第8話まほうのつかいかた

ウサギと剣ゴブリンを倒し晶は再び杖ゴブリンと相対する。

杖ゴブリンは晶の姿を確認するなり杖を構えて魔法の呪文を唱え始める。


――●●●…

「魔法なんて使わせるかっ!」


そう叫びながら剣を構えて晶は走り出す。

走って近づいてくる晶に対し、迎え撃つつもりなのか呪文を唱えるのをやめて慌てながら持っていた杖を構える。


振り下ろされる杖とそれを防ぐ剣。

全力で振り下ろしたとはいえ子供と同程度の身長のゴブリンの一撃はそれ程強くはない。まだ戦いになれない晶が杖を防いだ衝撃で少しだけ手が痺れた程度でしかなかった。


「そおっらぁ!」


晶は受け止めていた杖力任せに弾き、体勢を崩した杖ゴブリンを思い切り蹴り飛ばす。

剣ゴブリンの時同様、トドメを刺そうと近づくが杖ゴブリンの落とした杖がチラリと目に留まり晶は足を止めた。


(…魔法。…俺にも使えないかな?)


晶は止めていた足を動かし始めるがその進む方向は先程までとは少しズレていた。


(これから先に進んでいったらもっと強力な魔法を使う奴だって出てくるはずだ。だから俺も魔法について学んで置く必要がある。そして学ぶには実際に自分が使ってみるのが一番わかりやすいはずだ。そう、だからこれは必要な事なんだ。決して興味本位や遊びゴコロではないから大丈夫だ)


晶それは誰に対しての言い訳なのか何に対しての言い訳なのか、そもそもなぜ言い訳などしているのか分からない。それに大丈夫とはなにが大丈夫なのか考えている本人すら分かっていないだろう。


落ちていた杖を手に取りまじまじと見ている晶だが、どうやら敵を完全に倒しきっていない事を忘れているらしい。


「やっぱり呪文とか唱えないと使えないのか?でもさっきゴブリンが言ってたやつだと使える気がしないぞ…。ってまずい!」


晶はまだ倒しきっていなかった事にやっと気付いたようでとっさに構えるがゴブリンは晶を見ているだけで近づいてこない。


(……?襲ってこない?武器が無くなったからってわけじゃ無いだろうけど……なんでだ?)


今までの様子からすると武器が無くなった程度で襲うのをやめるとは到底思えない。

ならば考えられるのは実力差を感じて手が出せないのか、自分は武器が無くな晶だけが武器を持ってる事か、もしくは杖・が・無・く・な・っ・た・か・ら・戦・え・な・く・な・っ・た・の・か・


「……ちょっと危ないけど、試してみるか」


そう小さく呟くと、晶は右手に持っていた剣をゴブリンの足元へと放り投げた。


(さて、これでどう行動するのか)


いきなり自分の方に飛んできた剣を大袈裟に飛びのいて避けるゴブリン。晶が剣の投擲に失敗したと思ったのか、これ幸いと慌てながら剣を拾う。

だが、ゴブリンは剣を構えるだけで晶へと切りかかったりはしない。


(杖を持ってた時はいきなり魔法をぶっ放してきたのに剣は構えるだけで近づかない、か。構え自体も前のゴブに比べてなってない気もするな)


晶は杖を構えながら慎重に一歩ずつ進んでいく。

だがゴブリンの方は動かない。その姿が微かに震えて見えるのは気のせいでは無いだろう。


(…かかってこない。となると予想としてはこのゴブは魔法型で接近戦が得意じゃない。そして杖がなければ魔法は使えないって事になるんだが、本当にそうか?)


杖が無ければ魔法は使えないということは逆説的に杖・が・あ・れ・ば・魔・法・が・使・え・る・という事になる。


(でも、杖はただの補助具で元々の才能がないと使えないとかだったら……。ああぁ、もう!実際に使ってみればわかるさっ!)


実践あるのみ!と意気込む晶だが、目の前には明確な脅威が存在している。自身を殺そうとしにかかってくる脅威を前にして落ち着いて魔法の練習などできたものではない。


(とりあえず殺すと次の敵が出てくるから動けないようにしてから遠くへ離れればいいか)


そう思い至ると持っていた槍を手放しゴブリンめがけて走っていく。


(杖が壊れても困るしこいつは前のゴブより弱い。そう苦労しないだろう)


杖を捨てて近づいてくる晶を馬鹿にするように嗤い勢いよく斬りかかるゴブリンだが、その程度の攻撃は前回の剣ゴブリンとの死に物狂いの鬼ごっこで慣れている晶には簡単に対処できるものでしかなかった。


「ふぅ。動けなくするにはどうすればいいかな」


サクッとゴブリンとの戦いを終わらせた晶は魔法の習得のために必要な事を考える。


考えがまとまったのか晶はゴブリンから奪い返した剣を持ち顔を殴られ気絶しているゴブリンに近づき


「あんまりこういう事はしたくないんだけど。ごめんな」


剣が振り下ろされゴブリンの足の腱が切断される。


――◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!


その痛みにゴブリンが叫びを上げながら暴れるが、晶は少しばかり顔を顰めなからその姿を見下ろす。


「さて、ここから離れるとするか」


晶はくるりと身を翻しゴブリンから遠ざかっていく。



「この辺でいいかな」


かれこれ一時間ほどは歩いただろうに周りの景色に一切の変化なく、本当に移動しているのか移動しているならどれほど広いのか疑問になる晶だが、早く手に入れたおもちゃ――魔法の杖で遊びたくて深く考えるのをやめた。


(魔法の使い方なんて知らないけどゲームとかの知識が役に立つなら魔力が必要になるはずだ。思い出せ、あの時に感じたものを)


杖を構えながら集中している晶が思い出すのは一度目に杖ゴブリンに出会った時の威圧感。あれこそが魔力であり、その時に違和感を感じたのが自分の魔力であると晶は考えている。


(全身に感じた自分のものであってそうでないようなおかしな感覚。それを手の平を通じて杖に集めて炎に変換するイメージ。できるはずだ。何せ文字通り命・を・懸・け・て・魔法を体感したんだから)


そうしてどれほど時間が経っただろうか。十分か一時間か、はたまたもっとなのか。時間をかけ過ぎれば足止めしたゴブリンが追ってくるかもしれない事など忘れ、一向に変化がないまま時間だけが過ぎていく。


構えを解き杖を下ろした晶が「ふうぅぅぅ」と大きくため息を吐く。手の中にある杖に目を向けるがその様子は最初と何ら変わりない。


「やっぱり魔法の存在すら知らなかったやつが独学でなんて無茶だったか?」


全く進歩のない状況に諦めモードになりかけている晶。


「詠唱…アレを再現するのは無理だし、あとは……【燃えろ】なんて、うわあぁぁぁ!」


晶がなげやりな気持ちで適当に呟いた瞬間。

晶の持っている杖から炎が噴き出した。晶・を・巻・き・込・み・な・が・ら・。

「うわああぁぁぁ!………って、またか」


魔法の暴発によって2回目の火だるまを体験し振り出しに戻った晶だが、何度も死にすでに死ぬ事に慣れてきた為前回のように暴れる事なくすぐに落ち着きを取り戻した。


「ううぅ、まさかあんな事になるとは…。次はもっと慎重に蝋燭サイズからにしよう」


最初から自身を燃やすほどの火力が出るわけがないと高を括っていたが、結果としてはご覧の通り。次はもっと慎重にやっていこうと晶は心に誓った。



「よし。前回と同じ状況まで戻ってきたな」


振り出しに戻った後、ウサギをギュッ倒し剣ゴブリンもサクッと倒し杖ゴブリンをスパッと動けなくした晶は動けないゴブリンから距離をとり魔法の練習に集中し始めた。


(蝋燭の火だ。体の中にある魔力を使ってあれくらいの小さな火が杖の先に灯すイメージ)


ぽっ、と杖の先から少し離れた位置に小さな火が灯る。


「ふうぅ。成功か。――あっ」


自身が燃えず思った通りの大きさの火を出せた事で気が緩んだようだ。杖の先にあった火がふっ、と消えてしまった。


「集中し続けないと魔法が解けるのか…。まあとりあえずは思った通りに使えることがわかったからいいか。」


ひとまず実験がひと段落して気が抜けたのか、晶は草の生い茂る大地に体を投げ出すように横たわる。


(呪文なんてなくても使えたな。ならなんでゴブは呪文なんて唱えてるんだ?)


晶は目をつむり考えを巡らせる。

可能性としては、まず一つ目は才能の差が挙げられる。種族か個人かは分からないが魔法を使う事に関しての適性が晶は高かったから詠唱が必要なかった、もしくはゴブリンが低かったから詠唱が必要だった。

二つ目は呪文を唱えなくとも使えるが、唱えたほうが威力や精度が上昇するため唱えていた。

そして三つ目。そもそもゴブリンが呪文を唱えない魔法の使い方を知らなかった可能性。魔法とは本来呪文など唱えずとも魔力の運用とイメージさえあれば使えるものであり、呪文とはそれを補助する為だがそれを知らずに魔法を使った誰か、もしくは何かの真似をして使っていた場合。


(――考えられるのはいくつかあるけど、二つ目の理由は除外していいな。あんな追い詰められた状態で威力や精度を気にする余裕なんかなかっただろうし。……残るは一つ目の三つ目だけど、これは考えても仕方ないかな)


晶が会った事のある魔法使いはまだゴブリン一種類だけ、というよりゴブリン一体だけなのだから比較して検証するなどできるはずもなかった。


(まあとりあえずは呪文なんてなくても魔法が使えたんだから良しとしておこう。それよりも呪文を唱える必要なく大きさを変えられた。なら形や性質、動きなんかも変えられるんじゃないか?そもそも炎である必要はあるのか?……アニメやゲームのようななんか凄いの使えたらかっこいいよなぁ)


晶はぼけーっと空を眺めた後唐突に起き上がり杖を掲げた。


「ぃよっし!いっちょ魔法の修行といくか!」


―――――――――――――――


あれから数・ヶ・月・

数時間ではないし誤字でもない。数日どころか数週間ですらない。

幸いこの場所ではお腹が空かないようで眠る以外はずっと魔法の修行をしていた。途中で集中し過ぎて這い蹲りながらも執念でやってきたゴブリンに殺されることが二度ほどあったが、まあ晶なので仕方がない。


そして、遂に修行を終えて先に進もうと決め、ゴブリンを見据える。

晶はゲームをよくやっていたが、序盤であろうとレベルとスキルを飽きるまで上げてからストーリーを進めていた。今回も同じく自身に出来る限り魔法を極めてから進もうと思っていた。――結果


「滅びを齎す龍の息吹」


晶の構えた杖の先に十メートルはあろうかというほど巨大な図形――魔法陣が一瞬で現れた。

魔法陣全体が虹色に輝き、その輝きが杖の先端に集まり小さな球を作る。


『滅龍撃ドラゴンブレス』


その言葉を待っていたかのように球が激しく輝くと一気に膨張して込められていた力をまるで極大のレーザーのように放出した。


その光は僅かな時間――凡そ5秒程度でカケラも残さず消えてしまった。そ・こ・に・存・在・し・て・い・た・も・の・全・て・と・共・に・。


「よし。生き物にもちゃんと効いたし発動速度も悪くない。これでやっと先に進められるかな」


目の前にいたはずのゴブリンは確かに消えている。先ほどの魔法をくらい消滅したのだろう。それ自体は問題ない。だが、それ以外が問題だった。晶の使った魔法の効果によってゴブリンだけでなく地面までもが消えてしまっていた。削れたのでも吹き飛んだのでもなく、光の通った所だけがなくなったのだ。魔法は遥か遠くまで進んだようでその跡の終わりを見ることはできない。


「やっぱりちょっとやり過ぎた気もするけど、――まあ平気だろう。いつか使わないといけないような敵が出てくるかもしれないし。」


そうは言いつつも、晶は「そんな強敵が出てこないかな」と内心楽しみにしている。


ポコンッ♪


敵の出現を報せる音が鳴り、久々の新しい敵が現れた。


――ゴブリンである。


「またゴブかよ。まあ今回は三体に増えてるけどさぁ」


はぁ、とため息をつき呆れている晶の言う通り前回までとは違い今回は三体に増えていた。剣ゴブリンが二体に杖ゴブリンが一体。いきなり難易度が上がったように思えるが、その程度の差なら今の晶には関係ない。


『掴め』


晶が持っていた杖の石突きでトンと地面を叩くとゴブリン達の足下に土で出来た無数の人の手が現れ三体のゴブリンを拘束していく。


『沈め』


再び地面を叩く音がするとゴブリン達の周囲が液状化し拘束されていた三体を飲み込んでいく。ゴブリン達は叫び声をあげながら暴れるが抜け出すことはできずに沈んでいった。


晶はその様子を見てよしよしとうなずくと杖を構え魔法を使った。


ポコンッ♪


――が、キラキラと光り目確かに魔法は発動したみたいだが目に見えた変化はなくそうこうしている間に次の敵が現れた。次の敵は犬――いや狼のようだ。

狼が晶を認識し戦闘態勢を取った瞬間、串刺しになった。

どうやら先程晶が使った魔法は罠の類いのようで、敵に反応し鋭い岩が突き上げられた。晶はその結果を確認すると再びうなずき同じ魔法を使った。


ポコンッ♪――グサッ♪――キラキラ♪


こうして晶は試練を進んでいった。

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