渡はモンスターでないし、モンスターの事情は彼らにしか分からない。2人を信じてリヤカー積載分を全て買い取った。
「あと、かぼちゃとかウリとか持ってくるからよ」
そういうとイノシシは去って行った。
その後、たくさんの村人やモンスターが訪れて種々の野菜を売って行った。勿論全ての野菜を買い取ったわけではない。中には水準に満たない物もあったし、それで肩を落として帰る村人もいたが商売をしている以上は仕方のないことだった。買い取りの判断はスライムにさせた。モンスターの舌を知っているのはモンスターであり、沢渡は買い取り額の提示をするだけ。
ジャガイモ、人参、ダイコン、カブ、木の実、ブドウ、イチジク、これらの知っている作物に付け加え、初めて見る作物まで手に入れて馬車の荷台の8割は埋まり、これで締め切ろうとした時だった。
リヤカーに木箱を乗せた親子が再びやってきた。載っていたのは熟れて綺麗なリンゴ。つやがあり先ほどの物に比べ雲泥の差、とても立派だった。
「これなら買い取れるでしょう?」
女性はツンとした様子で言った。試しに味見をさせてもらい、美味しいと思った。スライムも頷くので買い取ると伝えると女性は少し気まずそうに「さっきのもジャムにすると美味しいのよ」と言った。
リンゴも馬車に乗せあと少し荷物が載る。沢渡はスライムを誘うと風車前の大通りを村の出口に向かって歩き始めた。
「どこへ行くんですか」
スライムが不思議そうに聞くので沢渡は大真面目な顔をして応える。
「牛乳だよ、スライムくん! 牛乳を売らないと」
「あ、そっか。牛乳忘れてた」
来る途中、乳搾りを体験させてくれた男性の元を訪れると男性はウシを洗っているところだった。バケツに汲んだ水でゴシゴシとウシの体の汚れを落としている。
「こんにちは」
沢渡とスライムの声に男性が振り返る。
「ああ、こんにちは。商売は順調ですか?」
男性が笑う。
「すみません。突然のぶしつけなお願いで申し訳ないのですが、お宅の牛乳を少し店に置かせてもらえないでしょうか」
買い取りをすると伝えているのに牛乳を持ってこないのは売る意思がないということ。それなのにこうしてわざわざお願いをしに来たのはいささか厚かましい。それでも沢渡は牛乳を置きたかった。
「ああ、実は買い取りのお願いに行かなかったのは牛乳があまりもたないからなんです。たくさん買って貰っても数日のうちに消費してもらわないと傷んでしまいます。それが分かっているのにたくさん売るなんて出来なくて」
店には冷蔵設備がある。だから、店に置いておけばすぐ傷む心配はない。けれど問題は運搬の時の状況。暑い日だと荷台で蒸され傷んでしまうかもしれない。
沢渡は少し考える。
「スライムくん。この村に氷を作れるモンスターはいないかい? 店まで牛乳を冷やして持って帰りたいんだ」
スライムはピョンピョン飛び跳ねる。
「氷の魔人が作れます! 時々おじいさんの所にやってくるからお願いできるかもしれません」
ボク呼んできます、と言ってスライムは大慌てで氷の魔人を探しに行った。
「ふううううぅ」
氷の魔人が息を吐くと牛乳瓶を並べて入れた木箱の周りが凍った。絶妙な具合で氷を張らせ、これなら店まで冷やして運んでいける。しきりに遠慮する氷の魔人にこれからも手伝って貰わないといけないから、と伝えて無理やり手数料を払い、出立の準備を進めた。
荷物は結局載せ換えて、1台を冷蔵車にして氷で冷やし、牛乳の他、冷蔵の方がいい野菜、幸運にも手に入れられた少しの肉も載せ、もう2台に野菜や果物を積んだ。馬車を運転するのは全てモンスター。馬車を村の外に出すのは初めてらしく村民も心配そうにしていたが、運転するモンスターも動じず行ってきますと挨拶するのでみんな手を振って送り出してくれた。
日の明るいうちに出たので夕方には店に着く。3台連なり草原をゆっくりゆっくりと進んでいく。沢渡とスライムは1番前の馬車で道案内。はさまれた運転手のニンジンのモンスターがふんふんふんと歌っている。沢渡もスライムも嬉しくなり一緒にふんふんふんと歌う。
「サワタリ店長、牛乳買えて良かったですね」
「ああ、全くだよ。牛乳がないと商売が始まらないからね」
「みんな喜んでくれると良いなあ」
行く時は足が棒になるほど歩いたのに、馬車だと楽に旅が出来てしまう。思ったより速いのでこれなら夕方までかからないだろう。途中休憩して馬を休ませながら、山にたどり着き、山頂で店の方角を見た。目を凝らし、遠くに細く見える店を探す。
あった、と嬉しくなったと同時に焦げくさい臭いが鼻をついた。ゆっくりと店に近付くにつれてだんだん臭いが濃くなる。次第に湧きおこる不安。火事が起きているような強烈な臭いがする。
にこにこマートの文字が読み取れるほど近づくと、店の裏から立ち上る煙が見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます