第23話 俺たちは平和な日々に戻れるんですかね?
パチパチパチパチ
拍手の音に振り向くと、そこには1人の女性が立っていた。
スーツを着て眼鏡をかけて、美人で、何と言うか、かっこいい女性って感じだ。
「お、お母さま!」
ユキヒメ先輩が驚きの声を上げた。
この人が先輩のお母さん、つまりうちの学校の理事長か…それにしても若え…。
「いやあ、なかなか見事な勝負を見せて貰ったよ。素晴らしかった」
「お母さま、一体いつから?今日はお仕事でお忙しいのではなかったのですか?」
「よおユキヒメ。ちゃちゃっと終わらせてきたよ。ここについたのはそこにいる男の子の試合が始まった頃だな。君、見事だったよ」
理事長は俺に声をかけた。
「あ、どうも…ありがとうございます」
「まあ!ヒナタさん。ご無沙汰してます!この子の母です。姉のマキ共々お世話になっております!」
そこに母さんが割って入ってきた。ヒナタというのが理事長の名前なのか。
「ああ、お母さん。ご無沙汰してます。そうでしたか、あの子はお宅の、マキちゃんの弟さんでしたか。いやあ、彼女には手を焼かされましたよ!」
はっはっはー!と世間話に花を咲かせる理事長とうちの母。……マキ姉、一体在学中に何やらかしたんだよ……。
「……あのよお」
いつの間にか泣き止んでいたノゾムが袖で涙を拭いながら言った。
「勝負には負けた。約束は約束だ。もうお前らにちょっかいはかけねえ…悪かったな……」
「あたいらも……ごめん!」
「ごめんなさいでした!」
「…ごめん……」
チカ、ホムラ、フウカも続けて謝った。
「それに、約束通りちゃんと金も払う……本当に…迷惑かけた……」
深々と頭を下げる4人。
「ああ……いいよ、金なんて」
しかし俺はそれを断った。
「…!何でだ?校舎に火も着けたし…」
「主にホムラがだけど……」
「うう…すいませんでした……」
「別に大して燃えなかったし、元々あそこは老朽化してて近々リフォームする予定だったし…ねえ会長?」
「はい」
「それにお前ら、試合以外じゃ俺を殴った位で、全然こっちの連中を傷つけてもないじゃないか。お前らが償うべき物なんて、何もないんだよ。俺の傷ももうとっくに治ってるしな」
「……でも…」
「まあ、イズミ先輩は病院だけども……」
「それなら大丈夫だ!さっき連絡がきた。2人共大した事はない。1週間程で退院できるそうだ。イズミも、そっちのイナもな!」と、リンカ先輩。
「……だってよ。俺たちはこの後イズミ先輩の見舞いに行く。お前らも早くイナの見舞いに行ってやったらどうだ?」
それを聞くとチカたちはぱあっと笑顔になって「おおっ!」「はいっ!」「…うんっ!」と返事した。本当にこいつら4人は仲良しなんだなあ…。
「ほらっ!ノゾムさんも、一緒に行くですよ!」とホムラ。
「え?お…俺もか?」
「当然だろ?イナだって、ずっとあんたに憧れてたんだぜ?」とチカ。
「でも…俺はお前らに、何も…」
「そんなもの、これからいくらでもがんばればいい……早く行こ……ダルいし……」とフウカ。
「お…俺は……」
どうすべきか悩んでいるノゾムに、俺は一言かけてやった。
「災帝だったお前はもう消えたんだよ。これからは、ノゾムとして天災でやっていけばいいんじゃねえかな?俺みたいに、誰かの為にがんばってみれば……」
「……」
その言葉に、ノゾムはしばらく考えた後、立ち上がった。そして俺に言った。
「……ありがとな……最強……」
それは、今初めて見る彼の心からの笑顔だった。
「おう!また会おうぜ!ノゾム!」
俺もそれに笑顔で返してやった。
そして、ノゾムたち4人は先に病院へと向かって行った。
「さて、私たちも参りましょうか」とユキヒメ先輩。
俺たちも病院へ向かった。
イズミ先輩は思ったより元気そうだった。
なんと、イナも同じ病室だったので、天災の連中とはまたすぐに会う事になってしまった。
俺たちは、学校の垣根を越えて、語り合った。
こうして、戦いは終わった。
いくつかの謎を残したままだが、今2つの学校の生徒達の心が通じあったのだ。
天災編 完結。
次回から平和な夏休みが始まる……はず。
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