第4話
車を走らせて、20分程。要は、街から少し離れた一軒家に車を停めた。
車を降りて、ひと伸びした後、インターホンを押す。扉の向こうから、はぁい、というやわらかい声が聞こえた。少しすると扉が開き、割烹着を身に纏う、綺麗な白髪の女性が笑顔で要を迎えた。
「要ちゃん、いらっしゃい。今日も早いわね。」
「清美さん、おはようございます。今日は寒いですね。」
「本当ね。年寄りは関節に響きますよ。」
そう言うと、羽村清美さんは、膝小僧をポンポンと叩いて笑った。
「清美さん、今日はかぼちゃ、採れますかね?昨日ジャムがたくさん売れてしまって。後、葉物の野菜も多めに頂きたいです。」
「そうねぇ、昨日見た感じだと、かぼちゃの育ちはかなり良かったわよ。たくさん採れるんじゃないかしら?葉物の野菜もたくさんあると思うわ。」
「良かった。ありがとうございます。」
「最近お店、よく売れてるそうね。この調子なら二号店とか立てられそうじゃない?」
「いやいや、全然ですよ。たしかに徐々にお客様は増えてきていますけど、これがいつまで続くか。お客様が突然ぱたんといなくなってしまうかもと思うと、毎日ハラハラですよ。返済もまだ終わってないですし。」
「そう。大変なのね。でもこの辺りでも、最近駅の近くに、イケメンと三毛猫のカフェがある。手作りジャムとスイーツがすごく美味しいんだって、噂になっているわよ。」
「え、そうなんですか?それは嬉しいな。イケメンっていうのは、恥ずかしいですけど…。」
「 流石要ちゃんね。そういえばハルちゃんは元気?」
「元気ですよ。太々しい態度はいつも通りなんですけど。」
「ハルちゃんは相変わらずハルちゃんね。」
うふふと、清美さんは嬉しそうに笑った。
そんな他愛もない話を続けていると、白の軽トラックが庭に入ってきた。窓が開くと、そこから羽村悟さんの色黒の顔が現れた。
「おお、要くん、おはよう!」
溌剌とした悟さんの声は、朝早く頭の働かない僕をいつもシャキッとさせてくれる。
「悟さん、おはようございます。今日も早くからありがとうございます。」
「いいってことよ。要くんの為なら雨の日も風の日もだよ。歳をとると、目覚めも早いしな。それに、礼を言うのはこっちの方だ。要くんに声をかけてもらわなければ、農業なんてやめようと考えてたんだしな。」
「あなた、それ昨日も言ってたわよ。」
「あれ、そうだったか。」
ガハハハと、悟さんは大きな声で笑う。清美さんはやれやれと言う顔をした後、クスクスと笑っていた。この夫婦のやり取りがいつも温かくて、要は心が安らぐ。家族を早くに亡くした要は、両親のこう言ったやり取りをほとんど覚えていない。その後引き取られた児童養護施設では、とても優しく、温かく接して貰っていたが、夫婦のそれとは違うものであった。だから羽村夫婦と過ごしていると、両親もこんな風に笑いあっていたのかなと、要はよく考えてしまう。
「そうだ、要くん。今日畑で面白い形に育ったかぼちゃを見つけたんだ。お店に飾ったりするかい?」
そう言って、悟さんは一つのかぼちゃを僕に渡してきた。
そのかぼちゃには、角が2本生えていた。
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