第39話 マイ・ダーク・パスト
俺が中学の頃の話。
その頃には俺は本格的に友達を失い、孤独な日々を送っていた。
当然そんな日常に不満を抱かない訳が無かった。
今でこそこんな俺だが、2年程前は、最低だった。
俺は時々能力を使っては、他の生徒に嫌がらせをしていた。
はっきり言おう。
俺はいじめをしていた。
今思うと本当に自分を殴りたくなる。
適当な奴に狙いをつけると、肉体的、精神的に色んな手段で嫌がらせをした。
それは次第にエスカレートしていき、その上、誰も俺を窘めようとか、叱ろうとかする者はいなかった。当然だ。みんな俺を恐れていたのだから。
俺は、学校で自分が何をしているのか、家族には秘密にしていた。
俺は実質その中学の王様気分だった。
王様?とんでもない。ただのお山の大将だ。
そして中学2年のある日だった。
俺からの日頃の嫌がらせに遂にキレた生徒の1人が、俺の顔を思い切り殴った。
「……いてえな……こんな事してただで済むと思ってんのか?」
それがその時の俺の台詞だった。
そいつは自分の抵抗が俺にとってはただ「痛い」だけですんだ事が悔しかったのか目に涙を浮かべて逃げる様に去って行った。
その時周囲には他の生徒たちも何人かいたが、俺が睨むとすぐにそいつらも逃げて行った。
くそ……むしゃくしゃする……
それがその時の俺の気持ちだった。
その日、家に帰った俺に、マキ姉がこう言った。
「お前、いじめとかダセえ真似、してないだろうな?」
「……………は?……何訳分かんねえ事言ってんだよ?」
「いや、別に……ただ最近いじめによる自殺も増えてるしよお…ちょっと気になって」
「……そんな事、する訳ねえだろ…」
俺がそう言うと、マキ姉はニヤッと笑って言った。
「だよな!あたしもあんたはそんな事する奴じゃないって信じてるから!」
「……何だよそれ……」
それから間もない頃だった。
俺にいじめられてた生徒が1人…また1人と学校に来なくなった。
この連続不登校。みんなは黙っていたけど俺には分かっていた。
みんな心の中で俺に文句を言っている。心を読むまでもない。……と言うか、読みたくない。みんなの罵詈雑言が頭に響くのが怖くて怖くて仕方ない。
やめろ……俺は悪く無い……元はと言えば、お前らが俺を避けるからじゃないか……そう強く思った。すると……誰かが口を開いた。
「俺は悪く無い…だって?」
「!……」
しまった!…つい無意識にテレパシーで俺の思考を発信してしまったのか……。
「俺たちがお前を避けたのは分かってるさ…でも、それでお前が他の人をいじめていい理由になんかなるのか!?」
「……っ!」
気づくと、俺の周囲の者たちはみんな俺を見ていた。軽蔑、恐れ、迷惑、恨み…そんな感情が籠った視線が俺に集中していた。
「俺たちは全員集まったってお前には勝てないけどなあ……だからって、お前のやる事に黙って耐えてなきゃいけない理由なんて無いんだよ!」
「……」
……何でだ?
何で何も反論出来ないんだ俺は?
こんなやつら能力で簡単にぶっ飛ばせるだろうに……。
どうして……
俺は今泣いている?
気づくと、俺は駆け出していた。
荷物も置いて、上履きのままで校舎の外に出て、能力の瞬足も使わずに、息を切らせながら、雨の降りしきる外を走り続け、泥だらけになりながら、涙と、鼻汁を垂れ流しながら走り、走り、走り…自分の家の玄関にぶつかった。
出て来た母さんはびっくりしていたが、すぐに俺を家の中に入れ、タオルを持って来てくれた。
俺は玄関で子供の様に泣き崩れながら、母に全てを打ち明けた。
母は真面目にその話を聞いてくれた。
「ごめんなさい……母さん……ごめんなさい……」
俺は泣きながら謝った。
俺は家族の期待を裏切ったのだ……。
俺は最低の男だ…。
いっそ死にたいとまで思った。
しかし母の口から出た言葉は優しい口調だった。
「よく話してくれたわね」
俺は母の腹に頭を当て、母の膝をぐしょ濡れにしながら泣きわめいた。
その後、俺は父、姉、妹にも全てを話し謝った。特にマキ姉には申し訳ない気持ちが大きかった。
学校のみんなにも謝った。
……と言っても、それでそう簡単に許して貰えた訳ではないが。
やがて、不登校だった生徒も登校してくる様になり、俺はそいつらにも心から謝った。
それからという物、俺はいじめを全くしなくなった。
まあ同時に、他の生徒と接する事も無くなってしまったが……。
俺は真面目に勉強に打ち込んだ。
他の者に迷惑をかけない様、毎日模範的にすごした。
それでも…俺を褒めてくれるやつや、称えてくれるやつはいないまま、俺は中学を卒業した。
高校では、俺はどうなるのだろう?
その頃の俺は、不安でいっぱいだったが、せめてあの頃の様な事だけはすまい…と、それだけは誓っていた。
……夢か。
…何で今になって、あの頃の夢を見たんだろう?
ふと気づくと、まだ暗い部屋の布団の上で、ホムラがこっちを向いてすーすー寝息を立てて寝ていた。
服の襟元からブラジャーがチラッとしている。
「……」
俺は反対側を見て目を閉じて、そのまま再び眠りについた。
……今度はあの頃の夢を見ません様に……。
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