第26話 第三者視点
「……そうか、それは良かったねえ」
その中年の医師は電話で話していた。
相手は昨日来た女の子だ。
と言っても、彼女は本来男の子であり、昨日1日中体が女になっていたのだが、今朝になったら元の男の体に戻っていたらしい。
『はい。本当に良かったです』
電話の向こうから嬉しそうな声が聞こえた。
「…でも、一応調べておきたいからさ、近々来れる時でいいから、検査を受けに来てくれないかな?」
『え?…あ、はい。分かりました』
「悪いねえ。今後また、同じ事が起こらないとも限らないしねえ。例の…君に起こった謎の現象についても調べたいし」
『…はい』
「体に異常は?」
『いえ、別にありません』
「そうか。それならいい。では……」
『あ、先生!ひとつよろしいですか?』
「……?何かな?」
『先生は…『アイデア』という組織をご存じですか?』
「…!!」
突然その単語が電話の向こうの少年の口から出た事に彼は面食らった。
「……どこでその名前を?」
『……ご存じでしたか……』
電話の向こうの少年は、おとといにあった事、自分が聞いた事を話してくれた。
「……………そうだったか…」
『……………先生?』
「ああ……いやすまん………アイデアか……まだ続いていたか…」
『どういう事ですか?』
「その話は電話じゃなんだ、今度君がここに来た時にでも話そう。いいね?」
『あ……はい…』
「では、失礼するよ」
彼は電話を切ると、自分の机に戻った。
「……………」
彼は考え込んだ。
アイデアという組織の事……ある女の事……………ある男の事……………。
「お前……まだ諦めていないのか?………コウイチ………」
そう独り言ちて、彼は窓の外の暑そうな景色を眺めた。
「………あれからもう…10年にもなるのか………」
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