第22話転生の完了
「さあ、それでは闘いを再開しましょうか」
目の前にいる銀色の髪をした綺麗な女の人が剣を手に|僕(・)に言う。
僕はそれに答えて剣を構える。そして女の人と僕は同時に前に出て剣を振るう。何度も何度も斬り合う。一度でも当たって仕舞えば死んでしまう。死ぬのは怖いはずなのに僕はどうしてか剣を振るのをやめない。何でかそれがすごく楽しいことに思えてから。女の人は笑っている。僕も笑っているんだろうか。
何度も斬り合った後、僕たちはお互いに剣を構える。そしてーー
「ーーおい。さっさと思い出せ。じゃないと|また(・・)後悔することになるぞ」
何度も見る夢。綺麗な女性と闘っている自分。その途中で景色が切り替わり、知らない男性が自身に語りかける。そんな夢を僕は何度も見ていた。
今日もまた同じだ。同じ夢を見て、そして焦燥感を感じながら慌てて起きる。
「ーーっ!……はぁ。またか」
起き上がった僕はため息を吐くと今まで見ていた夢を思い出す。
(でも、何を思い出せって言うんだ)
今まで何度も夢を見て、その度に何を忘れているのかを思い出そうと考える、でも何も思い出すことができないままだった。
今日も焦燥感だけが胸に残っている。
「ーーふぅ。今日は大事な日なんだし、このままじゃダメだな。しっかりしないと」
そう、今日は僕が十二歳になった祝いの儀式がある。
正確には春と秋の半年毎にその間に誕生日を迎えた子供を祝う儀式で今回は春の儀式だ。
この国の決まりに、子供は十二歳にならないと人間として認められない。
なんでそんなことになっているかって言うと街の外に出れば魔物の脅威があるし、病気にかかるとすぐに死んじゃうから十歳まで生き残ることができてようやく国から人間として認められる。
そして、僕はこの間ようやく十二歳になった。
十二歳にならないと入れない場所やできないことがあるから今まで不満に思うこともあった。
教会の立ち入りは禁じられてるし、仕事につくこともできない。
教会は一応国の建物なんだしまだ分かるんだけど、何で仕事はダメなんだといつも思っていた。十二歳にならなくてもできる仕事はいくらでもあるのに。
まあ、みんな同じように思っていて簡単な仕事を家に持ち帰って子供にやらせていた。そうすれば『家の手伝い』で済む。中には職人に弟子入りするために養子として『家の手伝い』をしている人もいる。
上の人たちはわかってないんだ。子供も働かなくちゃ食べていけない家もあるってことを。
幸い僕の家はそこそこ大きな商家で裕福だったけど、それでも不満がないわけじゃない。
でもそれも今日でおしまいだ。今日の『新人式』が終われば僕も大人の仲間入りできる。
その後もいろいろとやることがあるし、とりあえず今はこの嫌な気持ちを忘れるために日課をこなそう。
そう思って動きやすい服に着替えた後部屋の隅に置いてあった木剣を持って部屋の外に出る。
一階に降りるともう使用人が仕事をしていた。いつも僕より前にはもう仕事を始めているみたいなんだけど僕も仕事をするようになったらもっと早く起きなくちゃいけないのかなぁ。
さっきより少しだけ沈んだ気持ちで庭に出る。
「よう、アキラ!今日は遅かったな!」
庭には既に友人のウダルがいて素振りをしていた。
「僕が遅いんじゃなくて君が早いんだよ」
僕が近づくと汗を拭い乱れた赤い髪をかきあげている。どうやら着いたばかりじゃなくてだいぶ前からいたようだ。使用人の人たちも気づいていただろうから教えてくれればよかったのに。
「どうしたの今日は。いつもならもっと遅く来るじゃないか」
そう聞いてはみたけどそのこたえは聞くまでもなくわかっている。
「今日は新人式だぜ!家でじっとしてられなくてさ!なんかもう、こう、な!分かるだろ」
わからない。
でも、言いたいことはなんとなくだけどわかった。僕も同じような気持ちだから。
「まぁね。でも今準備するから少し待っててよ」
そこで準備運動をして体をほぐしてから剣を構える。他の人は準備運動なんかしないけど僕はしないと何だか落ち着かないから毎回している。
「準備完了!おまたせ」
「よしっ!じゃあ始めるか!」
僕たちはある程度の距離を開けて向かい合い木剣を構える。
「今日はどうする?」
「んー、俺からでいいか?」
「了解。いつでもいいよ」
僕がそう言い切る前にウダルは走って近づいてきた。
二つの木剣がぶつかってカーンといい音が響く。
「やっぱり防がれるか!」
「不意打ちするなら何か小道具とか使ったほうがいいんじゃ無い?」
「それじゃあ意味ないだ、ろ!」
ウダルはそう言って足払いを仕掛けて僕の体制を崩そうとしてくるがその程度のことじゃ問題ない。足払いを避けたあと仕掛けたウダルの足を逆に払ってやる。
地面に転がったウダルに木剣を振り下ろすけどウダルはゴロゴロと転がって避ける。
僕は追撃しないで最初と同じ距離を開ける。
そして今度は攻める方を交代して僕が仕掛けていく。
それから何度も交代して打ち合っていく。
「ーーハァハァ。今日も勝てなかったか。一本ぐらい取りたかったんだけどな」
ウダルが息切れを起こして地面に倒れながらそう言う。
「まあ僕は夢の中で戦ってるからね」
「ああ、そういえば今日の式で教会に行けばその夢に出てくる人の正体がわかるんだっけ?」
夢のことは身近な人には言ってある。もちろんウダルにも言った。
「そうだね。あくまで『かも』だけど」
「ども本当に女神様だったらどうするんだ?」
「どうもしないよ。勇者様って柄でもないし、そもそもなる気もないしね」
そうして2人で話しながらダラダラしてると使用人が呼びにきた。どうやら朝食の時間らしい。
「ウダルはどうするの?うちで食べてく?」
「いや、俺かーちゃんに何も言わずにきたからもう作ってあると思う。一旦家に帰るよ。式の準備もあるし」
新人式にでる子供は身だしなみを整えて親の作った装飾をつけなければならない。一般の人たちはそんなに体を綺麗にしない。と言うよりできない。そんなことにお金を使うぐらいならもっと別のところに使う。だから身だしなみを整えるのには時間がかかる。
でも朝早くから黙ってここにきたのってだ丈夫なんだろうか?…うん。きっと大丈夫なんだろう。
「おはよう、アキラ。それとおめでとう」
「おはよう母さん。でもおめでとうはまだ早いよ」
家の中に入って食堂に行くとすでに母さんが待っていた。
母さんはうちの商会長の娘で僕たちの暮らしている街の支部長をしている。
今でこそそれなりに動き回ってるけど数年前までは体調が良くなくってあんまり一緒にいられなかった。
でも今では寝込むこともなく毎日元気に仕事をしている。
「さあ、もういい時間だから準備してらっしゃい」
朝食が終わると母さんからそう声がかかった。時計を見ると確かにもう準備さないと間に合わないな。
部屋に戻って着替えを手にして浴室に向かう。水を汲むのは大変だから毎日使えるってわけじゃないけど今日は式があるから特別だ。
「あら、準備が終わったのね。どう?ちゃんと1人でできた?キツイところとかはない?」
汗を流して着替えた後、食堂に戻った僕は母さんにそう言われた。
というか1人でできたって僕はもう十二歳なんだから当然だ。心配してくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと過保護すぎると思う。
「大丈夫だよ。もう十二歳なんだから。母さんは心配しすぎだよ」
「そんなことないわ。親は子供のことはいくつになっても心配なのよ」
そう言いながら母さんは僕の頭を撫でる。くすぐったいし恥ずかしいけど、嫌いじゃない。
「あ!そろそろ行かないと」
「あら、もうそんな時間なのね。怪我しないでね。いってらっしゃい」
特に怪我をするようなことは起こらないはずだけど母さんはそう言って僕を見送る。…やっぱり過保護だと思う。
すこしのんびりとしすぎたみたいだ。もうみんな教会に向かっているだろう。
「おお。やっときたか。もう知り合いはみんな集まってるぞ」
朝に別れたウダルがそう言って僕にい近づいてきた。
「ごめん。遅くなった」
「気にすんな!俺もさっき来たばっかりだからな!」
…なんだか謝って損した気がする。僕が遅れたのは事実なんだけどさ。
ふと朝疑問に思ったことを思い出して聞いてみる
「ねえ。朝のことおばさん怒ってなかった」
「え?なんで知ってんだ?すっげー怒られた」
「そうね。隣にいる私の家まで聞こえたもの」
今まで聞こえていなかったはずの声が答える。
その声の主はウダルの後ろからやってきて僕たちの前で止まった。
「あっエリナおはよう」
この臙脂色の短い髪をした女の子はエリナ。ウダルと同じ集合住居の隣室に住んでいて兄弟のように育ったらしい。僕は兄弟がいないのでそう言う関係が少し羨ましい。
「おはようアキラ。朝はこのバカが迷惑をかけたみたいね」
「おい、バカって「ううん、いつものことだから」
「おい「そう?じゃあいつもごめんなさい」
二人でウダルの言葉を遮りながら話すけど当然ながら嫌っているわけじゃない。これはいつもの事ちょっとしたじゃれ合いだ。どうにもウダルはエリナに強く出ることができないらしくってエリナがいる時は大人しくなる。
そんな感じで式が始まるまで三人(ウダルはほとんど話さない)で時間を潰していると教会に設置されている大きな鐘が鳴った。
「始まるみたいだね」
「そうね、遅れないように早く行きましょう」
「…ああ」
僕の声にエリナの返事はかえってきたけどウダルからは朝とは違って覇気のない声が返ってきた。
ウダルの方を見るとそこにはまともに構ってもらえなくてしょんぼりしている情けない姿があった。
せっかくのお祝いごとなのにちょっとやり過ぎたかな?と思ってエリナの方を見るとなんだか背中がゾクリとするような笑いを浮かべている。
僕の視線に気づいたエリナはその笑みを消してウダルに話しかける。そうするとウダルはすぐに元気を取り戻してずんずんと教会に進んでいく。
その後ろ姿を見てエリナはまたさっきと同じように笑っているけど、まあそれもいつもの事。
他の集まった子達に続いて僕も教会に入る。教会には初めて入るのでちょっと緊張する。
教会の中は左右に十体の石像があって、それぞれ手に持っているものはそのどれもが似たような姿をしていた。神様を象った物だ。この中に僕の夢に出てくる女の人はいるんだろうか?
「ーーッ!」
左右に置かれていた石像を順番に見ていきそのうちの一つに目が止まる。夢に出てくる人とおんなじ姿だ。
その像を見ると急に胸が締め付けられるように痛みが走る。それと一緒に、嬉しくて悲しくて楽しくて苛だたしいようなわけがわからないぐちゃぐちゃした気持ちが溢れてくる。
「どうした?大丈夫か?」
「平気だよ。ちょっと頭痛がしただけ」
「そうか。無理すんなよ?」
胸を押さえて苦しそうにする僕を見て隣にいたウダルが心配そうに声をかけてきた。
今は大事な式の最中なんだからしっかりしなくちゃ、と心配をかけないように笑って前を向いてお礼を言う。
それでもちょっと心配そうにこっちを見るウダル。でもそれもすぐに終わった。
いつのまにか司祭様が前に立っていた。集まったみんなを見渡してから開始の言葉を言う。
それから手に持っていた分厚い本を開くと司祭様からのありがたいお言葉が始まった。
「新たなる子らに神々の祝福を!」
思ったより長かった司祭様の言葉も終わって、いよいよ最期の一番大事な儀式が始まる。
神様からの祝福だ。これを賜ることによって僕たちは人間と認められるようになる。
司祭様が祝詞を唱えると頭上から光が降ってきた。
その綺麗な光を浴びると体の奥があったかくなるような感じがして、「ああ、これが祝福なのか」と大人たちから聞いていた話を思い出す。
「ッ!!!??」
やっと十歳になったんだなって感慨深く思っていると、いきなり体の奥でなにかが弾けるような感覚がした。
かと思ったら今度は僕の知らないはずの光景が頭の中を流れて、頭が割れるかと思うほどの頭痛に襲われる。
何が何だかわからないまま耐えていると僕はいつの間にか気を失っていた。
気がつくとそこにはよく見慣れた天井があった。
「知ってる天井だ」
そんなバカなことを言ってみる。頭は痛いし気持ち悪さもあるけど意識ははっきりしてる。
「今になってやっと思い出すのか。もっと早く思い出しとけよ|俺(・)」
俺は十歳になってようやく忘れていた記憶を思い出すことができた。
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