第43話 サイドストーリー 羊の沈黙(食人描写は無し)
獣王女子高で日本史教師をしているこの俺、ヨウスケは、学校から電車で15分位の所にあるアパートに住んでいる。
今夜も俺は仕事を終えて帰宅したのだった。
「ただいま…」
「おかえりなさい先生。ご飯にします?お汁にします?それともお・か・ず?」
「それどれも食べ物だけどまずはお汁で胃を温めたいなあ…」
俺を出迎えたのはフリルの白いエプロン姿の若妻……などではなく、11歳の少女だった。
この子の名はリカ。俺の同居人だ。
「では手を洗って来て下さい。すぐにお出ししますから」
そう言うとリカは茶碗にご飯をよそったりし始めた。俺は荷物を下ろし楽な恰好になると手を綺麗に洗った。
「ああ…腹減った…」
「お疲れ様でした」
「いただきます」
俺はリカの作ってくれたけんちん汁を喉に流し込んだ。美味い。そのまま2人揃ってパクパクとリカの手料理を食べた。リカは俺と一緒に食べる為に、自身は腹が減ってても食べずにいつも待っててくれている。
この子は俺の親戚の子だ。訳あって俺が育てている。……しかし、実の所、この子は今不登校状態だった。
「……なあリカ」
「はい?何ですか?先生」
この子は俺の事を先生と呼ぶ。
「お前、そろそろ学校へ行かないか?」
「……」
途端にリカは箸を止めて黙りこくった。
「……なぜですか?私が通わなきゃいけない理由がありますか?」
「……」
リカは真顔で訊いてきた。
リカは何と言うか…天才であった。
勉強全般、特に理科が得意で科学に詳しい。今彼女は小学校どころか中学、いや高校で習う理科の内容すら理解しているらしい。理科以外でもとうに小学校で習う事は全て憶えてしまっている。登校していた頃はテストの度に満点を取っていた程だ。
しかし、やがて学校での勉強が無意味に感じてきて、おまけに自身の天才性故に周囲から色眼鏡で見られている事に嫌気がさしたらしく、かれこれもう半年近くろくに登校していない。テストの日に登校して、テストを受けてすぐ早退している始末だ。
「来年にはお前も卒業して中学に行かなきゃいけないんだぞ?」
「……分かってますよ、そんな事。…でも、私は飛び級でもしてさっさと大学に行きたいんですけどね……」
「またそう言う……」
別にいじめられてるという訳では無いのだ。むしろ顔もかわいいので男子にも女子にも人気があるらしいのだが、本人はそれがどうも気に入らないらしい。彼女にとっては普通に出来る事でも、他の子供達には凄い事な様で、自分が周りと違う事に納得がいかないのだ。
「お前…とも……」
友達はいないのか?と言いかけて俺はやめた。訊くまでも無い事か……。
「…何ですか?」
「いや、何でもない…」
「……私は、先生さえいてくれれば、それで…」
「……お前が俺に懐いてくれてるのはいいんだけどさ、一度きりの人生の一度きりの青春を棒に振るのはどうかと思うぞ…」
俺も、棒に振ったクチだしな…。
「……分かってますよ…」
「……」
食事中にする話では無かったかな……?
夕食も終わり、リカが沸かしておいてくれた風呂に浸かっていると、リカが入ってきた。すっぽんぽんで。……うーん…何で堂々と入って来ちゃうかな?この子……。
「先生、お背中をお流ししますね」
俺は湯舟から上がり、小学生の目の前で股間をぶらぶらさせながらリカの前に背中を向けて座った。……お互い、慣れちゃってんだよなあ……もし知り合いにバレたらどうしよう……。
「先生…」
「んー?」
俺の背中を洗いながらリカが言った。
「私も…このままでいいとは思ってません。でも、なかなか……」
「……ま、難しいわな。とりあえず、明日少しでも登校してみないか?」
「……考えてみます」
その後、俺もお礼にとリカの背中を流してやった。
俺がリカと暮らし出してから、かれこれ3年になる。最初の内は俺とろくに喋りもしずに科学の本を読んでばかりいる子だったが、次第によく喋る様になっていったのだった。
風呂上がり後、時間が過ぎてさあて、明日も早いしそろそろ寝るかあ…と布団を敷いているとリカがやって来た。
「そのお布団、昼間に私が干しておきました」
「お、そうか。いつもすまんな」
「いえいえ」
本当、俺が留守の間家事全般をそつなくこなしてくれて助かっている。
しかし、夕方より前に出歩くと「君、学校は?」とか声をかけられそうなので買い物は夕方に行ってくれている。安全の為に大抵俺も付いて行ってやってるが。
「ところで先生」
「ん?何だ?」
「実は私、今日初潮を迎えました」
「……」
突然の事に、俺は言葉が出なかった。
「へ…へえ…そりゃあ、おめでとう……」
「ありがとうございます。いやあ……以前からネットで調べていたので知ってはいたのですが、実際に来てみると、流石に驚きましたよ。でも、予め備えて買っておいたので何とか対処できました」
「そ…そっかあ……」
うーん…いつかはこの時が来るとは思っていたが、まさか今日だったとはな……俺も一応その事に関しては基本的な事は調べてあるけど、やはり男には難しい話だな…。1年位前に、この子にはスマートフォンを買い与えてあるのだが、早速駆使して色々と検索して知識を増やしている様だ。
「それで先生……」
リカは四つん這いでぐいっと顔を俺の顔に近づけて言った。
「な…何でしょう……?」
「私は、是非とも先生とセックスがしたいです!」
「…………一旦頭冷やそうか」
うーん……とうとうこの時が来てしまったか。いつかはリカがこう言うんじゃないかとは思ってたけど、この子も少し顔を赤らめているから可愛げはあるのだが…。
「私は本気です先生。私は先生を心の底から愛していますし、先生とキスをして口内の細菌を交換して免疫力を高めたり、いずれはセックスをして先生の子を産みたいです」
「どうしてお前にとっての愛はキスとセックスなんだ……?しかもキスの目的が免疫力強化だし……」
いやしかし実際そうなのだ。人がキスをする理由は便器の中より菌が多いというその口内の細菌をシェアする事による免疫力アップってのが科学的理屈だ。だったら男女問わずより多くの人とキスをするか、あるいは口内の菌が大量に付着した使用済み歯ブラシを多くの人と交換して使用すれば、人はより免疫を付けられるのでは無いか?というロマンスもへちまも在ったもんじゃ無い理屈だ。
「異性間の愛とはつまりは子作りの為の物です。それでも妊娠する確率は高くても30%程度らしいですが。先生、近々お近くのコンビニや薬局等でなるべく厚いコンドームを購入して下さい。例え膣外に射精しても、射精前の分泌液にも精子は含まれる為に妊娠する事があります。破れにくい厚いコンドームを使っても、正しく装着出来てる人は全体の僅か2%だそうです。つまりコンドームは完璧な避妊具では無い上に、ほとんどの人が、それの正しい使い方を心得ずに、着けたのに妊娠する事態を起こしているのです。しかし、私の能力でその確率を操作してしまえば、妊娠の心配は十中八九無くなります。先生!将来の為に、私とセックスの予行演習を…」
「よし、もういいから寝ようか」
消灯。俺は眠りについた。こいつはやたら理屈的だし性知識も豊富だが、何と言うか、他の人間とはこういう事に対する考え方が違う。
リカの能力は確立操作。と言っても0%にする事は出来ないし100%にする事も出来ない。多分20~80%位の間で確率を動かして固定できるのだろう。
こいつの前では『運命』も『奇跡』もあまり意味を持たない。ギャンブルに使ったら便利そうだ。しかし、元々確率が0%や100%の物の確率は変えられない。例えば夏に雪が降る確率は上げられないし。
とりあえず、明日こいつが少しでも登校してくれればいいなあ……。その確率は果たして何%だろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます