Lv.13 ガイさん頑張る

「ドルイドさん返金金額が違いますよ。計算が合ってるのにお金の数え方が間違ってます」

「ああ、バーサーカーさん。計算は適当にしないでください」

「ミイラ男さんご挨拶が聞こえません。もう少し大きな声でご挨拶をお願いします」

「魔道士さん今2回スキャンをしましたよ」


 沢渡の許可を得て始めた営業前の自主練習。がいこつ剣士が教官となり、レジ係の底上げを図る。店内に響き渡るがいこつ剣士の凛とした声。他の従業員たちは間違わぬように一生懸命で、がいこつ剣士のあまりの剣幕に気圧され泣きそうになっている従業員もいる。


「正確にこなせるように何度でも練習しましょう。お客様とお店にご迷惑をかけることの無いようしっかり打ってください。レジは人と商品をつなぐ橋渡しの作業です」



「なあにが橋渡しの作業だよ」

「ちょっと出来るからって良い気になってんじゃねえっての」

「ちょっとめんどくさいから辞めちゃおうかな」


 バックヤードに戻ってきたレジ係がぶつくさと呟く。それをちらりと聞いた沢渡はまずいなと懸念を抱く。



「ガイさん。練習の方は順調かな」


 レジ付近の前出しをしていたがいこつ剣士を見つけ沢渡は話しかける。


「あっ、サワタリ店長。みんな頑張っているんですけど、まだまだで」

「頑張って主任の業務をこなしてくれてありがとう」

「ああ、いえ。そんな。務めなので」

「一生懸命してくれているのは嬉しいのだけれど、上手になるのはゆっくりで良いんだよ」

「みんなゆっくり上手になってますよ」


 そういうことではなくて、と沢渡は思ったがそれ以上は言えなかった。優秀なスタッフならではの真面目さ。自分がある水準にあれば、他者にもそれを求める。ガイさんは優秀だけれどレジ主任としての包容力には少し欠けていた。


「サワタリ店長、業務が終わってからも少し練習をしたいのですけど」

「ああ、いやそれは許可できないな。みんな働いて疲れているから」

「そう……ですか」


 少し残念そうな声だ。


「困っている時は助けてあげてほしいけど、出来るだけ見守ってあげてほしいんだ。みんなきっと上手になっていくよ」

「分かりました」


 受け入れた様子に言いたいことが伝わったと感じて、沢渡はそれ以上は何も言わなかった。



「ドルイドさん慌てないで、ゆっくりでいいんですよ」


 2人制にしてがいこつ剣士はドルイドをじかに指導している。ただ、がいこつ剣士が声をかければかけるほどドルイドの手は震え焦りの色がにじむ。


「ああ、それは1000ゴッドですよ。気をつけてください」


 相変わらずの指摘するような口調。

 懸命にお金を数えていたドルイドも次第に怒りがこみ上げて、ダンっとレジ台を叩くと「1人で打ちます!」と怒鳴った。がいこつ剣士は唖然として「じゃあ、勝手にしてください」と言った。





 仕事終わり、がいこつ剣士は清算の方法を高橋から習った。難しくて良く分からない部分もあるけれど、訓練すれば出来るかもしれない。教えてくれた高橋に礼を言って上がる。バックヤードに戻り、ふとロッカールームの前で声が聞こえた。先に上がっていたスタッフたちだった。



「ドルイドさん困りますぅ! お金間違わないでくださいぃ!」


 ドルイドの声だった。がいこつ剣士のマネをしているらしい。聞いたスタッフたちはけらけらと笑っている。


「あいつハブろうぜ。なんかムカつくもん」

「ドルさん目つけられてるもんね」


 決して目をつけているわけではない。ただ、心配して気にかけていただけなのに。がいこつ剣士はロッカールームに入ることが出来ず、困り果てた。少しして中から従業員たちが出てきた。がいこつ剣士と目が合うと乾いた声で「主任おつかれさまでーす」と言って帰っていった。


 誰もいないロッカールームに入ると自分のロッカーの扉がへこんでいた。なんとも言えない悲しい気持ちになりがいこつ剣士はうずくまって泣いた。





 翌日事件が起きた。ドルイドが緊張して20ゴッド返すところを2000ゴッド返金してしまったのだ。気がついたのは客が帰ったあとで、ドルイドは慌ててがいこつ剣士に報告した。がいこつ剣士はかなりうろたえた様子で「どんなお客さんでしたか?」と問いかけた。ドルイドが2人連れのイモムシの客だったと話すと20ゴッドをつかみ、「取り戻してきます」と出て行ってしまった。


 沢渡が事態を知ったのはたまたまレジに行った時で、がいこつ剣士の姿が無いことに気づいて事態が発覚した。沢渡はがいこつ剣士の代わりにレジに入り、坦々とレジをこなした。30分ほどしてがいこつ剣士が戻ってきた。


「お金取り戻してきました!」


 息を切らしながら2000ゴッドを掲げる。ドルイドはホッとして嬉しそうな顔をしていたが、沢渡の表情は渋いかった。


「ガイさん。バックヤードに来てください」

「ハイ」



 バックヤードに入るなり沢渡は怒りをあらわにした。


「勝手に店を出て行かれては困るんだよ」


 静かな怒りのこもった声にがいこつ剣士はやや顔を落とす。


「申し訳ありません」

「一番に何をしなければいけなかったか分かるかい?」

「……」


「報告だよ。私に報告すべきだった」

「申し訳ありません」

「報告、連絡、相談。ホウレンソウ! 君はレジ主任だけれど最終的な責任者は私だ」

「ホウレンソウ?」


 不思議そうな顔をするので「ううん!」とどもり言葉を言い換える。


「お客さまに一度渡したお釣りを取り返すことも極力やめてほしい。こちら側のミスなのだから」

「……ハイ」


 がいこつ剣士は沈んだ表情で返事をしている。


「あのー」


 ふと後ろを向くとドルイドがいた。おどおどとした表情をしている。


「ああ、ドルイドさん気にしなくていいんですよ」


 がいこつ剣士は優しい声で諭す。


「ワタシ、お店にご迷惑がかかってしまうので辞めたいと思います」


 消え入りそうな声なので、沢渡は少し慌てて言葉をかける。


「ドルイドさん慣れないうちはみんなミスするんだよ」


 沢渡の声にドルイドは「でも」と呟く。


「ドルイドさん、今日は誰にも迷惑掛けてませんよ。お金はちゃんと戻ってきたのですから」


 がいこつ剣士の言葉にハッとする。取り返してきた2000ゴッドはがいこつ剣士の手にしっかりと握られていた。


「私も良い主任になれるよう頑張ります。だから困った時は信じて頼ってください」


 次第にドルイドの目にあふれる涙。がいこつ剣士はポンポンとドルイドの肩を叩くと「サワタリ店長、それでは業務に戻ります」と言って店内に戻って行った。





 翌朝従業員用のドアを開けるとにがいこつ剣士とドルイドが待っていた。早いねと言いながら2匹を迎え入れる。2匹はおはようございますという挨拶もそこそこにロッカールームに行き法被をはおってレジにまっすぐ向かった。


 がいこつ剣士が客をやり、ドルイドが釣銭を渡す練習。小さく聞こえるドルイドの声。懸命に金額を言いながらひたすら同じ動作を繰り返している。

 その様子を沢渡と高橋は少し離れた所からそっと見守った。

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