第32話 サイドストーリー ハザードガールズ

ここは少し前の天災学園。


「ほらフウカ!新学期早々遅刻するって!」


「うー…ダルい…」


チカが双子の姉のフウカを学校へと引っ張ってきた。


「あたしら今年は受験生なんだよ!もっとちゃんとしてよ!」


「うー……受験ダルい……進学も就職もしたくねえ……チカに養ってもらいてえ……」


「馬鹿な事言ってんじゃないよ…ったく!」


同じ頃。


「イナさああああん!!」


「おー、来たかホムっち!」


2年生に進級したイナに新入生のホムラが飛びついた。


ホムラは男子の制服を着ている。


本当は「かわいくないからやだ!」とぶー垂れていたのだが、校則なので仕方ないとして諦めた。もっとも顔は女の子にしか見えないので周囲は違和感を抱いているが。


イナとホムラは同じ中学出身だ。


そして、イナが中3の頃にホムラが告白してから付き合っている恋人同士でもあった。


ホムラも天災学園へ入学し、2人は1年ぶりに同じ学校へ通う事になったのだった。


ホムラは男子でありながら、女子の様に強力な能力を持っていた。


男子なので、トイレは男子トイレ。更衣室は男子更衣室。銭湯も男湯に入る。


しかし、見た目が女子なので、他の男性に避けられてしまう事が多かった。


ホムラ自身は、それをちょっと面白がって、男をからかう事をよくやった。



一方、チカは真面目な図書委員をしていた。


姉は何かにつけて「ダルい……」と言うので部活動も委員会もやってなかったが。


その性格の大きな違いや二卵性双生児という事もあり、この2人が双子の姉妹だという事を知ると驚く人は多かった。



「ねえねえ!何か面白い本ない?」


ある日の昼休みにそう元気よく図書室で訊ねてきたのはイナだった。


「……教えてあげてもいいけど、図書室では静かにね……」とチカ。


「へへー…ごめんちゃい!」


小声でてへぺろっ!と謝るイナ。


見た目はギャルっぽいのに割りと読書好きなイナにチカは不思議な物を感じた。


誰にでも分け隔てなく接するいつも明るいイナ。でもせめて先輩や先生には敬語使おうよ……と思うチカであった。


イナとホムラは学校でもよく一緒にいてイチャイチャしていた。


可愛らしいホムラは他の女子からも人気があった。



「紹介するね!この子、あたしの彼氏のホムっち!」


「ホムラです。よろしくお願いします!」


ある日、チカと顔なじみになっていたイナはホムラを紹介した。


「え?彼氏?……彼女じゃなくて?」


目の前にいる男子の制服を着たかわいい女の子を見てチカと、一緒にいたフウカは戸惑った。


「えへへー、よく言われるー。でもかわいいでしょ?」



こうして、後に四災と呼ばれる4人が出会った。


そんなある日の事だった。


ホムラは3人の元に行く途中で、偶然に聞いてしまった。


「なあ、あのホムラってやつ、キモくね?マジで」


「だよなあ?オカマでよお、顔がいいからって女子にモテててムカつくわあ」


「どうせあの顔使って色んな女子と遊んでんだろ?ヤリまくってんだろ?」


「うざいわー、言動もいちいち女っぽいしよお」


「この間トイレで見たけどあいつのチンコめっちゃ小さかったぞ!あんなんでヤリまくりかよ!」


「ははは!マジウケる!」


「あいつ、2年のギャルと付き合ってるらしいぜ?」


「あのギャルも見るからにビッチだよなあ?」


「そりゃいいや!ヤリチンとヤリマン同士かよ!お似合いじゃねえか!」



ホムラは泣きながら廊下を走った。


自分の陰口を言われたのも嫌だけど、何より大切な彼女の悪口を言われた事が堪らなく嫌だった。


どんっ


曲がり角で誰かとぶつかった。


「おっと……」


「ご…ごめんなさい!」


ぶつかった相手はフウカだった。


「……どうかしたのか?」


フウカはいつもの様にダルそうだったが、真剣な目でホムラを見た。


「…ううっ……フウさん……」


ホムラは涙を流しながら喋った。



教室で男子たちが下らない話で盛り上がっていた時だった。


ドアが烈風で内側に吹っ飛んできた。


「な…何だ!?」


驚く男子たち。


そこに入って来たのはフウカ1人だった。


「……てめえら……よくもあたしの友達を悪く言ったな……」


「な……何だよてめえ!」


吠える男子たちの声などどこ吹く風、フウカは次々と風を起こしそいつらをふっ飛ばした。


「いってえぇ……てめえ…何しやがる……」


「いいか、クソ野郎ども!あたしはてめえらがどこで何してようが、何を言ってようが、そんな事には興味はねえ……でもな!言いたい事があったらその本人の前で直接言いやがれ!それでも男か!?このタマ無しチンカス野郎があっ!」


いつもとはまるで別人の品の無いフウカの言葉に、男子たちは唖然とした。


「今度あたしの友達を泣かせる様な真似しやがったら、世界の果てまでぶっ飛ばしてやるから覚えとけ」

そう言い残してフウカは去って行った。



「うう……ありがとうございました。フウカさん……」


「気にすんな……ああ、くそっ…久々に派手に力使ったから疲れた……ダルい……ていうか、校舎内での能力の使用は禁止されてるんだった……こりゃ反省文書かされるな……マジダルい……」




それから、1ヶ月程後の事だった。天災学園に、1人の男が現れた。


「よう、今日からこの学校は俺がシメさせて貰うぜ。文句ある奴はいつでもかかってきな!俺の事は、そうだな……天災学園の帝王だから……災帝とでも呼んで貰おうか!」


やがて、チカたちは思った。


この男を目標に、もっと強くなろう。


さらにチカは、自分をもっと強く見せる為に、口調を変えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る