第24話 サイドストーリー ゴースト&ドラゴン
これは、まだユキヒメとリンカが8歳の頃の話。
2人は幼馴染だった。
ユキヒメは大会社の社長の父と、とある学校の理事長の母の次女だった。
生まれつきの大金持ちのお嬢様だったが、その親友のリンカはごく普通の家庭の娘だった。
かと言って、2人が付き合う事に反対する者などいなかった。
2人は今日も今日とて、ユキヒメ宅の広い庭で、仲良く遊んでいた。
「ねえねえ!お姉さまも一緒に遊びましょうよ!」
通りかかった4つ年上の姉・フブキを見て、ユキヒメは無邪気な笑顔で誘った。
「悪いけど、私は中学受験の為の勉強で忙しいの」
しかし姉は、真顔のままそう言って去ってしまった。
天真爛漫な妹とは対照的に、姉はいつも無表情でクールであった。
「うぅ…お姉さま……」
そんな姉の冷たい態度にユキヒメは涙を浮かべた。
その頭に、ポンッと優しく手が置かれた。
「大丈夫。ぼくがそばにいるよ」
リンカは優しく微笑んだ。
「リンちゃん……大好き!」
がしっとリンカに抱き着くユキヒメ。
「わたし、大きくなったらリンちゃんのお嫁さんになる!」
「じゃあ、ぼくはユキのお嫁さんになるよ!」
そんな事を言いながら、笑って遊び回る2人。
それを遠目で見る両親には、とても愛らしく見えた。
同じく、勉強しながら窓の外に目をやった姉フブキだったが、「……ふんっ」と鼻で言うと、すぐに勉強に戻った。
その日の夕方の事だった。
「リンカー?そろそろ帰りますよー?」と、リンカの母親が迎えにきた。
「ヒナタさん、うちのリンカをご存じありませんか?」
「あら?さっきまでお庭で遊んでたのに、変ねえ?」
その後、庭中、屋敷中を大人たちが探し回ったが、リンカもユキヒメも見つからなかった。
「まさか……誘拐されたんじゃ?」
「そんなまさか……」
「ああ、私がもっとちゃんとあの2人を見ていたら……」
その様子を覗きに来ていたフブキは溜め息を一つついてから言った。
「全く……世話のかかる妹なんだから」
その頃、リンカとユキヒメはどこかの部屋に閉じ込められていた。
ドアをどんどん叩いて助けを求めたが、誰も開けてはくれない。
ドアの向こうでは3人の男の声がした。
「一緒にいたから仕方なく一緒に攫っちまったけど、あのガキはどこの子だ?」
「知らねえよ。とにかく身代金を要求すんだよ!」
「でもよう、相手はあの大会社だぜ?強い能力者もいるって噂だし、本当に上手くいくのか?」
「馬鹿!今更何ビビってんだ!もう攫っちまったんだ!こうなりゃ毒を食らわば皿までって奴だぜ!」
「え!俺たち毒なんて食っちまったのか!?」
「馬鹿!例えだよ例え!」
「うぅ…怖いよぉ……お母さま……お父さま……お姉さま……」
ユキヒメは泣いてしまった。
それをリンカは優しく抱きしめて言った。
「大丈夫。ぼくがそばにいるよ」
リンカはこんな状況でも泣かなかった。
「うぅ…リンちゃん……」
「んっ……んん……」
リンカは、鱗を出そうとしてみた。しかし、おへその辺りにちょっと出て、すぐに消えてしまった。
今度は火を吹こうとしたが、口先からライター程度の火が出るだけで、この場を打破できる様な事はできなかった。
ユキヒメも、まだ能力を上手く使えず、霊体になれるのも10秒程度だった。
「ユキ……きみの能力なら、ドアをすり抜けられる。きみだけ先に抜け出して、助けを呼んでくるんだ」
「無理だよぉ……こわいよお……」
「たのむ……ユキ……きみにしかできないんだ……」
「いやだよぉ……リンちゃんも一緒じゃなきゃいやだよ…」
リンカに抱き着いて泣きじゃくるユキヒメ。
「お願いだ、ユキ……そうだ!ユキ、ぼくの顔を見て」
「…?」
リンカの顔をまっすぐ見たユキヒメ。その唇に、リンカは自らの唇を合わせた。
「……リンちゃん?」
「これは、ちかいのキスだよ。これは、この先、どんな時でも2人は一緒っておまじないなんだってママが言ってた。例え離れてても、ぼくとユキはいつも一緒だよ」
「いつも…一緒?」
「そうだよ。だからユキがここを出ても、ぼくとユキは離れ離れにはならない。ずっと2人いっしょ。だから怖くない!」
「一緒……だから怖くない……うん、分かった!私、1人じゃない!リンちゃんと一緒なら、怖くない!」
ユキヒメはそう言うと、ドアの前に立ち、精神を集中させた。そして、消えた。
「走れ!ユキ!走れえええええっ!!」
リンカの叫びに後押しされる様に、ユキヒメは走った。
ドアも、壁も、誘拐犯の体も何もかもすり抜けて、彼女は走った。
そして、誘拐犯の隠れ家を出ると、彼女の体は元に戻った。
「はあ……はあ……できた……」
彼女は後ろを振り返った。
「まってて……リンちゃん……」
彼女はそのまま走った。
「誰か!助けてください!リンちゃんを……助けてください!」
叫びながらユキヒメは走った。息が切れようが、その胸が痛もうが走り、叫び続けた。
「どうしたの?」
すると、一人の男の子に声をかけられた。自分よりも少し年下の様だ。
ユキヒメはすぐにその子に飛びついた。
「わっ…」
「おねがい!リンちゃん……私の大事な人を助けて!」
その頃、誘拐犯の隠れ家では、
「ガキの叫び声が聞こえたから様子を見に来てみれば……どうなってんだ?おい!もう1人のガキはどこへ行った!?」
誘拐犯に問い詰められてもリンカは泣かなかった。
「さあね、急に消えたんだよ」
「このガキ……大人を舐めてんじゃねえぞ!言え!どっから逃げやがった?」
「だから知らないって言ってるだろ?この部屋には窓もないんだ。だから消えたって言ってるだろ…」
「てめえ……痛い目会いてえのか?お前なんかどうだっていいんだよ!大事なのはあのガキだ!てめえはただの、価値の低いおまけなんだよ!」
「……おまけか……それでもいいや、あの子と一緒にいられるなら……」
リンカは不敵に笑った。
「な……何訳分かんねえ事言って笑ってやがんだこのガキィッ!」
男の手がリンカに伸びかけたその時だった。
もの凄い音が響いた。
「な……何だ!?」
誘拐犯が部屋の外に出ると、隠れ家のドアが内側に吹っ飛んでいた。
そして外から6歳くらいの1人の少年が入ってきた。
「な……何だこのガキ……?一体どうやってこのドアを……」
「ああ……えっとですね……何だっけ?……そうだ、リンちゃん。…って子、返してくれませんか?」
「このクソガキッ!」
誘拐犯3人が襲いかかった……しかし、
「ぎゃっ!」
「ぐわぁっ!」
「痛あぁっ!」
あっという間に3人とも叩きのめされてしまった。
「んー……ちょっとやりすぎたかな?まだまだ加減が難しいや……」
「あ、あの……」
恐る恐る部屋から出て来たリンカ。
「ん?もしかきみがリンちゃん?」
「え?あ、うん…」
「よかった。女の子がきみを助けてって言ってたからさあ……あ、やべ!急がなきゃ!またマキ姉にテレビ取られるっ!じゃあね!」
少年はそう言うとすぐに走り去ってしまった。
「あの!……きみの、名前は……」
聞きそびれてしまったしお礼の言葉も言えなかった。
「リンちゃん!」
そこに、ユキヒメが駆け込んできた。
「大丈夫?リンちゃん……」
「ユキ……ありがとう。ユキのおかげで助かったよ……」
「うぅ…リンちゃん……わたし怖かった!でもリンちゃんが一緒だと思ったらがんばって走れたよ!」
「ぼくも…ユキが一緒にいると思ったら、怖くなんかなかったよ」
2人は抱きしめあった。
やがて、警察の協力で2人は無事発見された。
ドアを破って2人を救った謎の少年の正体は結局分からなかった。
その日以降、2人は誓った。
「いつか、多くの人のお手本になる様な素敵な人になる」
「いつか、どんな事からもユキを守れる様な強い女になる」
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