第28話 (タイトル思いつかなかった……)

8月7日。


俺は体の検査の為に病院を訪れていた。


5日前、俺の体は1日だけ女の体になっていた。


翌日の朝には元の体に戻ったが、家族は喜び半分残念半分だった。


マキ姉に至っては「もっと可愛がってやりたかったのに…」なんて言っていた。


俺が女だった内にいつの間にかちゃっかりと写真まで撮ってやがった…。恥ずかしいからやめろよ……あれ?でもこの子結構可愛い。どこの子かしら?お友達になりたいわん……って俺か……。


妹曰く、「お姉のお兄もいいけど、やっぱりお兄のお兄が……べ、別に深い意味は無いんだからね!バーカ!」……だそうだ。


なお、あの日俺が着ていたマキ姉の服やパンティー、それにアクセサリー類は全てマキ姉に返したが、あの日買って貰って着用したGカップのブラジャーは、流石にマキ姉には大きすぎるので、そのまま俺が所持する事になった。変な思い出の品が出来てしまった…。


で、今俺は体のあちこちを検査されてる状況だ。


1時間程で、ようやく全ての検査が終わった。


「お疲れ様、…うん、やはり特に異常は見られないね。健康で何よりだよ」


中年の医師は書類を見ながらそう言った。


「そうですか…」


「うーん……もしか何か見つかるかとおもったんだけどねえ……まあ、何も無いならそれに越した事はないんだけど」


「ああなった原因は不明だと……」


「そうだね。まあ、そもそも能力って物にはまだまだ謎が多い。そもそも何故人は自分の能力がどういう物で、どうすれば使えるかって事を知ってる?…それすらはっきりとは分かっていない。僕の能力なんて本当に大した物じゃないけど、気づいた時には使えてたんだから不思議なもんだよねえ?」


「はあ……」


言われてみれば、確かに……。


「……そうだ先生、聞かせてくれませんか?アイデアの事」


「……そうか…そうだったね」


先生は真剣な面持ちでしばし考え込んでから口を開いた。


「…アイデアとは、もう…今から20年は前になるかな……僕と僕の仲間が設立した、研究機関だよ」


「!……先生が?」


「まあね。僕たちは、医学の進歩を夢見て、そこで日夜研究に明け暮れたもんさ。……しかし、ある時、実験中に仲間の1人が不幸にも事故に会ってね……その後、僕はアイデアを抜けたんだよ……アイデアという組織について、僕が知ってるのはそこまでだ。とっくに解散したかと思ってたんだけど、まさかまだ続いてたとはね……」


「……そうだったんですか……」



その後、俺は病院を出ようとした。すると誰かに呼び止められた。


「あれ?君は……」


「?」


見ると、イズミ先輩とイナがいた。


「先輩…」


「あたしたち、回復が早かったから予定より早く、今日退院するんす!」


「へえ…おめでとうございます」


「ありがとうっす!」


「ありがとー!」


2人共元気そうだ。


「おーいイズミー!」


すると、病院の出入口からリンカ先輩が入ってきた。


「おや?君まで来てたのか?僕はイズミたちの退院の報を受けて迎えに来たんだけど」


「俺はちょっと用事があったもんでしてね」


「そうか」


「そういえば、この間、病院にリンカに似た綺麗な人が来てたっす。リンカにも似てたしリラちゃんにも似てたけど、あれはどこの誰だったんすかね?」


「へ…へえ……」


流石に、それは俺でした!とは言えなかった。


「あ、いました!おーい!イナさーん!」


そこに、今度はホムラが入ってきた。


彼女もリンカ先輩同様イナを迎えにきたのだろう。


「あ…そうだ!」


と、そこでリンカ先輩が言った。


「ユキと考えたんだが、お盆前の11日と12日、みんなで海の近くの温泉旅館に旅行に行かないか?」


「え?わたしたちもですか?」とホムラ。


「もちろんだ!」


「わかりました!じゃあチカさんたちも誘ってみます!」


「……あ、悪いんすけど、あたしは丁度その2日は空手部の合宿があるんで無理っす……」


「そうか……では仕方ないな…」


「えー?いずみん行けないのぉ?」と残念そうなイナ。


「ごめんっす、イナみょん……」


イナみょん?お前らのニックネーミングセンスどうなってるのん?


「あたしの事は気にせずイナみょんは楽しんで来て欲しいっす」


「うん……分かった。写真一杯撮って見せてあげるからね、いずみん」


「リラちゃんやチュータロー君も誘っておくよ。……まあ、リラちゃんはああいう子だし、来ないかも知れないけど。あさってまでに参加か否か教えてくれ」


「分かりました」


海かあ……いいね、やはり夏休みという物はそうでなくちゃ。


水着回が始まるぜ!




その夜、中年の医師は仕事を終えて帰宅しようとしていた。


その前に、自販機で飲み物を買って椅子に座って喉を潤していた。


すると、目の前で誰かの足がこちらを向いて止まった。


見上げると体格のいい30歳位の男性が立っていた。頭は丸刈りで、目は鋭く、市販のマスクをしていた。


「…やあ、久しぶりだね」と医師。


「ご無沙汰しております。先生」と毒島。


「……まだ、アイデアにいるのかい?毒島君」


「はい」


「コウイチの下について、一体何をしようとしてるんだい?」


「それをあなたに言う義理はありません」


「ふう……君の、お母さんの事かい?」


「………」


「君のお母さんを救えなかった僕を、恨むなら好きなだけ恨むといい」


「母は関係ありません。私はただ、コウイチ先生のお考えに感銘を受けて従っているまでの事です」


「……君が、この病院で、僕の元で研修していた頃が懐かしいよ。アイデアなんかやめて、うちで働かないかい?」


「アイデアを作った方の台詞とは思えませんね」


「僕の知ってるアイデアと、今のアイデアは随分違う様だが?」


「……今日は、1つご報告に来ました」


「何だい?」


「『スリー』が完成いたしました」


「…………本当か?」


「はい。これから随時『トゥー』へと移行するつもりです」


「……そうか…ついにスリーをな……コウイチめ…どうやら本気の様だな」


「話はそれだけです。では……」


「待ちなさい」


立ち去ろうとする毒島を、医師は呼び止めた。


「君の……お父さんの事は……」


毒島は振り返らずに言った。


「私に父はいません。とっくに、死にました」


そう言って去って行く彼の背中を、医師は眺めていた。


「死んだ……か……」

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