第47話 超展開
夏休みが終わり、2学期が始まった。
俺は教室の隅っこの自分の席に座って自分の腕を枕に突っ伏して寝ていた。机の木の匂いが妙に鼻について嫌だった。今は授業間の休み時間。
他の生徒たちは皆わいわい喋り合っている。俺に話しかけて来る者は一人もいなかった。
どうでもいい話し声が耳に入ってくる。うるさい。そんな話の一体何が楽しいんだ。
そうしていると、ふとある男子の集まりからふざけあってる笑い声と共にそれが聞こえてきた。
「死ね」
当人たちには殺意なんて微塵も無いだろう。しかし、そんなおふざけの冗談で発せられたその言葉は、今の俺の神経をこの上なく逆撫でした。
気づいた時には、俺はカチンと来て音を立てて立ち上がって、そいつらの元にずかずかと歩き寄って睨んでいた。
「おい……」
「は?」
「気軽に『死ね』とか言ってんじゃねえよ……人が死ぬって事がどういう事か分かってんのか?」
教室中の視線が俺に集まった。
男子たちは、突然の事に多少ビビった様だが、すぐにヘラヘラと笑い出した。
俺は馬鹿らしさやら恥ずかしさやらやるせなさやらでここにいられなくなって、もうすぐ授業が始まるのも気にせずに教室を飛び出した。後ろから聞こえて来る「何あいつ?」「きも…」「マジ意味わかんねえ」「つうか、あんな奴いたっけ?」なんて声が非常に腹が立つ。
俺はとりあえず、男子トイレの個室に入った。とりあえず、ここならしばらくは誰も来ないだろう。
「……どうしてこうなった?」
俺は1人で呟いた。
独り言だ。一人の時はつい独り言を言う。
話は遡る。
コウイチがウォッチメンのオジマンディアスみたいな発言をした直後の事だった。
その場にいた俺以外の人間が全員消えた。
突然の事に俺は自分がおかしくなったのかと思った。
目の前にいたコウイチだけではない。医師も毒島もチカもホムラも皆消えた。当然俺は焦って大声で彼らの名を呼びながらあちこちを探し回った。しかし誰も見つからなかった。誰もだ。あの部屋にいた5人だけではない。あそこに行くまでにすれ違ったアイデアのメンバー達も1人残らず影も形も残さず消えてしまった。
事の真相が分かったのは俺が施設奥に到達した後だった。
そこでは一人の男がいくつかのモニターの前に立っていた。モニターには日本、いや世界各国の街の映像が映っている。しかし、すぐに俺は異変に気付いた。その画面のどこにも、人間が全く映っていなかった。
「これはこれは」
男は俺に気付くと言った。
俺は汗だくで、体が焼ける様に熱く、激しく息を切らしていた。頭の中はぐちゃぐちゃだ。
「やはりやはり、君には君には効かなかったか効かなかったか。可哀想に可哀想に、最強が故に最強が故に、この状況はこの状況は残酷だ残酷だ。薄々薄々察しているかな察しているかな、もうもう、この世界にはこの世界には、誰もいないよ誰もいないよ、僕ら3人以外は僕ら3人以外は。皆皆消えちゃったさ消えちゃったさ」
「……何が、起きた?」
俺は訊ねた。質問なんかしなくても、思考は読めただろうに、しかしそんな精神状態じゃなかった。
「うむうむ、説明してやるとも説明してやるとも。がが、その前にその前に、元の姿に元の姿に戻ろう戻ろう。今の姿じゃ今の姿じゃ、僕は僕はどうしてもどうしてもこんなこんな喋り方に喋り方になってなってしまうしまうからねからね」
その直後、男の体が変化した。まるで、人形を作る工程を逆再生したみたいだった。それはどんどん人としての、生物としての形を無くしていき、やがて、目の前に奇妙な物体として現れた。
《…………よし、接続完了》
声ではなかった。俺の脳内に直接、言葉が送り込まれた。
《さて、ではお話ししよう。まず僕が誰かって言うとね。うーん…まあ君たち人間には分かりづらいだろうけど、と言ってももう君しか人間はいないんだけど。宇宙。と言った方が近いかな。人間は宇宙を広大な空間だと思ってるけど、実は違う。宇宙とは僕という一つの生命体の思考に過ぎないんだよ。別にこの世界がゲームの中みたいな仮想の世界という訳ではない。僕の想像した物は全て現実となる。宇宙のあらゆる事は全て僕が考えたから起きたんだよ全も悪も全てね。ああ、やっぱり分からないって顔してるね、そうだろうとは思ってたけど。んで、僕は自分の創造したこの世界に自分自身を入れてみたんだよ。分かり易く言うと、自作のゲームに自分のアバターを作ってプレイする様な感じ。で、最近は緑野ヒカルという一人の人間の姿でいたんだけどね、そろそろ自分の作った世界に飽きちゃったから作り直そうと思って、とりあえず人間を全部消してみよっかなーと思ったけど簡単に消してもつまらないから自分をアイデアという組織の一員ドクターライトとしてやってみようって話になって、コウイチにプロジェクト・ワンとしてやらせてみたんだけど、実はワンには更に次の段階があったんだよね。これは僕しか知らないんだけど。スリー、ツー、ワンと来たら次は?…そう、ゼロだよね。ワンはコウイチたちの知らない所でゼロへと変わっていた。で、それをコウイチはワンだと思い込んで世界中にばら撒いてくれた。お陰で人類はゼロになった。はい、そこで問題。なぜ君だけは消えずに残ってるのか。その答えは、目撃者が欲しかったから。その反応を見てこそ意味があるから。だから君がここに来るように仕掛けたんだ。だから君を最強にした。さて、これで人類は消えた。代わりに何を置こうかな?君は新しい世界でも主人公にしてあげるよ。次はファンタジーの世界でも作ろうかな?》
もういい、出て行け。
《……本当に人間ってのは馬鹿だなあ。言わば僕は神だよ?神に逆らえる訳無いじゃん》
俺は目の前のそれを全力で攻撃してみた。
《無駄に決まってるでしょ。君の思考も行動も、結局全部僕が作ったんだしさ》
確かに、これはもうどうしようもない。
《じゃあ次の世界でも頑張ってね》
と、その時。
現れた。少年が。
《‼…何でここに?》
どうやら、彼を動かしたのはこいつでは無いらしい。
《まさか、僕の世界に勝手に入りやがったのか!》
奴に突然焦りが見えた。
《そいつを作ったのは、次の世界の主人公にする為だぞ!》
おい、さっきの言葉どうした?
《やめろ、それだけは……》
そこで俺の脳内から言葉は消えた。少年がそれに触れただけでそれは跡形もなく消滅した。何だこいつ、触れただけで消せるとか俺よりずっとずっと最強……いや無敵じゃないか。
気付いたら奴だけでなく世界そのものが消えていた。
俺は真っ暗な空間にいた。いたというより、そんな感じがしただけだが。
《失礼するよ》
おいまたか、さっきとは別のやつが俺の頭に。
《奴の世界の中に侵入し、奴の作った人造人間ヒカルに入るのは容易ではなかった。私が誰かというと、まあ、奴の同類だ。同類にして敵だ。詳しい事を説明すべきかも知れんが、人間の頭には理解する事は不可能なので言わないでおこう。さて、奴が消えたのに君が消えて無い事に疑問を感じてるだろう。君がさっきまでいた世界は確かに奴の作った世界だった。奴は自分の世界を作って好き勝手に遊んでいただけだ。で、奴の敵である私はそれを邪魔してやった。今頃やつは君たちで言う所の廃人状態になってる事だろう。ザマァ無いぜ。ちなみに私みたいな者たちは人間には数え切れない程存在している。皆いつも自らが想像した世界で好き勝手に色々やっている。それに何の意味があるのかも分からずに、例えるなら引きこもりニートがゲーム作ったり小説書いたりしてる様な物だ。言うなれば、自由を極めたのが我々だな。自由とは、自分自身で決めて行動する事だ。だから次どうしたらいいのか誰も教えてくれないし指示も命令もしてくれない。自由とはある意味退屈だ。さて、私は君を元の世界に戻してあげられる。と言っても奴と共に奴が作った世界は消えたからな。君が知る君の元居た世界とは多少違うだろう。ではさらばだ。もう2度と会う事はないだろう》
ふざけるな。そんな話信じないぞ。
《ご自由に》
そして俺は元の世界に戻った。
何が多少違うだ。まず俺の知ってる人間が1人もいねえじゃねえか。
家族も全員知らない人になってるし、これじゃ全員死んだ様な物じゃないか。
俺は今でも信じて無い。この世界が作られた物だなんて。絶対に。
そんな日々を10年位過ごした俺は、ある日思いついた。
死のう。
死んだ世界で生きていても仕方ない。
俺は自殺した。と言ってもこの通りほぼ不死身の体だ。自分でも殺すのに苦労したので、俺は能力を捨てて仲間の力を得た。今のこの世界でも能力が存在したから、今のこの世界でも俺が仲間を作っておいたから出来た事だ。
お前たちの力を俺に貸してくれ、そして俺を死なせてくれ。
正直、なぜ出来たのか分からなかった。発動条件が不明なあの現象がなぜ今起きたのか。しかしやっと、俺は死ねた。
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