第34話 ゴースト・ナイト

のぼせた体をようやく冷ました俺たち。


ホムラは既に風呂から上がった先輩たちとキャッキャウフフしていた。


きっと、ホムラが女湯に来なかった事からチカたちからホムラの秘密を聞いたのだろう。…しかし……男だと分かってもやはりホムラは女の子にしか見えない。いや、あんなに可愛い子が男な訳無いだろ!落ち着け俺!ホムラはホムラだ!男だけど男じゃねえ!……うーん…意味が分からん……。


ホムラは女子たちと仲良く話しているし、特にイナとはやたらスキンシップをしている。あの2人……友達ってレベルじゃなくない?もしかできてるの?百合の花咲いてるの?……いやホムラは女じゃないから百合じゃないのか?アレー?


…と、何やらチカが顔を赤らめて俺の方をチラチラと見ている事に気が付いた。


「どうしたんだ?チカ…顔が赤いぞ?お前ものぼせたのか?」


気になった俺は、チカのそばまで行き、そのまま彼女の額に触れた。


「うーん…それ程熱くはないけど……あれ?何か少しずつ熱くなってないか?」


次の瞬間チカは疾風はやての如く走り去った。


「……どうしたんだ?」


「さあ、どうしたんでしょうねえ…」


俺が驚いていると、イナたち女子ズが(ホムラもいるけど)そう言いながらもニヤニヤしていた。…何だ?


「これが……若さか……」


チューなんとか先輩がどこぞの大尉みたいな事を言った。


………流石にいきなりのボディタッチはまずかったか。……嫌われちゃったかな?


そもそも天災の連中とはあまり喋った事がないのだ。せっかくの機会だし、この旅行でなるべく話して親しくなっておきたい。


そこで!


俺たち7人は1つの部屋へと集まった。


これから楽しいトークの時間が始まるぜ!


「じゃあ、まずは改めて自己紹介しようか!」


という訳で、俺から順に1人ずつ名前と趣味、特技等を言っていった。


「……お前、特技が酔っ払いの扱いってどうなの?」とチューなんとか先輩。


「仕方無いでしょ……マキ姉のせいで慣れちゃったんですよ……」


本当に、毎晩大変なんスよ……グビグビ呑むわ、ゲプゲプするわ、ブーブーこくわ、脱ぎ脱ぎするわ……。


「それにしても、フウカとチカが双子の姉妹だったのは驚いたなあ……」


「そ…そう?まあ、よく言われるけど…」


俺が言うと、チカがちょっと目を逸らして言った。

言われてみれば確かにちょっと似てるかも。口調とか。今は違うけど。


そしてやっぱりイナとホムラは付き合ってたのか……。しかもホムラの特技が男子をからかう事って……からかうってそういう事なのね……。


さて、自己紹介も一通り済んだし、お次は……。


「くっくっく……時計が死の時刻を示した。わらわの出番じゃ。ひれ伏せ愚民どもよ!」


…と、そこでユキヒメ先輩の口調が変わった。確かに時計を見てみると午後4時だ。…久しぶりだな…ゴーストプリンセス……。


「ど…どうしたんですか?ユキヒメさん…」


「気にしないで。中学2年生の頃からいつもの事だから……」


驚いた…というか引いたホムラたちにリンカが苦笑して説明する。…正真正銘の中二病だったんですね……。


「我が名はエバ・アントワネットである!」


今度はエバ・ペロンとマリー・アントワネットですか…歴史上の悪女とかに詳しいですね先輩……。


「これよりわらわが直々にその方らに真名を付けてしんぜよう。ありがたく思うがよい!」


また急に何か始まったぞおい……。


まあ、別に迷惑ではないので俺たちはスルーした。


「まずリンカよ!」


「僕?」


「そう、お主じゃ!お主はドラゴン・メイデンじゃ!」


それ……前にも言ってましたよね?


「次にチカ!」


「あ…あたし?」


「お主はニンフルサグじゃ!」


シュメール神話の大地の女神とかよく知ってんな……。


「ニン…何だって??」

分かってないチカ。別にいいんだよ…それで…。


「ホムラ!」


「はいですぅ?」

首のかしげ方可愛いなおい…。


「お主はブリギッド……いや、アグニじゃ!」


ケルト神話の火の女神にしようとして、やっぱりインド神話の火の男神にしたか…。


「はーい!ホムラちゃんはアグニちゃんでーす!」


当のホムラは気にしていない…というか男神だという事を知らない様だ……。


「イナ!」


「イナは何かな?」


ちょっとワクワクテカテカしているイナ。


「お主は電母ディアンムじゃ!」


中国の雷の女神…っと。


「イエイ!ディアンムー!」

ノリノリなイナ。


「あと、ここにいないフウカはゼピュロス、リラはドリュアス、イズミはナイアドって所じゃの!」


「あの…ところで先…エバさん?俺たちは?」


俺は一応聞いてみた。


「うーむ…」


しばし考えてから先輩は言った。


「お主(俺)はハイパーマン。お主(チューなんとか先輩)はバグでどうじゃ?」


ダセえ……。



しばらくすると、先輩は元の先輩に戻った。

うーん…中二病にしても変わった中二病だよな……。


まあ、かくいう俺も中学の頃は漫画とかの影響で一時期こじらせてたクチだけど…。


今じゃもう秘密のノートとか自作の暗号表とかも処分してあるぜ!

でも顔に傷跡付けようとしてカッターナイフを顔に向けてた時はめちゃくちゃ母さんに怒られた。あれは本当にやらなくて良かった……。


その後、俺たちは適当に話し合い、一応全員の連絡先を交換しあっておいた。


チカが俺と連絡先を交換すると、なぜかやたら嬉しそうだった。良かった……さっきので嫌われた訳では無いんだなあ……。



「……肝試し?」


豪勢な夕食を食べ終わったあと、イナが提案した。


「そうだよ!せっかくだしさ!2人ずつペアになってやろうよ!」


という訳で、俺たちは旅館の外に出て、近くの墓地までやってきた。


「いい?これからあたしが奥に行って待ってるから、1ペアずつ順番に来てね!前のペアが戻って来たら次のペアね!」


イナがノリノリで説明した。


「おいおいいいのか?墓地でそんな事して…」


俺はちょっと心配した。ついこの間、幽霊が実在するって分かったばかりだしな…。


「大丈夫ですわよ!先に私がご挨拶してきますから!」


そう言うとユキヒメ先輩は霊体になって挨拶回りに出た。


「どうも、こんばんわ。すみませんが、ちょっと肝試しに使わせて貰えないでしょうか?……いいんですか?ありがとうございます!騒がしくしない様気を付けますので…」


そんな声が聞こえた後、先輩は戻ってきて姿を現した。


「えへへ~…みなさんとてもご親切で、快く許可してくれましたよ。幽霊って、悪い霊はみんな地獄へ引きずり込まれるので、基本的にいい人ばかりなんです!」


嬉しそうに言う先輩。先輩も肝試し楽しみなんですね。……それにしても、幽霊ってそういうシステムだったのか…この人といると勉強になるなあ……。


「では、ペア分けを始めましょう!」


という訳で、俺とイナ、ユキヒメ先輩とリンカ先輩、チューなんとか先輩とホムラの3つのペアに分かれた。

俺が誰と組もうか迷っていると、俺の目の前にチカがイナとホムラによって押されてきたのだった。

「よろしくな、ホムラ!」

「う…うん……」

何か、下を向いてもじもじしているチカ。……そんなに肝試しが怖いのかな?無理しなくてもいいのに…。


「よろしくお願いしますね!チュータローさん!」とホムラ。


「分かったからあんまくっつくなよ…」と先輩。


「こらホムっちぃ?浮気は駄目だぞ!」とイナ。


「えへへー、安心してください!ホムラはいつだってイナさんを愛してますよー!」


「もー、この子ったらー!結婚してくれー!」


抱きしめあってキスを交わす2人。


おいやめろ…見てるこっちが恥ずかしい…。


「それでは、始めますよ!」


そう言って墓地の奥へと行くイナ。


じゃんけんで順番を決めた。まずはチューなんとか先輩とホムラからだ。


「よし!行きますよお!」


ホムラに引っ張られる感じで先輩は進んで行った。


しばらく待っていると、2人が戻ってきた。


しかしなぜかチューなんとか先輩が疲れ気味だった。


「あー、面白かった!」と笑っているホムラに対し……


「お前……抱き着いたり、俺の手を胸に当ててきたり、わざと耳元で艶っぽい声出したりしやがって……そして着いた途端にイナに睨まれたし……色んな意味でめちゃめちゃ怖かったぞ……」


先輩……ご愁傷様です……。


「よし、次は俺たちの番だな、チカ」


「え!?……そ…そだねー……」


ぎこちないチカ。やはり怖いのでは……?


「大丈夫か?」


「だ…大丈夫大丈夫!さっ!行こう行こう!」


そう言ってずんずん歩いて行くチカに、俺はついて行った。


流石に、夜の墓地という物はなかなか雰囲気があった。


しかし、今夜は天気も良く、雲1つない晴天の夜だ。星や月の明かりが照らしていてそれ程暗くもない。


「綺麗だな……」


「え…ええ!?」


俺がふいに呟いた言葉にチカが驚きの声をあげた。


「……どうした?」

「今…綺麗って……」

「ああ、星や月がな」

「え?星?月?……そ、そっか……ははは……」

「?」

何やら乾いた笑い声を上げているチカ。


この時の俺は失念していた事だが…かの文豪・夏目漱石は、「Ilove you.」を「月が綺麗ですね」と略したと言われている。


「あ…あのさ…」と、チカが何かを言いかけた。


「ん?何だ?」


「えと…その…」


その時、チカの体が急に俺の体にぶつかった。


「おっと…!」


「…っ!!……~っ!!」


チカは俺の胸に顔をくっつけた状態になっていた。


「イシシ…」と、物陰から笑い声が聞こえた。イナが押したんだな……全くどういうつもりだ?


「おい、大丈夫か?チカ…」


「……きゅう…」


俺が声をかけると、チカは顔を真っ赤にして目をグルグル回していた。


えー…何これ?どうすりゃいいの?


なんか…心なしか幸せそうな顔で気絶したチカを背負って、俺はイナの元に向かった。


イナは俺たちの姿を見ると、笑顔でサムズアップしてきた。


「……なあ、さっきお前、チカを後ろから押したな?どういうつもりだよ?」


「さあ?何の事かなー?そのままチカりんを向こうに運んであげて!」


とぼけるイナに溜め息をつきながらも、俺はイナを背負ったまま先輩たちの所へと戻った。


「よいしょ…っと。大丈夫か?チカ…」


俺はチカを降ろすと声をかけた。


チカはいつの間にか気が付いていた。


「う…うん……運んでくれて、ありがと……」


相変わらず顔が赤いチカ。


「……本当に大丈夫か?旅館まで運んでやるから休むか?」


「ほ、ほんとにだいじょぶだから!気にしないで!!」


と言ってまたもや疾風の如く走り去ってしまったチカ。


「……やっぱり嫌われたのかな?俺……」


「鈍すぎ……」

「かわいそうなチカさん」

「あらまあ……」

「おんぶして来たまでは良かったんだけどね……」


チカの後ろ姿を見送る俺にチューなんとか先輩、ホムラ、ユキヒメ先輩、リンカ先輩の順で言葉がかかった。え?何?俺が悪いの?俺なんかしたの?


そんなこんなで、最後はユキヒメ先輩とリンカ先輩のペアだ。


「行くよ、ユキ」

「うん!リン!」


2人はまるで長年連れ添ったカップルの様にくっつき合いながら入って行った。


しばらくすると、戻って来た。


リンカ先輩だけが。


血相変えて走ってきた彼女にただならぬ物を感じて、俺は訊ねた。


「どうしたんですか?」


リンカ先輩は息を切らしながら答えた。


「ユ……ユキが……消えた!」

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