第33話 サイドストーリー ビーストガールズ

ここは、とある学校や天災学園からそこそこ離れた場所にある『獣王女子高校』。


ここには、後に『七獣姫しちじゅうき』と呼ばれる…かも知れない6人の生徒と1人の女教師がいた。


…で、俺の名前はヨウスケ。


羊に介と書いてヨウスケと読む。この学校に教師として勤めている。


名前の通り、俺の能力はヒツジに変身する事だ。


完全なヒツジになる事も出来るし、ヒツジとヒトの中間である獣人になる事も出来る。


俺みたいに動物の能力を持つ者は大抵ヒト、動物、獣人の3つの姿を持つ。


俺はヒツジになると、そりゃあもうモコモコする。お陰で冬場はあったかいが夏場は暑い。出来る事なら自分のウールを剃って売ってしまいたい所だが、人として、それはどうかと思う為、実践した事はない…。


獣人(動物能力者はこう呼ばれる事が多い)は総じてその動物の性質になりやすい。


例えば、俺は本物のヒツジ同様肉類より野菜等の植物を好むという半ばベジタリアンと化しているし、耳が良かったり、変身時には視野が広くなり頭を動かさなくても自分の背後が見えたり、あと食いしん坊だったり暗い所から明るい所に移動したくなったり群れに入りたくなったり…等々。


とまあ、そんな感じで俺はこの女子高で女たちという群れに囲まれて過ごしている訳だが…別にいやらしい気持ちでここにいるんじゃ無いからな!…確かにちょっとそういう事に期待してるけども…でも…女子高だからな…時々見れるんだよ…俺の好きなリリィの花が咲くとこを……。


「……先生、ヨウスケ先生!」


呼び止められてはっとして見やると、そこには女の教師がいた。


ラミア先生、俺より少し年上の先輩教師だ。漢字で書くと羅実亜。蛇の獣人だ。美人だし、胸も大きい…いや、俺は大きくても小さくても好きだけど…年上女教師というのも悪くない。


「さっきからぼおっとしてどうしたんですか?」とラミア先生。近い!何かいい匂いする!


「い、いえ…別に何も……」


「そうですか?……新しいクラスはどうですか?生徒達とは馴染めました?」


先生は蛇の様に舌をチロッと出しながら言った。これがこの人の癖なのだ。…ちょっと艶めかしいけど。


ついこの間、入学式と共に新学期が始まったので、俺も彼女も新しいクラスを受け持ったのだった。ちなみに俺は1年1組。ラミア先生は2年3組だ。


「いやあ……毎年の事ながら、年頃の女子と接するのはなかなか骨が折れますよ……」


「わたしもです。性別に関係無く、この位の年頃の子はなんともねえ…」


笑いながら廊下を歩きつつ話す俺たち。


「あ、でも…中には話しやすいやつもいるんですよ!俺のクラスにミアって子がいるんですけどね、入学初日から底抜けに明るくて、初対面の生徒でも教師でも自分から話しかけて来るんです」


ミア。漢字で書くと美亜。猫の獣人らしい。猫種はバーミラとかその辺かな?普段から動きがなんか猫っぽい。体操部に入ったらしく、体の柔らかい猫の獣人にはぴったりだと思う。


「あたしね!いつかオリンピックに出て、体操で金メダル取るのが夢なんだ!」


彼女はそう言っていた。


夢か…。既に将来の目標が定まってるとは立派なもんだ…。


「ミアさんですか…。面白そうな子ですねえ。うちのクラスにも、1人面白い生徒がいますよ。カメヒメさん。家がお金持ちらしくて、口調も完全にお嬢様口調なんです」


「ああ……、そういえば去年1年にそんな生徒がいるって聞きました…」


カメヒメ。漢字で…書くまでもないか…。正真正銘のお金持ちのお嬢様で、カメの獣人らしい。


「○○ですわよ。おーほっほっほ!」


……とか本当に言うらしい。そんなキャラ現実にいたのかよ…。


しかし、別に威張り腐ってるという訳ではなく、他の生徒が困っていたら必ず助けてあげたり、悩んでいたら話を聞いてあげたりと、非常に面倒見がいいらしい。


「下々の者達の為に行動する事は、上に立つ者の義務でしてよ。おーほっほっほ!」


…だそうだ。次期生徒会長の座を狙っているという話もあるし、将来は史上初の女性内閣総理大臣を目指しているとかいないとか…。


「そういえば、部活の方はどうなんですか?」とラミア先生。


俺は、日本史教師にして、ボランティア部の顧問もしている。


「ああ…うちの部は人気無くて…今年も少ししか部員入りませんでしたよ……」と苦笑する俺。


「新部長のアキラってやつが、真面目なやつでして、卒業していったかつての3年生たちも、お前なら任せられるって言ってました。」


アキラはワシの獣人だ。勉強の成績が校内トップで将来有望な女子だが、俺はいまだに、アイツの将来の夢を聞いた事が無かった。

「アキラさんですか…寡黙ですがとてもいい子ですよね!ボランティアって素敵です!」


「はは…そりゃどうも……先生の部はどうなんですか?確か……演劇部でしたよね?」


ちなみにラミア先生の担当は体育。


「はい。うちは今年も結構入りましたよ。女優を目指して…って子も少なくないですし。新部長はマナさんです。綺麗な子だし、女優のお母さんに負けない様なスーパースターになるって張り切ってます」


マナ…漢字で書くと真魚。魚…ニシキテグリの獣人であり、獣人態が他と異なり下半身だけが変化した所謂人魚なのである。


去年の文化祭で彼女が主演を務めた人魚姫は歴代トップの大ヒットを記録した事が記憶に新しい。


学校に通いながら劇団にも通っている、頑張り屋さんだ。


彼女の母親はその筋では有名な舞台女優らしい。俺は舞台とか観に行かないからなあ……。


「すごいですよねえ……。ミアはオリンピック、カメヒメは総理大臣、マナは女優……。皆立派な夢を持って、それを目指してがんばってるんですねえ……」


「ヨウスケ先生は、なぜ教師に?」


「俺ですか?俺は……学生の頃、ある先生に大変お世話になって……それで、こんな先生になりたいなあ……と思って目指しました。ラミア先生は?」


「わたしは……子供の頃からの夢だったんです。学校の先生、パティシエ、お花屋さん、パン屋さん、歌手、キャビンアテンダント、フィギュアスケーター、セーラーマーキュリー、お姫様……色んなものに憧れてました。そして、がんばった結果、その1つに見事なれました!」


とても嬉しそうな笑顔でいう先生に、俺も思わず微笑んだ。


「……でも、夢を1つ叶えたら、必然的に他の夢はほぼ諦める事になっちゃいますよね…」


ちょっと寂しそうに言うラミア先生。


まあ、確かに。1度きりの人生の中で、そこまで多くの職に就く人はそうはいない。理想の職業に1つでも就けただけでも大した物だ。


かくいう俺も、教師以外になりたかった職業が無かった訳ではない。


かと言って、それらになる事を諦めたのかと訊かれたら、NOだ。諦めきれるはずがない。それでも最終的には諦めなければならないのが人生なのだ。もどかしい。


「でも、せめてもう1つの子供の頃からの将来の夢……素敵なお嫁さんにはなりたいですね……」とラミア先生。


「えっ?」


「あ…べ……別に、変な意味じゃないんですよ!……ただわたしももう30だし、そろそろ結婚しないとヤバいかな……って…」


「あ…そうですね。……いい人が、見つかるといいですね!」


やべえ…今のはちょっとドキッとしてしまった。俺、彼女いない歴=年齢なんだよなあ……。


「でも、先生お綺麗ですし!結構おモテになるんじゃないですか?彼氏とかいたりとかは……」


「え?……あ、ええ!まあ、今はいませんけどね!あはは……」


その様子を見るに、どうやらこの人も俺と同じいない歴=年齢なのだろう。…悪い事訊いちゃったかな……?


と、そこへ1人の女子生徒が駆けて来た。


「先生先生!大変です!そこで1年の子が階段で転んで怪我を!」


この子はツバメ。2年生だ。何の獣人かは言うまでもなかろう。


「何?そいつは大変だ!」


俺とラミア先生は急いでその子の後について現場へと向かった。


来てみると、確かに1年の女子が階段の踊り場でうずくまっている。


ひざから少し出血している。


「おい!大丈夫か!?」


声をかけると、その子は「うぅっ…」と呻いた。


「ラミア先生!俺はこの子を保健室に連れて行きます!」


「お願いします!」


俺はその子を抱きかかえると、わっせわっせと保健室へと運んだ。


養護教諭の女の先生は、すぐに手当てしてくれた。


「これでよし…っと」


「ありがとうございます。先生」


俺は養護教諭にお礼を言ってから、その子に話しかけた。


「大丈夫か?」


「は……はい……あの…ありがとうございました…」


その子は、何だか傷のせいだけでなく、やたらビクビクしてる様に見えた。


「名前は?俺は、ヨウスケ。1年1組の担任だけど…」


「ぼ…ぼくは……ミミカです……い…1年1組です……」


「え?お、俺のクラスの子だったのか……すまん、まだ全員の顔を覚えてなくてな……」


「い…いえ……別に……」

なおもビクビクしているミミカ。


「……大丈夫か?他に、どこか痛む所でも……」


俺が、ちょっと顔を近づけると、途端に彼女はビクッとして立ち上がった。


「ぼ…ぼく、大丈夫ですから!……だから……その……あの……」


見ると、ミミカは涙目になっていた。


「え?ちょ…何で泣く……」

「先生……ちょっと…」


戸惑う俺を、養護教諭が引っ張って、「ちょっと待っててね」とミミカに言ってから廊下に出した。


「……あの子、男性恐怖症らしいわ。それに、女性相手にもちょっと臆病みたいでねえ……ちなみに、ウサギの獣人らしいわ」


「そうだったんですか……」


知らなかったとはいえ、無神経だったな……と俺は反省した。


「あ、先生!」


…と、そこにツバメがやってきた。


「さっきの子、大丈夫でしたか?」


「ええ、大した事はなかったわ」


彼女の問いに養護教諭が答えた。


「そっか……よかった……」とホッとするツバメ。


こいつはなかなか思いやりのあるいい子だ。


将来は漫画家になりたいそうで、よくノートに落書きしている。……ちょっと困ったやつだ。


俺はふと保健室の方を見て思った。


ミミカは……あいつは何か将来の夢を持っているのだろうか?


とりあえず今は、あいつの為にも俺は保健室には戻らず、養護教諭に「後はよろしくお願いします」とだけ言って、その場を去った。


3年生、アキラとマナ。

2年生、カメヒメとツバメ。

1年生、ミアとミミカ。


これから俺は、彼女たちとどう接していくのか。


それはまた、別の話。


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