第13話最後の試練

ポコン♪


既に何度目になるかわからない音が響き渡る。しかし、今回はどうも今までとは違うようだ。

音が鳴った瞬間晶はまだ城の一室で座り込み休憩していた。その確かに存在していたはずの城が音がると同時に街ごと綺麗に、まるではじめからそこには何も存在していなかったかのように消え失せていた。


「っと。ーー次の敵はどこだ?…まさかさっきので終わりか?だといいんだけど」


当然城の中にいた晶は空中に放り出されるわけだが浮遊の魔法を使い難なく地面に着地し周囲の確認をするが何もいない。これまでの傾向から言って次の敵も集団だとあたりをつけている晶だが、周囲には草原が広がるばかりで生き物は何もいない。もしなんらかの集団であるのならば遮蔽物のないこの場所で敵を見逃すはずがない。何もに草原を見渡してこれで試練終了にならないかなと考えていた晶だが流石は今までクリアした者がいないだけあってそこまで甘くはないらしい。晶の耳にポコン♪と敵の出現を知らせる音が届いた。

やっぱりまだだったかと思いつつ再び警戒を強めるが敵は存在せず何も変わらない。ーー否、よく見ると遠くの方で草原が途切れているように見える。晶は魔法で空を飛び確認するとやはり無限に広がっていたはずの草原に終わりができていて、今度はそこから終わりの見えない荒野が続いていた。

その光景に訝しみつつもとりあえず様子を見に言ってみようと荒野に向かって飛んでいくが、背後からポコン♪と聞こえた。バッと振り向くと今度は終わりの見えない森が広がっていた。


「ーーなんなんだよ、いったい」


今までとは全く違う状況に戸惑いを隠せない晶ではあるが、戸惑いから警戒を緩める、なんて事はしない。そんな事をすればすぐさま死んでしまうという事を実際に体験してよく知っているのだから。

まだ何か起こるんじゃないかと警戒していると再び音が鳴り、同時に晶の横ーー右側のそれなりに離れたところに山が出現した。それもただの山ではなく山頂部分が赤くなっている事を踏まえれば火山なのだろう。

さらに続けて音が鳴り、火山が現れた場所の反対側に海が出現した。この海も例によってその果てを見る事は叶わない。


「ーー終わりか?なんだこれ。ステージ変更?でも今までは森の中とか海の中とかにいきなり放り出されてたのに…。各ステージに出る敵全部同時に相手しろ、とかか?」


言った直後にその可能性は十分にあり得る、と晶は思った。そして今までとは違いわざわざこんな手のこんだ事をしているのだから今度こそ最後の試練じゃないのか、とも。

しかし、実際に終わって見なければ最後かどうかなどわからないこの試練においてそんな事を考えるだけ無駄とも言える。

幸いかどうかは分からないがどうやらその無駄な時間を過ごす必要は無くなったようだ。


ポコン♪


敵が現れる。

しかしどうしたことか。街と城がないとはいえ、その敵は先ほどまで晶が戦っていた兵士たちと同じ鎧を着ている人間だ。現れた数も先ほどの敵の総数と同じように見える。


「?ここまでやってさっきの奴らと同じなのか?」


直後、晶の疑問は解消されることになる。


ポコン♪


敵を倒していないどころかなんの行動もとっていないのに次の敵の出現を知らせる音が鳴り響く。

先程出現した敵軍の横、晶から見て右側に追加の兵士たちが現れた。但し今回のは先程の兵達とは鎧の色が違う。目を凝らしてみれば鎧のつくりも違うようだ。


ポコン♪


晶から見て左側にまたも色違いの兵士たちが現れた。

その後も連続して音が鳴り武装した人々が増え続け、音が聞こえなくなった時には空にいる晶にさえその全容が分からないほどになっていた。


「――まじか。流石にこれだけの数は厳しいものがあるんだけど、まぁこれで終わりだと思えば…」


とそこで晶はあることに気が付いた。

「あれ?これで終わりならあの山とか海っていらなくね?」と。

しかし、それ以上を考えることはできなかった。眼下の軍勢から強大な魔力反応が感じられたからだ。

空中に映し出される直径百メートルはあろうかというほど巨大な魔法陣。何人何十人もの魔法使い達が協力して作り上げた魔法陣はその中央に小さな火の玉をつくり、それは徐々に大きくなっていく。魔法陣と同じ大きさになった時には少し濁りねばつくような色になっていた。


「嘘だろ!?今まであんなの使ってきたことなかっただろうが!」


そう罵声を浴びせながらも晶は敵に対抗すべく魔法を構築していく。が、所詮は一人では限界がある。晶の作った対抗魔法は敵に届きはしたものの、まともな効果を出す事は叶わなず、精々が魔法が発動するまでの時間を少し遅らせたくらいだった。

完成した魔法は弧を描くようにして山なりに晶に向かって飛んできた。


「ーー遅いな。まあその分合わせやすいからいいんだけ…はあ!?」


魔法発動の邪魔を諦め既に防御のための魔法を作っていた晶だが、タイミングを見計らいいざ発動しようという時に敵による魔法の妨害を受け作った魔法が壊れてしまう。そうなってしまえばどうなるかなど言うまでもない。


直後、まるで火山でも噴火したような大きな音が周囲を蹂躙する。だがそれは実際に噴火したわけではなく、遠くに見える山はその姿を変えずその場にある。それは先ほどの巨大な火球によって起こった事だが、その惨状は実際に火山が噴火したと言っても信じられるようなものだった。もうもうと上がる土煙がはれた後には晶がいた場所の真下には地面に大きな穴があき周囲には赤々とした流動体ーーマグマが飛び散っていた。


「あっぶねぇ。ブレイクのこと忘れてたよ。つーか、こいつらも使うんだな」


ブレイクーー対抗魔法を受け火球を防ぐ事が出来なかったはずの晶だが無事に生き残ることができたようで、大穴の横に膝をついているが怪我はないようだ。だがその姿はボロボロで戦う前とは比べるべくもない。

そんな晶の様子は気にせず続けて第二の火球が飛んでくる。

まともに防御しては消耗が激しすぎると感じたからか、晶は防ぐのではなく避ける事を選んだ。

避けると言ってもただ移動するだけではない。自身の魔法が対抗魔法により消されるのを承知の上で同じ魔法を三つ同時にーー効果が同じだけで魔法の構成は全て違うがーー使い自身の幻影をだしてから攻撃を避けるべく移動していた。

二発目の火球は効果がなく、続いて第三第四の火球が襲いかかるがどれも同じ方法で凌がれていた。

そのことに業を煮やしたのか今まで現れた場から動くことのなかった兵士達が晶めがけて突撃していく。数え切ることもできないような数の人が一人の命を狙って大地をかけるその光景は凄まじく、通常であればその狙われた者はひとたまりもないだろう。通常であれば、だが。命を狙われている者ーー晶にとってはその程度なんら問題にならない。数が増えただけでこれまでにも同じことがあったのだから。もちろん晶としても敵の数が増えた事を軽視するつもりはないが、対処する方法が変わらない以上「少し面倒だな」程度にしか思わない。


「よし、地割れ、っと」


向かってくる敵軍に魔法の妨害対策の意味を込めて五つの魔法を発動地点を変えて同時に使う。

そのうち三つは防ぐことができたようだが残り二つは妨害が間に合わず轟音を鳴らしながら大地を割っていく。

相手の人数の多さを考えれば五つ程度であれば妨害できそうなものだが、いかんせん輝との距離が遠すぎる。魔法を発動する際の魔力の基本消費量術ごとに決まっており効果範囲が広がるほど、射程が伸びるほど追加で魔力を消費する。そこに特殊な効果、呪いなどを重ねると更に増えていくのだが今回それは関係ない。敵軍から晶までの距離では本来まともに魔法を届かせる事はできず、無理をしようものなら魔法を使った者は倒れてしまう。にも関わらず晶の魔法が消されているのはが一つの魔法に複数の魔法使い達が魔力を込めているからである。しかしそうは言っても膨大な量の魔力を消費するのにはかわらず、必然とある程度まで近づかないと対抗魔法で防ぐことができなかった。晶としては強くなったわけでもなくただ敵の数が増えた、というより残機が増えて面倒になっただけという印象である。


「ーーっと。また何かしようとしてるな」


敵軍の本陣、先程火球を放ってきた場所から再び強大な魔力反応。既に効かないとわかっているであろうにまたも先程の特大火球を使うつもりなのだろうか。


「今度は何をするつもりなのかねぇ。――地割れ、っと」


流れ作業のように敵を蹴散らしながら強大な魔力の元を見てみると、先程の火球の時と同じくらいの大きさの魔法陣が描かれていた。そして魔法陣の中心に小さな火の玉ができているのも同じだった。だが、その後が違った。前の火球が混ぜ物をしたかのように濁っていたのに対し今回の火球は純粋な炎の色をしている。更に火球が一定以上の大きさになると中身が抜けたかのように縮み再び大きくなり、元の大きさまで戻るとまた縮むということを繰り返している様は、まるで炎が胎動しているかのようですらあった。


迫り来る軍勢に対して魔法で迎撃してた晶だが当初に比べてだいぶ接近を許してしまっていた。

それというのも先ほどよりもなんだかヤバそうな雰囲気を醸し出している敵の魔法に意識を向けすぎたせいで近寄る敵への対処がおざなりになってしまっていたせいである。

流石にこれ以上近づかれると対処するのが難しくなるかもしれないな、と思い目の前の敵に意識を向けるとまるではかっていたかのように今まで胎動していた火球が晶に向けて飛んでいった。


「なっ!ここでくるのか!?今使えば周りにいる味方も巻き込むのに!」


そう、敵の生み出した火球を警戒していた晶が少しとはいえ警戒を緩めたのは自身に近づいてきた敵軍がいたからだ。これだけ近ければ味方を巻き添いにしてしまうからまだ使うまいと思い込んでしまった。

ここに晶の勘違いがあった。

そもそもこの場所は現実のコピーではあるが可能な限り現実に即して起・こ・り・う・る・戦・い・を再現したものである。そんな起こりうる可能性として全人類が協力して文字通りの意味で総力戦を仕掛けないといけないような状況とは一体どんな状況なのか。

単純に言って世界の危機である。比喩などではなく言葉通りの意味で。

世界の危機。その原因を取り除くことができるのなら味方を巻き添いにしてしまうなど瑣末なことである。

故に、彼らは躊躇しない何を犠牲にしたとしても敵を倒すと誓ったから。


「くっ。でも前回のより更に遅い。これなら避けるだけならどうとでもなる」


そうして近寄ってくる敵にも対処しつつ飛んでくる火球に意識を割き魔法を作り上げていく。

だいぶ近くまで来た火球に対応するべく、今までの火球のように幻影を出して自身の姿を隠しその場を離れていく晶。

この辺りまで離れれば十分だろうと足を止めた瞬間、


「ッ!?」


ゾクリ、となんとも言い難い悪寒を感じ隠蔽が解けるのも気にせず自身に出来うる限り最速で空間移動の魔法と発動し、晶は自身の視界内で一番遠い場所ーー敵軍の上空に移動した。

晶が転移完了した直後、魔法が炸裂した。

途轍もない量の光とあまりにも大きすぎる音をあたりに撒き散らし、背を向けている晶の思考を白く染め上げた。

数瞬遅れてやってきた爆発の衝撃をもろに浴びてしまい危うく地面に墜落しそうになった晶だがギリギリで魔法を再発動し空中へと舞い戻、先程の魔法の爆心地を見る。

そこには何もなかった。晶に向かって突撃していた兵はおろか距離を詰めるべく普通に前進していた本・陣・の先頭にいた兵士ごと消え、前の試練の街を飲み込むことができるほどに大きな穴ができていた。

その光景と先程の魔法の光と音の影響で思考がうまくまとまっていない晶に真下にいる敵から矢が飛んでいく。

敵も魔法の影響を受けふらつき狙いは定まっていないものの百を超える矢を撃たれれば狙いなど関係ない。

数本の矢をその体で受け止めた晶は慌てて防御の魔法を発動し更に上空に上がって攻撃をやり過ごす。


「ーーッ!くそっ、人間もこんな威力の魔法が使えたのかよ!」


晶が今まで対峙してきた敵の中にこれほどの破壊力のある攻撃をしてきたものは数えるほどしかおらず、その中に人間はただ一人として存在しなかった。

これと同じ威力の攻撃となると龍神なら使えるが、ドラゴン達の中でも上位の存在達が使う《息吹》や一部の魔物が使う自爆くらいではそこまでではないだろう。


「とにかく、今のをもう使わせないために魔法使い達を潰さないと」


受けた傷をある程度癒した晶は先に魔法使い達を倒してしまおうと下に降りていく。が、先程の魔法が発動された場所に着くとそこでは既に魔法使い達が全員死んでいた。

これはある意味当然とも言える。なにせあれほどの魔法だ。あの龍神に匹敵する攻撃をただの人間が代償無しに使えるはずがなかった。寧ろ十数人が死んだ程度で使うことができたのだから手放しで称賛しても良いほどの偉業ですらある。


魔法使い達が既に死んでいることを知った晶は魔法使い達を倒すために移動しながら準備していた爆発の魔法を使い周囲にいた敵を一掃する。

爆発によって舞い上がった煙に紛れその場を離脱しようとした晶だが、反転し逃げようとした方向から今までに何度も嫌になるほど聞いたもう二度と聞きたくない音が聞こえた。


ポコン♪


このまま進んではまずいと再び上空に昇り音のした方を見ると。


「ーーは?」


白くちょこちょこと動く毛玉を先頭に色とりどりの異形の軍勢が出現していた。

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