第25話 俺のツイてない1日

天災との戦いを終えた、翌朝。


俺は、妙な痛みにうなされて、不快に目を覚ました。


(何だ?この痛み…)


何やら胸が重い。何かが乗っかっている様だ。


(…何だ?これ…)


触ってみると、何やら丸くて柔らかくて大きな物が乗っていた。それも2つも。


(何だ?…ボール?…何でこんな所に…)


どけようとしたが、ボールは取れない。


……いや、ボールじゃない?俺の胸にくっついてる?


「……?」


見てみた。


(……何だ、ただのおっぱいか…………)


俺はそのままもうひと眠りしようと目を閉じた。


「…………………………」


おっぱい?


ガバッ


俺は起き上がって、自分の胸を確認した。


「な……………何じゃこりゃあああああああああああああああああああああっ!?」


早朝の我が家に、女の声(俺)が響き渡った。




「……………誰?」


家族4人が、俺をまじまじと見回した。


「だから俺だって………」


自分の口から女の声が出る。変な気分だ。


「……………えっと、つまり…あんたはあたしの弟で…朝目が覚めたら女の体になってたと?」


マキ姉が半信半疑で聞いてきた。


「そうだよ、マキ姉…」


「う~ん……」


マキ姉は至近距離で俺の顔をしげしげと見たが、


「いやあ……信じられないな…あんたの面影全然無いし……」


「うーん……どちらかというと、昨日あったあの子に似てない?ほらあの、ポニーテールの子」と母。


「リンカ先輩?」


「ああ!あのミハルちゃんを抱いてた子か!」とマキ姉。


「でもさ……もう1人の、枕抱いて寝てた人にも似てない?」と妹。


「リラ先輩に?」


俺は鏡の前へ行って確認してみた。


うーん……確かに言われてみれば、リンカ先輩の様にもリラ先輩の様にも見える。


そういえば、俺の胸にぶら下がって重たいこの2つの乳房。結構大きいが、リラ先輩はもう少しでかい。リンカ先輩も大きいが、今の俺は彼女のより大きい。

ふむ……リンカ先輩を仮にEカップとして、リラ先輩を仮にIカップとすると、俺はその中間、大体Gカップ位だろうか。それにしてもおっぱいって予想以上に重い……。


まさか……昨日俺があの2人の能力を一時的に得たせいなのか?……しかし、以前マキ姉の能力を一時的に得た事もあったが、その翌日に俺の体がマキ姉になった…なんて事は無かったはずだが。


「…ていうか、さっきから体が痛いんだけど…特に腹の辺りが……」


「……お兄、もしかそれって……」


妹が何か察したのか、俺にこそこそと耳打ちしてきた。


「……!」


女の子の日!?よりによって今日かよ!


「ど……どうすりゃいいんだ?」


「はあ……しょうがないな……一緒にきて」


狼狽える俺は、妹に連れられて、一緒にトイレに入った。



数分後、俺はぐったりした感じでトイレから出て来た。


「うう……女って……大変なのな……」


「分かってくれたか」と妹。いや、マジでありがとうございました!(泣)


「むう……つまり今我が家は俺氏のハーレム状態って事か……」


黙ってろ親父!


「とりあえず、お医者様に相談してみましょう」と母。


「その前に、服を着替えねえとな」とマキ姉。


「男の服着て出歩く訳にもいかねえし、仕方ねえ、あたしの服を貸してやるよ。パンツもな。…ブラは………そのサイズじゃ無理か。行く途中でどっかで買うか」


そんな訳で、俺はマキ姉のパンティーを履き、マキ姉の服を着た。


まさか女装する日がくるとは……女だから女装じゃないのか?


「おお……なかなか似合うじゃねえか…弟の癖に……」


マキ姉は俺の姿に見とれていた。


「よしっ!メイクもしよう!髪もきれいにしてやる!」


「え?いいよ……これで……」


「バーカ!女は出かける時はおしゃれするもんなんだよ!いいからあたしに任せとけ!」

家でほぼ下着姿で酒飲んでゲップや屁をこいてるマキ姉におしゃれとか言われても……。


数十分後。


「おお……」


家族全員、俺の変わり様に驚いていた。


「ほ…ほんとにこれがお兄…いや、お姉なの?」


「まあ……かわいい!」


「むう……やはり俺氏のハーレム…」


だから親父は黙ってろ!


「へへ……あたしの腕もなかなかのもんでしょ?それじゃあ、行こうか」


という訳で、俺はマキ姉に連れられて、病院へと出かけた。なぜか妹までついてきた。


「うう…スカートってすうすうして落ち着かない……胸が揺れる度になんか痛いし……」


股間にあった物が無くなった為、下半身は軽くなった感がある。かかとが高い靴って歩きづらい……。


「まずはブラジャーだな…」


俺たちは近くのショッピングモールの下着売り場へと入った。


やばい、今は女とはいえ、下着売り場なんて入った事どころかしっかりと見た事も無いので、何だか異世界に入ってしまった様で落ち着かない。


ドキドキする!


「あの……そちらの方、顔が赤いですが、大丈夫ですか?」


女性の店員さんが心配して声をかけてきた。


「だ…大丈夫です!」


「あの…この子の採寸して、合ったサイズのブラをくれませんか?」と訊ねるマキ姉。


「あ、はいかしこまりました」と言った店員さんに連れられて、俺は試着室へ。


「失礼します……ってうわでかっ!……何でこの人このサイズでノーブラなの?」


店員さんは怪訝に思ったが、俺のバストサイズを計って、すぐにぴったりのブラを持って来てくれた。

やはりGカップだった。


ブラジャーはマキ姉が買ってくれて、そのまま着用した。


ふう……おかげで胸が揺れなくなってすごく楽になった。ブラジャーってすごいな……。


で、今度こそ俺たちは病院へ向かった。


「あれ?リンカ?……いや、リラちゃん………??……すみません、人違いでしたっす!」


入院中のイズミ先輩に呼び止められたが、流石に俺だとは気づかれなかった様だ。気づいたらすげえよ……。


「いずみん!ゲームしようよ!」


「おー、今行くっす!」


イナの声も聞こえて来た。あれから2人は仲良くやってるらしい。


俺が診察券と保険証を見せても、受付の人は「いや、あなた別人ですよね…?」と全然信じて貰えなかったが、そこに顔見知りの先生が通りかかって助け舟を出してくれた。


「ふーん……なるほどねえ…にわかには信じられないけど、そんな珍妙な事もあるんだねえ…」


その医師は中年の男性だった。俺たち一家は昔から何度かこの人の診察を受けている。


「先生、どうなんでしょうか?」


「うーん…僕もこれまで色んな能力者を診てきたけどねえ…性別が変わるなんてのは初めてだ。昨日、君に発現したというその自分の力を一時的に失う代わりに他人の力を得るという能力も……前代未聞だ…」


「それじゃあ…」


「はっきり言って、原因も対処法も分からないね。体が、女になったって事以外に、何か異常は無いかい?能力はいつも通り使える?」


訊かれて、俺は能力を解除してみた。


いつもの強大な力を感じる。先生の脳内を読み取ってもみた。


(いいなあ…あんな大きいおっぱいが揉み放題だなんて…)

(おいこら先生!)


「おっと…!はは!いや、すまんすまん…能力は問題ない様だね…」


全くこの人は……。先生を睨みながら俺はまた能力を封印した。


「さて、それでどうしたものか……?とりあえず、今日は帰りなさい。明日になっても、まだ体が女な様なら、お手数だけど、また来てくれ。僕は、他の医師たちにも相談してみるよ」


「……分かりました」


仕方なく、俺たちは家に帰った。


その晩、風呂に入って、水面に浮いてる自分の乳房を見ても、俺はそれを揉もうとは思えなかった。


風呂上がりに、長い髪を乾かして手入れするのにもかなりの時間がかかった。


夜、布団に入って俺は考えた。


もし、俺が男の能力を得ていたら、その男になっていたのだろうか?


もし、俺が男と女の能力を得ていたら今俺の体はどうなっていたんだろうか?


もし、明日になっても、あさってになっても俺の体が女のままだったらどうしよう?


俺はこれからずっと、女として生きていかなければならないのだろうか?


胸の上の2つの大きな脂肪の玉が、今はすごく邪魔に思えた。


リラ先輩は、俺より大変なんだろうなあ……。


俺は、16年間男として生きて来て、12歳の頃、クラスの女子たちがブラジャーを付け始めた事に気が付いた頃から、俺の股間に毛が生えてきた頃から、女の体に興味を持つ様になって、女の履いているパンティーを見たくなったり、女の胸に触りたくなったり思う様になって行って、今では時折、ネットで18禁のエロい画像や動画を見る様になって。たまに女子の服を透視して下着姿や裸を見る様になって……。


でも、女って、俺が想像してたよりもずっと、大変だったんだな……。


俺、このまま一生女だったら、いつか男を好きになって、その男の子供を妊娠して出産するのかな?


出産の時って、どれ位痛いんだろう?今朝のあの生理痛よりずっと痛いのかな?


産めたとしても、俺は、いい母親としてその子を育てていく事が出来るんだろうか?


ふと、俺はノゾムの両親の事を考えた。


あいつの父親は、あいつを捨てて逃げた。自分の妻を死に追いやって、死んだら逃げた。

あいつの母親は息子の為に必死で働いて、そして死んだ。


俺は、そういう母親になってしまわないだろうか?

俺の夫は、そういう父親になってしまわないだろうか?


そして、俺は自分の父と母の事を考えた。


母は、どんな痛みに耐えながら、俺たち3人を産んだのだろう?

父は、俺たちが産まれた時、どんな気持ちだったのだろう?


俺たちの両親は、俺たちを上手に育てたと言えるだろう。

ノゾムの両親と比べると、とてもいい両親だと言えるだろう。


俺は、そんな親になれるのだろうか……?


そんな事を色々考えてる内に、いつの間にか俺は眠りに着いた。




翌朝。


目覚めると、俺の胸は元のぺったぺただった。股間にも慣れた感覚が戻っていた。


男に、元の体に戻っていた。


俺は、しばらく布団の上で考え込んだ。


やっぱり……………少し位は揉んどきゃよかったかな……………。


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