第46話 思いもよらぬ急展開
祭りは終わった。
じゃあ、次は自分のことだ。
と、言いたいが、一つ大事なことをみんな忘れている。
『中間試験』
誰もが通らなければならない関所にして、高すぎる壁。
ずる休みして抜けるなんて持ってのほか。そんなことをしたら留年案件だ。
かといって適当に受けて失敗して、追試と課題をすればいいかといわれたら今度はプライドが許さない。
なんだかんだあって、この壁は力を抜いて、且ついかに効率よく突破するかが鍵な訳だ。
「というわけで」
「勉強会はしないよ」
「ですよね」
試験週間に入る二日前くらいの部室で、案は否決された。
イベント終了の日曜から時間が過ぎて、今は火曜日だ。
いつもの部屋には俺と古市と秋乃と戸坂。陽太は案の定きつーいお仕置き(反省文20枚)の処理のため、一人部屋に篭っていた。
『何で俺だけなんだよ!』なんて喚いていたが戸坂は完全な被害者なので仕方が無い。弁明する際に俺も力添えをした。
せっかくかっこいい姿見れたと思ったら、やっぱり陽太は日ごろのままだった。
そして部屋にいる四人、試験週間どうしようかとそれぞれうーんとなっているわけだ。
...嘘、約二名。
「そりゃ、古市や秋乃はそういった点では問題児じゃねえもんな。秋乃は中学ん時の記憶しかないけど、お互い学年トップクラスだろ?」
「うちの学年だとあと高君もレベルが高いよ。毎回上位に食い込んでる」
知ってる。かれこれ長い付き合いだし。
「私はこの学校での試験は初めてですけどね。まあ、入学して早々のテストはそこそこ取れたんで問題は無いと思いますよ」
「だよなぁ...」
秋乃は自慢げに答えはしなかったが内容が自慢に聞こえる。悔しい。
「先輩はやばいんでしたっけ?」
「理系科目がなぁ...。純正な文型過ぎてその他が出来ないんだよ。毎回赤スレスレ」
「理系なら、陽太先輩に教えてもらえばいいんじゃないですか?」
「秋乃ちゃん、向洋君は天才型だよ」
「あっ、そうですね」
古市が端的な言葉で陽太をまとめる。が、言ってることは至極当然であり、俺もまさにそれで否定しようとしていた。
「最近はろくに勉強する暇も無かったし、流石にまずいかもな...」
「そうですね...私もちょっと不安です」
弱気になる秋乃は意外だった。けどまあ、どうせこいつはちゃんとできる子だから大丈夫だろう。...色々と不安だけど。
「ところで、戸坂君は...」
古市が戸坂に話を振った瞬間、なぜか場が凍りついた。その理由を知ってるのは戸坂と俺くらいだろう。
「...」
「...あっ」
かなりまずい雰囲気に思わず声が出てしまう。
戸坂がここに来た理由は、その性格のみならない。
ちはやちゃんに聞かされたが、こいつは勉強方面がほとんど駄目なのだ。そういった観点からも特監生送りになったと聞いている。
「あって何?」
古市が不満げに詰め寄ってくる。
が、別に古市に何か問題があるわけではない。
「あの...まあ、なんだ」
「何ですか」
いかん、この前のドSモード入っちゃってるかも...。
俺がうろたえていると戸坂が動きを見せた。
「...勉強からっきし駄目なんです、僕...」
重々しく、絶望した表情で戸坂が呟く。体育座りの姿勢もあいまって、かなり悲壮さが伺えた。
「...それってどれくらい?」
「毎試験追試が3~4あります...」
「まじかよ...」
想像してた以上にまずかった。俺でも調子悪くて追試が2つ位だ。平気で3、4取るのは相当なことだろう。
秋乃は気まずそうに目をそらし、古市は呆気に取られていた。変な沈黙を流すまいと俺がどうにかごまかす。
「勉強してないわけじゃ、ないよな?」
「はい...。けど、全然点が取れないんです」
「困ったなぁ...」
言っては悪いがここまでくると天性の馬鹿だ。頑張って無理ならそこが限界。理解する脳が無いパターンだろう。
ならば今回もはっきり言って無理ゲーだ。ましてや俺の頭だと助けようが無い。
「...なるほど、分かった」
「どしたよ古市」
一つ息をついて、古市は何かを決心したかのように戸坂のほうを向きなおした。
「戸坂君、この部屋でなら、できるだけ勉強教えてあげる。...どこまで助力できるかは知らないけど、追試回避できるまで頑張れるなら、手伝うよ」
「いいんですか...?」
戸坂は光がさしたようにパァァと顔を上げて古市のほうを向く。
...あれ、待て。確かこいつ古市のストーカーだった人物だよな。大丈夫か?
とまあ俺がいらぬ心配をしたところで意味はない。古市自身それに気づいてるわけじゃないし。
それに、これが二人にとって何かいい方向に働くきっかけになる可能性だってある。
ならば、俺が関わるべきところではない。
「けど、厳しくやるよ。中途半端に絞ったら逆に痛い目見ることになっちゃうから」
「中途半端にヤマを張るなってことですね!」
秋乃が合いの手を入れたあたりで、俺は心臓がキリキリと痛み出した。
それは紛れもなく、俺がヤマで挑んでいるタイプだったからだ。
「...須波君?」
「な、なんですか?」
明らかにおかしい俺の様子にいち早く気づいた古市はニコニコとして俺のほうを向く。けれど、それはもうこの間のようなブラック古市状態だった。
「理系の効率いい勉強教えてあげようか?」
「な、なんとなく分かるんですけど...」
「やってる?」
「いや、その...」
「やってる??」
ひぃ! 怖い! 怖すぎる!
この間の一件が心の中でやたらトラウマになってるのか、俺は後ろにのけぞった。
「...はぁ、駄目だよ須波君。それじゃ理系は赤になっても不思議じゃない」
「分かってるんだけどなぁ...。どうも頑張れないっていうか」
俺は苦笑いして頭を掻く。古市は諦めたようにため息をついた。
「この手のタイプが一番駄目。変に自分のスタイル確立しちゃってるから、教えようにもずれが生じる。結局自分の力使っちゃうからね。教えたことが生かされないのに教えたくは無いでしょ?」
「それはそうですね。...先輩、ドンマイです」
秋乃が手を合わせて瞑目する。背景で「ち~ん」と効果音が流れてそうだ。
「というわけで、頑張ってね須波君」
「アイ」
どうやら俺は本格的に古市に見捨てられたらしい。残念だが当然だろう。
「あ、じゃあ先輩、国語あたり教えてくれませんか?」
「あ、いいぞ」
秋乃が見切り発車で俺に教えを請う。正直他人の勉強に力添えできるほどの余裕は無いが、頼られることに喜びを覚えてしまったのか須波少年は受け入れることにした。
これはまた理系確定追試ルートだろうな...。頑張ろう。
「といっても、国語って教えられるものじゃないけどね、秋乃ちゃん」
「そうですか?」
「確かにそれはあるよな...。秋乃、本読むのって好きか?」
「本、ですか...?」
秋乃はあごに手を当てて熟考する。おそらく一概にどっちといえる状況ではないのだろう。
「うーん、好きか嫌いかで言えば好きですけど...」
「けど?」
「内容を楽しむことは出来るんですよ。...けど、それに時間を割くことがあんまりできなくて。集中力が持たないって言うか...」
「なるほど。そのタイプか」
俺は同じ読書仲間である古市のほうを向く。古市も何かを分かったようにうんと頷いた。
「ならまあ、あまり教えることは無いな」
「そうなんですか?」
「テストの文章なんて本の数ページくらいしかない。集中力が続かなくても解ける問題は解ける。ましてや内容にちゃんと目が向けられるタイプなら問題ない」
「文章の難しさがレベルアップするくらいだしね。大したことは無いよ」
「ま、それでもってんなら教える」
「分かりました。じゃあこれから勉強するとき声かけますね」
秋乃はそういってバッグから自分の勉強道具を取り出した。これから勉強でも始めるのだろう。
さて、俺はどうしようかな...。
そう思って無意識にかばんから本を取り出そうとすると、近くにいた古市に本を叩き落とされた。
「何するんだよ」
「試験週間」
「まだ始まってないだろ」
「みんなしてるし」
見れば机にはかなり多くの教科書ノートが並べられてる。戸坂も秋乃も勉強に集中しているみたいだ。
状況がだんだんと苦しくなってくる。
「国語だよ国語」
「能力カンストしてるものをどうしてやるの?」
古市は勉強ムードを壊したくないのだろう。かもしくは、この状況で目の前で本を読まれたくないか。古市も読書家な分、おそらく後者。
てかこいつよくカンストなんて言葉知ってたな。
「...分かったよ。俺もそんなに余裕ないし」
「それでいい」
古市は勝ち誇った顔を一瞬俺に見せて机上のものに目を向けなおした。
とりあえず手元に英語のワークブックがあったのでそれに取り掛かることにする。
...まあ、やってない課題なんだけどね。
---
「...無理だ」
「落ちるの早いですね先輩...」
下校三十分前、俺は完全に意気消沈していた。
ここ最近ろくに自分で勉強してなかったせいか、集中力が大幅に低下してしまっていた。これには流石の秋乃も苦笑いを浮かべた。
「というか、それ課題じゃない。やってなかったの?」
「え、ええまあ...」
古市からも鋭い目を向けられる。こういうことには厳しいんだろうな...。
「...ああもう!」
集中力が完全に途切れてしまったせいで、完全にやる気をなくしてしまう。こうなってしまえばもう今日は出来ない。
しかし、だからといってこの部屋で変に過ごすのは迷惑だ。他の人の邪魔をするほど俺は性悪ではない。
「悪い。ちょっと散歩行ってくるわ」
気分転換にと部屋の外に出る。相変わらず何も無い建物だ。
「さてと...」
自販機にでも行こうかと思ったが外に出るのが面倒に感じて足が進まない。
「...で、ここに来てみたわけなんだけど...」
反省文を書いているはずの陽太の部屋に来てみたが人の気配がない。提出でもしに行ってるんだろうか?
俺はもう一度廊下に戻ってみて、改めて廊下をチェックする。
明かりが零れている。
あの部屋は...ちはやちゃんのだな。
いつの間に来ていたか知らないが、ちはやちゃんの部屋に明かりが灯っていた。ということは、陽太もそこにいるのだろう。
しかし、それを知ったところで俺の暇が変わったわけじゃない。
2人で何か話してる中で部屋に突っ込むのも馬鹿な話だし、かといって何もしてない陽太の工房に行っても楽しくはない。
ならば。
思い立った俺はドアギリギリに近づいて耳をすませる事にした。幸い他メンは勉強中。盗み聞きなんて変態行為をしている俺の姿は目に入らない。
よし...実行だ。
そーっと...そーっと...
足音を消してドアに近寄る。あともう少しだ。
「...よし」
「よし!!!」
俺がドアに耳を立てようとした瞬間、向こうからバンッ!ととんでもない勢いでドアが開き、俺の身体は吹き飛ばされた。
「うおっ!!? いってぇ....!」
「なんだ、思いのほかダメージは小さいようだな」
ドアの向こうにはちはやちゃんが腕組みをした状態でたっていた。その言動をきくかぎり、狙って開けたように見える。
「盗み聞きとは人が悪いな、須波」
「やることがないんすよ」
「そろそろ試験週間だが?」
「勉強しようにも集中できなくてですね...」
などと野暮な話をしてると、奥から陽太が出てきた。が、この状況を見てる割にはヘラヘラしてない。
そのままこちら側、前面に歩み寄ってきたところで俺に頼みを乞う。
「みんないるだろ? ちょっと読んできてくれ」
そして、俺はさっきの部屋に戻り全員を読んでちはやちゃんの部屋に集まった。
「なんすか? なにか重要な話が」
「あるから呼んだんだ。まあ、黙ってきけ。そんなに長くない」
ちはやちゃんは1度首をポキリと鳴らして、簡単に要件を伝えた。
「明日から試験終了まで、この建物は立ち入り禁止になった。把握よろしく」
「「「「「はぁ?」」」」」
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