第42話 今日、俺の妹のようすがちょっとおかしいわけがない。(略称 俺妹ちょ。)
お盆も過ぎた8月16日。俺は外の熱気から逃れ、エアコンの効いた自室で黙々と宿題をやる日々を送っていた。
外から絶え間なく聞こえてくる蝉時雨が死ね死ね死ね死ねと聞こえてきて鬱陶しい。まあ毎年の事だが。
子供の頃は夏休みになると宿題そっちのけでプールにでも遊びに行ったものだが、今は真逆だ。むしろ絶対に混むであろうプールになんて行きたくはない。それにいるんだよなあ…プールの中でこっそりおしっこする奴が……ったく誰だよ……俺か、クソガキの頃の俺か……プールでも銭湯でも平気で放尿してたからな……一緒に入ってた人たち本当すみませんでした!
冬だってそうだ。昔は雪でも積もろうものなら冬休みの宿題そっちのけで雪だるまを作り始めたり憧れのTHE・KAMAKURAの製作を目指したりして、挙句の果てにしもやけになって春までずっと痒さにのたうち回ってたたもんだが、今となっては最早雪なんて見るだけで嫌になるもん…。THE・KAMAKURAより鎌倉幕府について勉強する事の方が重要だと悟ったしね!いい箱作ろうって何だよ…国を作れよ……。
しかしまあ…毎年言われてる事だが、今年もまた5月辺りから急に暑くなったよなぁ……。ニュースでは連日の様に熱中症で死者が出た事が報道されてるし、温暖化の影響であろうどんどん暑くなって、たまに大雨が降ったかと思えば、今度はジメジメして…あちこちから嫌な臭いが漂ってくるんだよなぁ……俺の枕とかさぁ……。へっ!何だいこんな臭い!マキ姉の屁に比べりゃあ屁でもねえぜ!
そんな事を考えながらも宿題にひと段落着けた俺は、そろそろこまめに水分補給でもするか…と部屋を出た。
途端に廊下のむわっとした熱気が俺に襲い掛かった。……いやほんと、部屋の中と外でこんなに差があるの。
下階に降りて行くと、話し声が聞こえて来た。この声はもしか……。
「…おや?いたのかお前」
リビングで親父やお袋と話していたのは親父の兄ミノルおじさん。
「……こんにちは」
俺はそっけなく挨拶しておいた。俺は昔からどうもこの人が好きではなかった。何かにつけて引っかかる言い方をしてくるし……。
「ちょっと遅くなったが盆の挨拶に来てやったぞ」
……ほらな。でもまあ、これでも昔に比べるとまだマシになった方だ。俺が中学に上がった頃だったか、この男は「おや、まだこいつはこの家を壊してなかったのか?」なんて言いやがったから俺は怒って掴みかかった。途端にこの男は「助けてえ!殺されるう!」と笑い半分に悲鳴をあげていた。
俺は茶を一杯飲んで、そのまますぐに部屋に戻ろうとした。
だがその足をおじさんの声が止めた。
「ああ、そうそう。俺の娘のマサコな。来年中学卒業したらお前の高校入る事に決めたから。今絶賛受験勉強中。だから来年からよろしくな。先輩として」
「……ああ、そっすか……」
他に話は無い様なので、今度こそ俺は自室に戻って行った。
両親がおじさんと何やら話しているのが聞こえるが、大人の話ってのはどうしてこう子供の耳には退屈なのかね……?
マサコねえ…。何度か盆や正月の挨拶で会った事はあるけどろくに喋った事も無いし、大人しい子だし、よく知らねえな…。まあ、あの父親に似た嫌味な性格じゃない事を祈ろう。
「おろ?お兄…」
階段を上がると、妹と鉢合わせした。
「おう」
「誰か来てんの?」
「ミノルおじさん」
「ああ……」
うーん…この反応を見るに妹もあの人の事が好きじゃ無い様だ。ちなみにマキ姉は今出かけている。
「でさ、いとこのマサコが来年俺の学校に入るかも知れないんだと」
「ほーん…」
こいつもマサコの事よく知らなそうだなぁ……。こいつが今中二だからマサコは1つ上か。
「うーん…お茶でも飲みに行こうとしてたのにおじさんがいると分かると行きづらいなあ……」
嫌そうな顔をする妹。あそれちょーわかるー!あのおじさんに限らず親戚がお邪魔してると何か出て行きたくなくなるよねー!あるあるー!…と俺は脳内でギャルになってみたり。
「仕方ない。水道水で我慢するか…」
そう言うと妹は蛇口を捻って歯磨きやうがいに使ってるコップにぬるい水を一杯注ぐとぐびっと飲み干した。うん…それでいいのよ、それで。あのおじさんに話しかけられた後で落ち着かない調子で冷たいお茶を飲むよりずっとマシ。お兄ちゃんは身を持って体験して来たからねっ!ちなみに水道水をそのまま飲んでもОKな国は日本を入れて世界でたった13カ国だけ。これ豆知識な。アメリカ人水道水飲めないんだぜ。だからやたらでかい牛乳飲んでるんですかねえ?知らんけど。
さてと、俺は部屋に入って遊ぼうかな…と思った俺の袖を、妹がちょいっとつまんだ。
「……何?」
「あのさ、お兄の部屋に入ってもいい?」
と言う訳で妹と一緒に自室にいる俺。兄妹それぞれに部屋が割り当てられてからはあまり互いの部屋に来なくなってたなあ。俺は小学1年生から大事に使ってる勉強机の椅子に、妹はベッドにちょこんと腰掛けてリラックス。
「ところでお兄」
「何だよ?」
「前から気になってたんだけど、何でお兄って空飛べないの?サイコキネシスで自分の体浮かせられるんじゃないの?」
「唐突だな。無理だね。重力って力は想像以上に大きいし、それに逆らって浮かぼうとすると結構きつい。自分以外を浮かせる事はそれの重さにもよるけどまあ出来るけど、それはサイコキネシスを自分の外側に出すから出来るのであって、自分自身に向ける事はほぼ不可能だ。他の人を浮かせる事は出来るけど、もし落としてしまったらと思うと怖いから絶対やらない。…以上だ」
「淡々と論理的に説明してくれたね……」
妹はジトーっとした目でこちらを見てきた。いや俺もね、この理屈に気付いたのはつい最近なんだけどね……。
「じゃさじゃさ、他の能力は具体的にどうなの?例えば……」
それから俺は俺が分かってる限りの能力の詳細を妹に教えてやった。
「…分かった。ありがとうお兄。じゃね」
そう言うと妹は部屋を出て自室へと戻って行った。ふむ…あいつも俺の力に興味持ってたんだな。今度テレポートでどっかに連れてってやるかな?
自室に戻ってドアを閉めた妹はベッドに腰掛けると急に糸の切れた人形の様にうなだれてから目を覚ました。
「……あれ?あたしいつの間にか寝ちゃってたのかな?」
家の外の道に立っていた若い女性は携帯電話を取り出すと電話をかけた。
電話の相手は彼女と同じ位の歳の女だった。
「上手く行きました。彼の能力について色々と訊き出せましたよ。ドクター・メタル」
『ご苦労様、ドクター・パペット。これで我々アイデアの計画がまた一歩進められるわ。すぐにその情報をデータとして提出しなさい』
「分かりました。ただちに」
『あなたには期待してるわよ。じゃあね』
電話を切ってしばらくすると、ドクター・パペットことマリは自分の身体を抱えてビクビクと震え恍惚の表情を浮かべた。
「ああ……カナメお姉さま……マリはがんばります……必ず期待に応えてみせます……全てはお姉さまへの愛の為に……」
「ママー、あのおばさん変だよー?」
「しっ!見ちゃいけません!」
「わん!わん!」
近くにいた人や犬から怪訝な目で見られていても、マリはお構いなしだった。
俺の気づいていない所で、確実に何かが動いていた。
ある男の
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