第40話 海中のパルピテーション
夜が明け、俺たちは帰る前にまた海で遊んだ。
むうう…男だと分かってもやっぱりホムラの水着姿は……かわいいぞ…。
こんなに可愛い子が男な訳無いだろ(何回目だろう?)。
「えいっ!」
「きゃっ!」
イナに背中を押されたチカが水着姿のまま俺にぶつかった。
「おっと…大丈夫か?」
「う…うん…」
チカは下を向いて顔を赤くしている。
……むむう…ぶつかった時に柔らかい感触ががががが……。
ドキドキする!
俺は努めて平静を保とうとした。
イナめ……後でおしりぺんぺんしてやろうか……そんな事したらホムラに火だるまにされそうだな…。あれ火傷しないけど超暑いからやなんだよな……(経験者は語る…嘘だけど)。
「ほらチカりん、ちゃんとアプローチしないと……」
少し離れたとこからイナが小声で何か言ってる。
イナはしばらく逡巡した後、やがて何かを決心したのか、俺に顔を向けて言った。
「あ…あのさ!……み…水着……似合ってるね」
「え?ああ……どうも…」
女に海パンを褒められた。
……あれ?逆じゃね?
「あほー!どんだけパニクってんだぁ!」
イナが小声で叫んだ(器用ね…)。
うーん…ここは俺が何とかするべきだろうか……?
実際のところ俺ってあまり女子と話した事ないのよね……男子もか……。
最近は他人と話す機会増えたとはいえ、これが割りと緊張するんだぞ……自分から気軽に誰にでも話しかけられるって訳でもないし……特に今の様に水着の状態ではなあ……。
「あー…あのさ、チカ」
「……何?」
「俺さ、ちょっと閃いて試したい事があんだけど……付き合ってくれねえか?」
その言葉を聞いた途端チカの赤かった顔が一気に赤くなって一瞬怒ったのかと思ったぜ……え?何?俺今何か変な事言った?
「うわ~……すごーい!」
チカは海中で感動の声を上げた。
俺がサイコキネシスを使って水を操って俺とチカの周りの空気を覆って泡の簡易潜水艦的な物を作ってあげたのだ。
初めてやったが上手く行ったな。集中を解いてしまうとたちまち2人共水の中に放り出されてしまうから落ち着けないけど…。
綺麗な海に色とりどりの魚や海藻が真夏の日差しに照らされてきらめいていた。
「すごいか?」
「うん!ほんとすごい!あなた、こんな事も出来るのね!」
チカはすっかりはしゃいでいる。良かった。
「多分深海にも行けると思うけど、流石に暗いからな」
「いいよ、これで十分……」
俺たちはしばらく黙って、美しい景色を眺めた。
泡は俺の意思で自由に移動できた。後で他の皆も入れてやらねば。
「……そういえばお前、昨日の夜、墓地で俺に何か言いかけてなかったか?」
ふと思い出した。あの後すぐイナに押されたチカがなぜか気絶してしまって聞きそびれてたのだった。
「え?……ああ……あれは、えと……」
チカは何やらもじもじしだした。
「……あ!そ…そう!漫画!……あなた漫画読むって言ってたじゃない?それで…どんなの読むのかなあ…って……」
「ん?ああ…俺は面白ければ何でも読むぞ。基本少年漫画だけど、たまに少女漫画も読むし。フルーツバスケットとかは好きだ」
「あ、それあたしも好き!よく読むのは恋愛ものかな……」
「俺も割りと読むな。ニセコイは面白かった」
「ああ、あの絵かわいいよね」
「何かオススメの漫画あるか?」
「えっとね……」
そうやって俺たちは和気藹々としばらく語り合ったのだった。
……あれ?こうして近くでよく見てみると、目の前で笑ってるチカって結構……かわいい……?
そう思ったが、そろそろ集中力が限界なので、浮上した。ふう…。
その後、俺たちは海で思う存分遊び飽かして、帰路に着いた。
……うう…7人分も泡潜水艦作って超疲れた……。
遊び疲れた上に電車の揺れも相まって、途中で俺たちは1人、また1人とすやすやぴーと眠ってしまった。
ああ……女子の寝顔っていい……ぐう……。
俺もな。
何とか目を覚まして、乗り過ごす事は免れて、俺たちは無事元の駅に帰ってきた。
「チカたーん!お帰りー!」
チカの父が迎えに来ていた。
チカは「ああもう…やめてってば…」と迷惑そう。
「……おい野郎共……チカに手は出さなかっただろうな……?」
チカパパが俺とチューなんとか先輩に強面で問うてきた。……またグロック17をチラつかせながら。エアガンだよな?エアガンだと言ってくれ!
「も…勿論ですよー!お父さん…」
「てめえらにお義父さんと呼ばれる筋合いはねえっ!」
もうやだ…この人……ていうか、野郎ならあと1人いるんですけどね……でも言った所で信じて貰えないよねっ!だってあんなに可愛い子が男な訳(以下略)。
「チカもな……フウカもな……ついこの間までは『パパ大好きー』だの『パパのお嫁さんになるー』とか言ってたのに、最近では『お父さんの後にはお風呂入りたくない』だの『親父あんま近づくなよ……ダルい……つかウザい……』とか言うんだぜ……まったくよお…娘の成長は嬉しいけどどんどん寂しくなっていくこの気持ち…お前らもいつかきっと分かるぜ……」
うーん…何で俺たちは今、おっさんに肩を組まれたままおっさんの涙を見せられてるんだ……?
「……チカりん、いいの?気持ち伝えなくて…」
「……いいんだ。今日は、もう十分幸せだったし……また会えるしさ!」
「…そう?……まあ、チカりんがそれでいいなら、いいけどね…」
「さて、それではここで解散ですわね」とユキヒメ先輩。
「そうだな。僕たちは明日から受験勉強に本腰入れなきゃだし」とリンカ先輩。
受験か…、まあ、当たり前の事だが、今年度であの2人は卒業してしまうのだ。寂しいなあ……。
「それでは、各自、気を付けて帰ってくださいね。良い夏休みを!」
それでも彼女は笑顔でそう言うと、手を振りながらリンカ先輩と共に去って行った。
俺はその2人の後ろ姿をせめて見えなくなるまでは見続けながら見送った。
あの2人には、本当に感謝している。
……さて、俺も帰るか。
明日から、お盆か……。
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