第2話 伝説の剣を手に入れろ

 前回、広告の魔の手がヒロシを襲った。

 村の人々はそれに取り込まれ、広告の彼方へ行ってしまった。

「広告……なんと恐ろしい敵なのだ」

 ヒロシは広告を目の前に、恐れを感じざるを得なかった。

「HEYスマホン、広告の特徴は?」

『ポポロン、広告、それを目にする者によって姿を変え、手を触れたくなってしまうような見た目で人々を誘き寄せる。悪質な広告は、目の前にスライドしてきたり、気配は薄くすることによって、意図しないところで触れさせようとする』

「なんて卑怯な! これはやはり伝説の剣を手に入れなければ、広告に太刀打ちできない! しかし、伝説の剣はいったいどこに……HEYスマホン、伝説の剣の場所は?」

『ポポロン、複数件ヒットしました。[バリカタ屋伝説の剣][土産屋伝説の剣][ホテル伝説の剣][セクシーグッズ伝説の剣][イヤンアハン伝説の剣]……』

「そ、そんなにバリエーションがあるのか。HEYスマホン、一番近い伝説の剣に案内して」

『ポポロン、ルート案内を開始します。村を出て、右方向です』

「右……確か向こうにはあまり人の立ち寄らない裏市場があると聞いたことがある。まさかそこに伝説の剣が……行ってみよう」

 ヒロシはスマホンの案内に従い、道を進んで行った。

『ポポロン、ルート案内を終了します』

「ありがとうスマホン。ここに伝説の剣が……。というか店の名前が伝説の剣だったのだな」

 看板は派手な電飾のついた桃色の文字で伝説の剣と書かれたものだった。

「さっそく入ってみよう」

「おっと待ちな」

 店に入ろうとすると、看板と同じような桃色の半被を着た男が、ヒロシに話しかけてきた。

「はじめまして、私はヒロシ。勇者をしております」

「ずいぶん真面目そうだが、勇者? がこんなところになんの用だい?」

「もちろん、伝説の剣を手にいれるため、やってきました」

「ほほう、真面目そうに見えてやることはやってるのか、それともこれからデビューなのかな?」

「デビュー……そうですね。まだ戦った経験もない半人前ですが、やる気は十分にあります!」

「なるほどね、ならいいのがあるよ。さ、入りな」

「それでは失礼します」

 ヒロシはその男の言われるがままに桃色の店内へ足を踏み入れた。

 そこにはヒロシが目にしたこともない様々な道具が取り揃えられていた。

「自己紹介がまだだったな。俺は商人のケンジだ。よろしく」

「ケンジさん、よろしくお願いいたします。それで、伝説の剣はどこに!」

「まあ焦るなって。今手にしたところで使う相手もいないんだからよ」

「いえ、いつなんどき、戦わねばならなくなるかわかりません。いつでも(剣を)抜ける準備をしておかねば勇者として失格です!」

「よっ! 男らしいね。そんな兄ちゃんにはこんなのはどうだい?」

 ケンジは店のカウンターの下から、小さなビンを取り出した。

「なんです、これは。これのどこが伝説の剣なんですか?」

「これは一度飲めばグングン力が湧いてきて、どんな相手もイチコロにできるうちの人気商品、その名も伝説の剣」

「こ、これが……なるほど、私自信が伝説の剣になるという意味ですね」

「そうそう。どんなしょんぼりしてるときでもグイーンと元気になっちゃうから」

「おおおお! 素晴らしいですね。では、これを頂いていってもよろしいでしょうか」

「とりあえず一本でいいかい?」

「はい」

「じゃあ500ペグね」

「ああ、代金が必要なのですね」

「当たり前でしょ? こっちも商売なんだから」

「では……これで」

「はい、確かに500ペグ、いただきました」

「これで私も本当の勇者に!」

「また、買いにきてね」

 伝説の剣を手にした勇者ヒロシは意気揚々と店を出た。するとすぐ近くに広告が迫っていた。

「ちょうどいい。この伝説の剣の力を試させてもらいましょう!」

 勇者ヒロシはビンの蓋を空け、伝説の剣を一気に飲み干した。

「おおう。なんだか効いてきた、気がする。なんだか今、いけそうな気がする!」

 勇者ヒロシは広告目掛けて殴りかかろうとした、その時であった。

「ぬぬう……こ、こんな時に!」

 ヒロシは腰を引き、前屈みになって立ち止まった。戦いどころではなくなってしまったのだ。

「ふうーこ、これでは戦えないではないか。伝説の剣の副作用か? くそう、一度あの店に戻ろう」

 ヒロシは広告に背を向け、桃色の店へ戻った。

「あれ、兄ちゃん、慌てて戻ってきて、どうしたの?」

「ケンジさん、あの伝説の剣、私には合ってなかったみたいなんですが……」

「もう使ったの?気が早いねえ。それなら伝説の剣DXとか、伝説の剣EXとか、伝説の剣Wとかもあるけど」

「とりあえず全部ください」

「まいどあり、2000ペグだよ」

「くうう……」

 これで勇者の財布は空になった。

「とにかく飲んでみるしかない!」

 店を出てすぐ、ヒロシは買った伝説の剣をすべて飲み干した。

「くそおおお、なぜだ、なぜなんだあ!」

 飲めば飲むほどヒロシは折れ曲がっていき、まるで二枚貝のように半分に折り畳まれてしまいそうだ。

「あれ、兄ちゃんこんなとこで飲んだの?」

「ケンジさん危ない、すぐそこに広告が!」

「え? あれが広告かあ。おおう? あそこに天国が……。俺も勇者になっちゃおうかなー」

「ケンジさーん!」

 ケンジは伝説の剣MAXを飲んで、自ら広告の中へと消えていった。ケンジにはその広告がなにに見えたのだろうか。それは誰にもわからない。

「くそう、HEYスマホン、これの収め方は?」

『ポポロン、申し訳ありません、よくわかりません。もう一度おn

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広告戦記 鳳つなし @chestnut1010

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