第22話 第三者視点

その男は最強の能力者同士の戦いの一部始終を見ていた。


男はがっしりとした筋肉質の体型で頭は丸刈り、目つきは鋭く、市販の白いマスクで鼻と口を覆っていた。


男はスタジアムの裏で携帯電話を取り出すと、どこかへ電話をかけた。


しばらくすると、相手が出た。


「私です。例の男の件ですがね…たった今能力が完全に失われた様です。…はい、予測通りでしたね。やはり、人為的な能力開発実験にはまだまだ課題は多い様です。腕が鳴りますよ」


そう言いながらも男の顔は全然笑っていなかった。


「…ええ、分かりました。次の検体を探します。お任せを。全てはアイデアの目指す美しき未来の為に…では、失礼します」


そう言うと、彼は通話を切った。


「………」


携帯電話をしまいながら何か考え込む男。


と、そこへ1つの足音が近づいてきた。


「あ、やっぱりここにいた。久しぶりね」


女性だった。髪は長く、こちらからは目が見えない程の分厚い眼鏡をかけている。


「おや…誰かと思えば、あなたでしたか。


「相変わらず、他人行儀ね。高校からの仲だっていうのに」


「これが私ですから。ところで、見てましたよ、あなたの試合」


「ありゃりゃ…見られちゃってたかあ…恥ずかしい…」


「盛大に吐いてましたね」


「うぅ…言わないで…」


「しかし一体、どうしてあなたがあそこにいたんですか?」


「なあに、ただの遊びよ。メンバーが足りなかったし面白そうだから入ってあげた。それだけよ。それに、ここに来ればあなたに会えると思ったしね!毒島ぶすじま君。…いえ、今はこう呼ぶべきかしら?……アイデア実験室長、ドクター・ポイズン」


「ご自由に」


「全く、不愛想ねえ。ちょっとくらいニコッ!てしなさいよニコッ!て。そんなマスクなんか外してさあ!あなた高校の頃からまいーにちっマスク付けてたわねっ」


「これが私ですから」


「それさっきも言った。ふう…まあいいわ、また会いましょう。今度はお酒でも飲みながら」


「いえ、私は酒は飲まないので」


「またそういう可愛くないこと言う!そんなんだからあなたずっとモテた事が無いのよ!こんなにいい筋肉してんのに!この無駄マッチョ!」


「私に女性との交際への興味はありませんから」


「え?嘘…あなたってまさかのコッチ系…?」


「……そのハンドサインの意味は分かりかねますが、何か誤解をしている様なので、とりあえず否定しておきます」


「あー…ったく、面白くない。もういい、あたし帰るから!じゃあね!」


そう言い残して女は去って行った。


「……全く、騒がしい人だ、相変わらず」


その後ろ姿を見てから、男もどこかへ去って行った。


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