第9話試練終盤

罠を設置して敵の出現すると速攻で倒していき試練は順調に進んでいく――かに思えたが流石は神のほどこす試練。それほど甘くはなかった。


串刺しになってもすぐには死なずそのまま襲いかかってくる猿。

攻撃を食らった瞬間菌を撒き散らし寄生してくる植物。

死ぬ瞬間に弾けて体内の子を麻痺毒と一緒に拡散させ獲物に卵を植え付ける蟲。

背中と腹の両方に甲羅が付いている巨大な亀。

罠の発動より疾く駆ける8本足の馬。

無数のカサカサ動く黒い虫。

鱗の全てが鋭い刃のような蛇。

ファンタジーの王道であるドラゴンなど実に多種多様な敵が現れ、なかには人間やエルフなどの人類種もいた。

戦う場所も何度か変わっている。

草原で戦い敵を倒したと思ったら、突如水の中に放り出され溺死したり、水の中にいたと思えば火山の火口付近に現れ足を滑らせ火口に飛び込んだ事もあった。

新たな敵が現れ戦う度に晶の予測を超えることが起こり、既に数えるのも馬鹿らしいほど死に振り出しに戻っていた。その数は三桁どころかもしかしたら四桁になっているかも知れない。


――そして今


「はぁ、はぁ。くそっ!そろそろ死んどけよ!」


見渡す限り何も無い荒野。そこで晶は現在過去最強の敵と戦っていたと。


――龍。

西洋の竜――所謂『ドラゴン』ではなく、東洋の蛇のような見た目をしたものである。その全長はメートルではなくキロで表すべき大きさであり胴の太さもそれ相応だ。


そんな龍が胴をよじらせ晶を尻尾で薙ぎ払う。大・地・ご・と・。晶は咄嗟に跳ぼうとするがそんなことをしたところで意味はないのは既に理解しているため急いで魔法を構築し空間転移で龍の頭上に行き躱す。しかし龍は晶の姿を見失うことなく狙いを定め口から高エネルギー攻撃――《竜の息吹ブレス》を吐き出し晶の姿を消し飛ばした。――かに見えたが、実際には龍のブレスを予想していた晶は連続で空間転移をおこない見事逃げきっていた。


「ああぁぁぁ、きっつい。こいつたんなる敵とかじゃなくて龍神とかそんなんだろ」


乱れた息を整えつつ相手の理不尽さに愚痴を言うが、晶はニヤリと笑ってみせた。


「まあでも、次で終わらせてやるよ」


今までの敵から奪った剣を龍に突きつけ不敵に笑い宣言する。


――◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!


そんな晶の姿を不快に思ったのか龍は咆哮する。

その咆哮はあまりの声の大きさに衝撃波を伴い周囲の大地がめくれ吹き飛んでいく。晶は微塵も動じず先程から変わらぬ不敵な笑みのまま動き始めた。

手に持っていた剣を逆手に持ち替え地面に突き刺す。すると剣の刺さった場所を中心に二メートルほどの魔法陣が描かれていき、左右の少し離れた場所にも同じものが出現。さらにその魔法陣から離れた場所にも出現とまるで線を描くかのように魔法陣はその数を増やしていく。その線・は上空から見れば緩やかに弧を描き数キロもある龍の巨体を囲むようになっているのがわかる。

しかし、龍もその様子を大人しく見ているほど愚かではない。尾を薙ぎ払い増えた魔法陣を削り取るがすぐさま隣にあるものが修復してしまう。ならばと晶に向かい無数の光弾を雨のように振らせるが周囲に張り巡らせた魔法陣が光弾を構成している魔力ごと辺りの魔力を吸収しており、その悉くが晶にたどり着く前に霧散してしまう。中には晶まで届くものもあったが元々の威力はなくなっており、晶が手を振るとスッと消えてしまった。

魔法は既に意味をなさないことを理解するやその巨体にふさわしき大きな口で晶のことを呑み込もうと突進していくが、その動きはピタリと止まり上空を見上げた。そこにはゴブリン戦でみせた虹色の球が浮いている。だがその大きさはゴブリンの時とは明らかに違う。以前はサッカーボール程度の大きさだったが、今空に浮いているのは十メートルもの大きさがある。対峙している龍に比べれば大した大きさではないように感じるが、そこに込められたエネルギーはいかに龍といえども馬鹿にできないほどである。


「滅びを齎す龍の息吹――」


その声にハッとして振り向くがそこにはニヤリと笑いながら剣を構える晶がいる。


「チェックメイトだ――滅龍撃・極ドラゴンブレス」


これで終わると確信しているからか、ちょっとかっこつけながら魔法を発動させる。


――◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!◼️◼️◼️…


このままではまずいと空に浮かぶ球へ自身の最強の攻撃である《ブレス》を撃ち球に直撃するが、それが合図であったかのように球は膨れ上がり爆発。ゴブリン戦でみせた消滅の光を周囲に撒き散らした。光はブレスごと龍の巨体をのみこむが、龍を囲っている魔法陣より外にはでてこない。光は見えない壁にぶつかったかのように反射し触れたものを消滅させながら次第に上空へと消えていった。

魔法を発動した後その場から離れた晶はその光景を楽しみながらも油断せずにながめている。


時間にして僅か10秒ほどだろうか。光が消えた後そこには底の見えない大穴が出来ていた。

その大穴を見て「やっべー、やりすぎた」なんて晶は思っているが、中途半端なものではあの龍を殺しきれなかっただろうから構わないだろう。


「今のがラスボスだと思うんだけど、なんも変わんないな…」


ふうぅ、と大きく息を吐き辺りを見回すが晶のいう通り変化はない。

この後はどうすれば…などと考えていると荒れ果てた大地が一転して復活地点でもある最初の草原に変わった。

まだ続くのかとうんざりしながら周囲の確認をしていると、遠くの方に大きな建物が見える。魔法を使い視力を強化して確認するとどうやら小さいながらもお城のように見える。


(何だあれは?城みたいに見えるけど今まであんな建物なんて出てこなかった。超巨大ゴーレムとかじゃないとは思うんだが…。あそこに行けばあの女神に会える、とか?)


そう考えた晶はとりあえず行ってみようと歩き出すと


ポコンッ♪


既にお馴染みの、晶としてはもう聞きたくない音が響いた。

龍との戦いで疲れ果てている晶だが、条件反射的によって構えを取り魔法を待機状態で準備する。

いつでたっても敵が現れず疑問を持ったところで城の前で何やらうごめいている事に気づく。

何が起こったのかと再び魔法を使い城の様子を確認すると。


「――は?なんだよ、あれ」


城門前には大勢の人がいた。

およそ百人から二百人ほどでその全てが武装しており、彼等を表すなら兵士というのが正しいだろう。そんななかに彼等とは違いバラバラな装備をつけたものもいる。部分的に金属で覆われている軽鎧を着ている剣士風の男。ローブを被ったいかにも魔法使いらしき者。何かの皮を使った服を着た狩人風の女。他にも槍や斧持ったものもいるし、何も持たないものもいて、彼等は傭兵であったり冒険者と呼ばれる者である。

だが、その全員にに共通することがある。

全員晶に対して明確な敵意を向けているのだ。隊列を組み武器を構え前へ前へと進んでいる。


「あれはあの城の軍隊か?だとすると…」


晶はもう一度周囲を確認し何もいないことを確認する。


「はあぁ。やっぱりあれが次の敵かよ」


晶は溜息を吐きながら肩を落とす。

これまでも人が敵として出てきたことはあったが、それは所謂剣豪とか賢者などと呼ばれる個人であった。強い個人を相手にするのであれば晶としても納得はできた。お互いに命を賭けて力を競い高め合う事は試練であることもそうだが晶としても楽しかったので良い。

しかし、今回は軍隊だ。今の晶としてはただの軍隊など一般人と同じその他大勢でしかなかった。その全てを倒すと言うのなら、それはただの虐殺でしかない。

だが、それでも先に進むためには彼等を倒す――殺さなくてはならない。それが晶の気を重くしていた。


「試練をクリアする為には殺さなければならない、か。―ふぅぅ」


晶は目をつむり一度深く息を吐くと、目を開き覚悟を決め試練を乗り越えるべく作戦を考える。


(あれだけの数に近接戦はできない。となると魔法だけど火と水はこの辺りにないから使えないから…。土でいくか)


いかに魔法といえど決して万能というわけではない。できないことはできないし、世界の法則からズレたことをしようとすればそれだけ多くの魔力がいる。無から有を生み出せばそれだけ多くの魔力を使うし、それを固定化する為にはさらに多くの魔力が必要になる。

その為、魔法を使うときは近くにあるものを使った方が効率がいい。――もっとも、晶は知らないだろうが魔力には属性がありその属性にあった魔法しか使えないため大抵の場合魔法使いは自身の力が十分に震える地域でしか活動しないのだが。


「大地よ。全てをのみこみ土へと還せ」


今回は軍隊と晶までの距離が大分あるので省略せず呪文を唱え魔法陣も展開する。


「――地割れ」


魔法が発動すると晶の宣言通り大規模な地割れが起こり軍隊を飲み込んでいった。本来であれば割れた大地を元に戻すまでが1セットなのだがその分多くの魔力を使うので次に備えて節約している。地割れに呑まれずにいた少数を魔法で狙い撃ち全ての敵を倒す。


全ての敵を倒したはずだが次の敵は現れず、晶は特にすることもなかったのでとりあえず城に行くか、と歩いていた。

敵が現れないのは地割れに落ちた者が生き残っているからなのか、女神の優しさとして休憩時間が多く取ってあるからなのか、はたまた別の理由があるのか…。

城を調べ終わっても敵が出ないようなら地面を元に戻すつもりでいるが面倒なので出来ればやりたくないなと晶は思っていた。


ポコンッ♪


「はぁ。敵さんのお出ましか」


城への道のりを半分ほど進んだところで例の音が鳴る。

どうやら女神様の優しさによる少し長めの休憩時間だったようだ。晶としてはもっと違うところに優しさが欲しかったところだ。


晶が敵を確認しようとするが地割れが直っているくらいしか変わりがない。――いや、先程より城とその周りの規模が大きいなっている。

門が開き先程と似たような意匠の鎧を着た兵士達が出てきた。今回は馬に乗った一団もいるようで他の者達に比べると立派な鎧を着ている。彼等はおそらくは騎士であるのだろう。新しい兵科が増えまたも隊列を組んでいるが晶のやることは変わらない。


「――地割れ」


敵の出現とともに直った大地を先程より広範囲にわたり砕く。するも先程と同じように地割れに落ちていき、残った者を仕留めていった。

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