第12話殺しの基準

晶は魔法で敵軍を倒した後前回と同じ方法で壁の内側に侵入し、今回は敵兵を片付けずに隠れながらも素早く城に向かった。


城に着くと此処でも外壁と同じように入り、物陰に隠れながら魔力を探知されないようにしながら広域破壊魔法を構築していく。


「最初から加減なんかしないで一撃で終わらせればよかったんだ」


魔法の構築を進めているとと目の前に綺麗な服を着た子供が二人現れた。そう、前回晶が死ぬ要因となった王女と王子の姉弟だ。

二人は晶には気づいていないようで無邪気に遊んでいる。

なんでこの状況でと思わなくもないが、晶が既に外壁を超えている事を知らない上に彼女たちには状況が理解できていないのだろう。

だが、そんなことは関係ないとばかりに晶は魔法を完成させる。


(周囲にバレないようにするために時間がかかったけどなんとかなったな)


いざ魔法を放とうとすると目の前で遊んでいた姉弟のうち弟の方が転んでしまった。その子は泣き出すが、すぐに姉がかけ寄り頭を撫でると少ししてから泣き止み立ち上がり、二人して笑いあった。


(――気にするな。これは試練であの子達は作り物だ。殺したところで本当に死ぬわけじゃない)


晶はそう思い魔法を発動しようとする。が、意思に反して体は動かずそれどころか魔法を放つために集めた魔力が徐々に霧散していく。



晶は街を歩いていた。


「――なんでだ。なんであの時魔法を撃てなかったんだ。」


晶の思いが口からこぼれおちる。

城で魔法を使おうとした時どうしても魔法を使うことが――あの姉弟を殺すことができなかった晶は城に侵入した時と同じ方法で城壁の外に出て人気の無い路地に入っていった。


(此処にあるものは全部偽物だ。建物も人も実際にあるものとをコピーして作っただけだ。建物はいくら壊れたって試練が終われば結局無くなるし、人だって死んでも現実で生きている奴にはなんの影響もない。…わかってる。わかっているのに、なんで…)


光を感じ下を向いていた顔をあげた晶の眼に映るのはこれから生まれ変わる世界において何処にでもありふれているのだろうと思わせる光景。

道の端で話している女性達。井戸から水を汲んでいる男性。馬だか鳥だかよくわからない動物に荷車を引かせている若者。そして空き地で遊んでいる子どもたち。

その全員がまるで本当に生きているかのように動いている。

彼ら彼女らと晶は話すことはできない。彼らの声は晶には聞こえないし、晶の姿を彼らは認識することができない。唯一、晶が彼らと敵対した時は認識されるし晶も彼らの声が―声といっても叫び声だけだが―聞こえる。


(でも、それでもこの人達は…)


自身の中に渦巻く気持ちに整理をつけられないまま通りを眺めている晶。その足はいつの間にか前へと踏み出していた。


「っ!あぶねえ!」


呆然と通りを歩いていた晶の視界に少女の上に走っている馬車から荷物が崩れ落ちる瞬間が映った。

先程まで散々「こいつらは生きていない」とか「全部偽物だ」なんて思っていたにもかかわらず、晶は咄嗟に魔法を使い少女の周りに結界を張った。


ドスンドスンと荷物は落ちるが少女にはなんの影響もなく、キョトンとした後急に座り込み泣き出してしまった。近くにいた子供達がかけ寄り何かを話すと少女は泣き止み立ち上がる。

その光景が晶には城で殺そうとした姉弟に重なった。


それから晶は再び街を歩きだす。


(…此処にいる人達はただのコピーで全員偽物。じ・ゃ・な・い・。そんなわけがない。彼らはちゃんと生きている。例えこの試練が終わったら消えてしまう存在だとしても、少なくとも今この瞬間は確かに此処で生きてる)


晶は人々の暮らしを見ながら街を歩き、考える。


(――なら、俺はどうすればいい?試練だからってあの人達を殺すのか?…いや、今更か。今まで散々人間と戦って殺してきたんだ。人間だけじゃない。動物も怪物も殺してきたのに今更そんな事を言っても意味がないか)


そう考えて今まで感じていなかった罪悪感を感じている事に晶は苦笑する。


(でも、効率がいいからって関係ない命ごと殺すのは違う。それじゃただの虐殺だ。でも、試練に関してもそうだけど、生まれ変わる先の世界はだいぶ物々しいし全く殺さないっていうのも無理だろうな)


今まで戦った敵のことを思い出す。

試練だから、というのもあるかもしれないが出会った敵の全てが全力で晶を殺しにかかった。地球にはいないような人喰いの化け物もいたし中には笑いながら殺しにきた奴もいる。

流石に世界中の全てがそ・う・であるとは晶も考えていないが、世界中の一割程度だとしてもだいぶ脅威になる。

故に晶は他者を殺す。但し無条件に無差別に殺すつもりはない。


(敵対したものは全て殺す。情けをかけたりはしない。甘さを見せればすぐに死ぬ事になるんだから。でも、敵対しない限りは傷つけてはいけない)


気に入らないから、面倒臭いから、なんて理由で命を奪うようになってしまえば待っているのは、まさしく今の試練と同じに――世界中の人々を敵に戦わなくてはならないだろう。


(女神は言ってた。この試練に出てくるのは今後俺が戦う可・能・性・のある相手だって。なら、そうならないようにしないとな)


晶は歩いていた足を止め目の前の壁を見上げる。それは街を囲い外敵から住民を守る巨大な外壁で、ここは晶が侵入した時に出た場所だ。


「まあ折角だ。今度生まれた時には後悔しないように頑張ってみるか」


―――――――


ドォーーン、バリバリ、ガラガラ。異なる音が同時に大音量で響き渡る。

音のした方を見れば、そこには外敵を防ぐための頑丈な門があったはずだが、現在は勢いよく崩れている。


「諸君、私はこれから街を攻める。だが、私の目的は国王ただ一人。その命さえ差し出せばすぐさま攻撃をやめよう。差し出さなかったとしても無意味な殺しはするつもりがない。よって建物の中に隠れていれば危害は加えないと約束しよう。但し私の邪魔をしなければ、だが。いずれにせよより良い結果になることを願っている」


突如街中に男性の声が響き渡る。

その声を聞きすぐに走って建物に入っていく者、信じずそのままいつも通りの行動をする者、門の様子を見に行くもの様々だった。だが、その後先程の轟音が連続して響き、ようやく危機感を得たのか我先にと逃げ出しあとには武装した集団だけが残っていた。


―――――


(街に対して敵対行動をとったからこっちの声は聞こえているだろうけど、こういうの初めてでなんだかかなり偉そうになったな。…まあいいか。)


晶は現在街の外、門の前――正確には門があった場所の前にいた

戦わないものが避難できるだけの時間をおいた後ゆっくりと歩き出した。


「あー、さっきも言ったけど邪魔しなければ攻撃しない。退いてはくれな――」

「うおおぉぉ!」

「――くれないみたいだなぁ」


当然ながら晶の侵攻を阻むべく兵士や傭兵が襲いかかるが、最初の街の外でおこなった戦いのせいで数はそう多くはない。だが、放っておくのも危険なのでできない。


「悪いけど、死んでもらう。――友相撃」


魔法が発動すると今まで晶を狙っていた者たちが味方であるはずの者を攻撃し始めた。前回門を制圧するために使った同士討ちを誘発する魔法を晶は使った。これは魔力の節約という意味もあるが建物などに無駄に被害を出さないためでもある。

「他人を操って仲間同士で戦わせるなんて酷い」などと言うような者も確かにいるだろう。だが、そんなものは本当の意味で命・を・か・け・た・事がない者の戯言でしかない。晶は実際に体・験・してきた中で綺麗事に意味などないことを知っている。だからこそ晶は決断した。敵には容赦などしないと。

命をかけてでもなしたい何かがあるのなら立ちふさがればいいし、操られたくないなら、死にたくないなら初めから敵対しなければいいのだから。そう晶は考えている。


門を通り過ぎ城に向かう途中だへや傭兵に奇襲をかけられた晶だが、少数には炎の球をぶつけて燃やし大人数には洗脳して同士討ちさせ敵を退けていった。


「さて、都合三度目のお城だけど。…やっぱり兵士はいるよなぁ」


街の外と門、それとこの場に来るまでに倒した者たちを除いてもなお奥を見通すことができないほどの人集り。その全てが武器を構え魔法を準備し、晶の命を狙っている。

しかし、予想通りの上既になんども体験している晶としては特に目新しさのかけらもない。

なので、慌てることなくスッと杖を構え


「偽りの敵に惑え――友相撃」


晶の魔法により晶の侵攻阻むべく武器を構えていた者たちは例外無く同士討ちを始めた。


「今更だけど、精神干渉系の魔法ってヤバすぎないか?使うのやめる気ないけどさぁ」


自分の魔法の結果を見て思わず呟く晶だが、それも仕方がないことだろう。集まっていた大勢の敵が誰一人として魔法に抗えず味方同士で戦っているのだから。

晶としてはここまでうまくいくとは思っていなかった。「雑魚の間引きができればいいな」程度に思い、即興で作った魔法なのだからまともに魔法の使える人やそれなりの地位がある人は防ぐだろうな、と軽い気持ちで使っていた。だというのに晶がこの魔法を使ってから防がれたことは一度も無い。

これは、ここにいる者たちの元となった世界においてそもそも精神に効果を及ぼす魔法は使えるものがほとんどおらず、対策などされていなかったからだ。中には警戒して対抗魔法を使っている者や無意識のうちに対処している者もいるがそんなものはごく少数でしかなく、またその対処も未熟だったため誰も抗うことができなかった。


そんな彼らを一瞥し晶は悠々と城に近付き、同士討ちの魔法に『自身に害意を持つ者』限定でかかるようにアレンジして、城全体を効果範囲に収められるように今までとは比べ物にならないくらいの魔力を使い魔法を発動した。

『害意を持つ者』に限定したのは『敵対している者』や『敵意を持つ者』だと攻撃しないと約束した隠れている者まで効果が及んでしまうからである。


「さて、これで全滅してくれると楽なんだけどな」


晶はその場でしばらく待ってみるが何の変化もなくただ時間だけが過ぎていく。

魔法にかかり同士討ちをしていたもの達を眺めていた晶だったが、とうとう周りで戦っていたもの達が全員倒れたので、仕方ないと城内を探し始める。

探すといっても前回ことがあるので国王がどこにいるのかはすでにわかっている。

城の正面にある大きな門をくぐりすぐにある階段は上らず、少し奥まったところにある階段を上り少し歩いてからまた階段を上り重要人物ーー王族の居住区画に進んでいく。途中廊下や開いていたドアから見えた部屋の中で鎧を着たもの達が倒れていたので、晶の魔法はしっかりと城全体に効果が現れているのだろう。


「やっぱりここにいたか」


晶が目的の場所にたどり着くとそこにはこの場所にたどり着くまでに見た数よりも圧倒的に多くの騎士が豪華な扉の前で倒れていた。


「随分と多くいたみたいだな。まともに相手してたらそれなりに面倒だっただろうな。ーーそれにしても、少し多過ぎじゃないか?いや国王を守るためなんだから当然といえば当然なんだけど…」


そう呟き、倒れている者たちをよけながらゆっくりと扉へ近づいていく。

扉の前まで来た晶は扉を開けようと手を伸ばすが鍵がかかっているようでガチャガチャと音が鳴るだけで開かない。

仕方ないと軽く溜息を吐きながら晶は魔力を全身に巡らせ身体能力を強化して扉を思い切り蹴り開けた。

ドゴォンと凄まじい音を出しながら扉は粉々に砕け散ってゆく。

室内を覗くとそこには広い部屋の隅にお世辞にも似合っているとは言い難い魔法具である鎧を着こみ同じく魔法具である剣を抱えて震えている。ーーこの国の国王はまさに物語に出てくるようなダメダメな王であるようだ。

廊下には多くの騎士達がいたのにこの広い部屋の中には国王以外誰もいなかった。いやむしろこの部屋に一人もいないからこそ廊下にあれだけの騎士達がいたのだろう。

王の護衛であるはずの騎士達が部屋の中にいないのはおかしい。事実、前回晶がこの部屋に乗り込んだ時はしっかりと部屋の中にも騎士達がいた。

ではなぜ今回騎士達は部屋の中におらず廊下に集まっていたのか。晶を迎撃するためという可能性もあるがおそらくは違う。実際は同士討ちをし始めた兵士をのことを知って裏切り者がいるとでも考えたのだろう。その裏切り者が護衛である騎士達の中にいるのではないか、と騎士達を部屋から締め出したのだろう。騎士達の中に裏切り者などいなかったのだが結果として国王の判断は正しかったと言える。

晶はこの国がコピーのであるとは知りながらもこの国大丈夫なのか?と思ってしまったが、それはそれとして試練クリアのため敵の排除ーー王を殺すべく近づき、王が反応する間も無く首を切り落とした。


「今度こそ終わりかな」


血まみれになった部屋の中でポツリと呟く晶。

しかしながら、やはりというべきかこのままでは終わらない。前回と同じくカチャ、と控えめな音をたてて隣室と繋がっている扉が開く。

そこから顔をのぞかせたのは前回同様小さな姉弟だった。


「おやすみ、いい夢を」


二人が出てくるのをすでに予想していた晶は眠りの魔法を使い、少女達の意識が部屋の惨状にいかないうちに二人を眠らせた。

その場に倒れた二人を部屋に戻した後、晶は国王の部屋で休み次の試練が始まるのを待っていた。

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