第5話 とりあえず、走れ!・三
閉会式のあと、
「ねえ今年の音楽科選抜、なんかやばくない?」
「やばすぎだよ。皆かっこいいー」
「だよね。特にあの、二番目に走ってた男子がめっちゃ好みー!」
ただでさえ音楽科選抜の男子たちにテンション上げまくってた普通科の女子たちは、リレーでの活躍ぶりにますます興奮してしまってた。なんかというか、どこぞの人気アイドルグループを前にした女性ファン状態? 明日どころか、このあとが心配になってくる。
「……なあ、普通科の女子がやばくなってないか? ある意味危険を感じるんだけど」
「だね。でも仕方ないよ。皆かっこいいもの。
大木君は不満そうに口を尖らせた。
「
「大木君もかっこよかったよ。周りの女の子たち、すっごく注目してた。ね、倉本君」
「そうだね。
「野郎に応援されて嬉しいわけないだろ」
隣を歩く倉本君が言うと、顔をしかめて大木君は言う。でも声は全然そうじゃない。小学校からの幼馴染みだけあって、やっぱり仲良いよねえ。
くすくす笑った倉本君はところで
……? なんか真面目な話?
「最近、君がおかしなものを送りつけられてるって閉会式のときに女子が話してるのを聞いたけど、大丈夫?」
「はあ?」
「おかしなもの?
倉本君の突然の質問に、桃矢と
「あのブーケか? また送りつけられてたのかよお前」
「ブーケ? って、結婚式の?」
眉を上げる桃矢に続き、真彩は眉をひそめて聞き返してくる。そういや、真彩にこの話はしてなかったっけ。
桃矢も反応してるし、こうなれば話さざるをえない。私は、ブーケのことを最初から話すことにした。
…………………………。
「……で、ぬいぐるみに持たせて写真撮って、次の日にブーケは玄関の遺失物置き場に入れたんだけどさ」
桃矢に話した内容を繰り返したあと、私はそう話を続けた。
「そしたら、また色と花を変えたブーケが私の机の上に置かれるようになったんだよ。しかも日を置いて、四回」
最初のは青のデイジーだったけど、次は冴えた青紫の桔梗。その次は臙脂色のダリアで、赤いポピー、昨日置かれてたのは小ぶりの黄薔薇だった。カスミソウが引き立て役になってるのは共通してる。同じクラスで家が花屋の
最初のブーケのときは素直にはしゃいだ私だったけど、こうも続くとさすがに不気味としか思えなくなってきた。可愛らしいブーケも、こんな目的のわからない、そして繰り返されるシチュエーションじゃ気持ち悪さを増させる小道具になるのだから不思議だ。犯人には、是非とも自分がしてることの異常さに気づいてほしい。
真彩は顔をしかめた。
「それっていじめじゃないの? 他には何かされてない?」
「うん、ブーケ置かれるだけで、特に何もないよ。まあ、ちょっとは不気味だけど」
「だったらもっと不安そうな顔しろよ。つか俺に話せよ。いくらお前でも、物好きな奴に目ぇつけられたかもしんねえんだし」
「うるさい桃矢」
痛いところをつくなこの男は! 腹が立って、私は桃矢の足を思いきり踏んでやった。痛がって文句を言ってきたけど、自業自得だ。無視に限る。
そんな私たちに呆れながらも、真彩はでも、と不安そうな顔をした。
「やっぱり変だよ、そんなの。悪戯にしても、気持ち悪いし……なんでこういうことするのかわからないけど、放っておいたら美伽ちゃん、本当に何かされちゃうかもしれないよ。先生に言ったほうがいいんじゃないかな」
「いやー、でも机の上にブーケ置かれるだけで何もないし、誰がやったのかわかんないから先生もどうしようもないだろうし……」
「まあ、そうだろうね。でも、
「ああ、もちろん」
倉本君に話を向けられて大木君は即答すると、そうだ、とさらに補足した。
「なんなら、俺が家まで送ろうか?
「え、いいよ別に。ブーケを机の上に置かれてるだけだし」
「そうそう妙なもん送りつけてくるだけなら、ほっとけばそのうち飽きるだろ。中学のときもそうだったしな」
「嫌なことを思い出させないでよ……」
中学のときを思い出し、私はげんなりした。嫉妬に狂った女子の嫌がらせも桃矢のブチキレも、もう経験したくないよ。各方面からの冷やかしもだけど。
「ともかく、ありがとうね大木君。真彩と倉本君も、心配してくれてありがとう」
ふったばかりで正直まだ私はぎこちないのに、こんなに心配してくれるなんて。ちょっと感動して気恥ずかしくて、私はへらっとした感じかもしれないけど、笑ってみせた。
ああ、ホントに私、友達に恵まれてる。変なもの送りつけられるのは不気味で勘弁してほしいけど、友情を確かめられるのは悪くない。
あ、でもだからってブーケなんて要らないし。だから犯人さん、さっさと飽きて、こんなことやめてください。
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