第20話 俺はあいつに勝てるんですかね?

俺がフィールドに先に立っていると、向こうの方から災帝が歩いて来た。


「ようっ」


「今までどこにいたんだよ?」


「ん?退屈だからその辺に遊びに行ってた。映画も観た」


「退屈って……あいつら…四災が戦ってたのに見なかったのかよ……」


「俺より弱い奴なんてどうだっていいんだよ。しかし、戻ってきてみれば、1勝2敗1引き分けだあ?不甲斐ない奴らだぜ」


「…てめえ……」


「おいおい、そんな怖い顔で睨むなよ。でもさ、もしこの試合で俺が勝っても2勝2敗の引き分けで終わっちまうからさ、ちょっとルールを変更して、この試合で勝った方のチームの勝利って事にしようぜ?どうだ?」


「……………ま、構わねえよ」


「だってよ!分かったかい?市長さんよ!」


「ああ……はい!分かりました……」


市長が了承すると、災帝は今度は俺たちのベンチの方を見た。


「あそこにいるのは、もしかお前の家族か?」


「……そうだが、何か?」


「いや……ただまあ、俺に言わせりゃ…家族も仲間も、所詮は一時的な味方に過ぎねえんだよなあ」


「……何だと?」


「人は結局、一人で生きてるって事さ……それともう1つ、お前に言っておきたい事がある」


「……何だよ?」


俺はそろそろこいつと話してるのが嫌になってきた。

こいつの頭の中を読もうとしてみたが、どうやら、強力な精神系能力者同士では、力が相殺してしまってお互いの心が読めないらしい。向こうも同じ様だ。



「……………何?」


災帝が言った言葉の意味が分からなかった。


その時市長が声を上げた。


「両者、準備はよろしいでしょうか?……それでは、最終試合……開始!」


やつの言葉の意味を考えてしまったせいで、俺は一瞬出遅れてしまった。


「!」


気づいた時にはやつは俺の懐に潜り込んでいた。


やつの右拳が俺の左頬を打ち付けた。


俺は痛みに必死で耐えながらマキ姉に教わったボクシングの構えをした。


しかし反撃した俺のパンチは空を切り、その隙にさらにやつのパンチを受けてしまった。


こいつ、相当喧嘩慣れしてやがる。たかが2週間ボクシングをやった程度の俺が格闘戦で勝てるはずがない。


ならばと、俺は能力のリミッターを解除した。


予備動作無しで放たれたサイコキネシスの波がやつを遠くまでふっ飛ばした。


「うがっ…!……やるじゃねえか、なら俺も!」


やつも予備動作無しでサイコキネシスを撃ってきた。


俺は咄嗟に念力の壁を作りだし、それを抑えようとした。


しかし、抑えきれる物では無かった。


「くっ…!ぐうぅっ……」


必死で押す俺だったが、逆に押されてしまって、足が後ろ向きにゆっくりと滑って行く。


そして、気づけば、俺も後方にふっ飛ばされていた。


背中を地に着けたが何とか立ち上がり、今度はパイロキネシスを放った。


たちまち、やつの体にオレンジ色の炎がついた。だが、服が焼け焦げただけで、やつは火傷一つ負わなかった。


やつが腕を一振りすると、炎も消えた。


「熱いじゃねえか……」


やはり駄目か……俺に効かない物が、こいつに効く訳がない。


本当にこいつは、俺と同等の能力を持っているというのか……。


今度は俺は、音速を超えるその足で走り出した。


高速で拳や足をやつに連続で叩き付けた。


だが、すぐにやつも俺と同じ高速で動き出した。


こうなってはもうさっきと変わらない。


格闘戦ではこっちが不利だ。俺はまた何発か食らって倒れてしまった。


「……くそっ!」


「まだ続けるか?」


やつが問うてくる。


俺の答えは決まっていた。


「まだ!終わる訳には!行かないんだよ!」


サイコキネシス。


だがまたサイコキネシスで押し返される。


「ぬぅぅぅ……!」


「おぉぉぉ……!」


くそっ!こんなに派手に能力使った事ないからすごく疲れる……持ち前の回復力でも追いつかねえ……。


バチッ!


また弾かれてしまった。今度はやつも弾いてやったが。


「はあ……はあ……」


息が切れている。


同じ能力のやつと戦うのがこんなにきついとは……。


そもそも、何で俺たちは戦ってるんだ?


何で争い合わなきゃならないんだ?


誰かと、傷つけ合わなきゃいけないなら……


そんな事なら……



…………」



その時、ふと昔の事を思い出した。


あれは、小学生の頃、マキ姉とキャッチボールをしていた時の事だった。


俺は、マキ姉の『マキちゃんキャノン』を食らって、高笑いするマキ姉を見てつい悔しくなって、で、気づいたら、



それが出来たのは、結局あの1回きりだったが。



「へへ……これでも食らいやがれぇっ!」


やつが走ってくる。拳を握りしめて。


その拳が俺の腹に命中……………したが、なぜか鈍い音が響いた。


「いっ……………てええええええええ!!」


やつが拳を押さえて呻いている。


自分の腹に違和感を覚えた俺は、シャツをめくって腹を見てみた。


そこには、


鱗はやがて、俺の顔を含めた全身を覆い尽くした。


「これは……まさか、リンカ先輩の?」


「あれは!………え?嘘、どういう事⁉」


ベンチのリンカ先輩たちも、客席の皆も、ここにいる誰もが心底驚いていた。


「何だそりゃ!?一体どうなってやがる!?そんな能力、俺は持ってねえぞ!」


やつは突然の事に慌てふためいていた。


「……ああ、さっきまでの戦いを見て無いお前は、知らねえよなあ?……これは、リンカ先輩。!」


「仲間の力だと……⁉馬鹿な……他人の力を得る能力なんて聞いた事もねえ!」


俺にも何が何やらさっぱりだったが、今は、この奇跡に感謝する。……待てよ?仲間の力って事は…もしか……。


俺は試しに指先をフィールドへと向けてみた。


出ろ!


念じると、指先から何かの種が射出された。それはすぐに芽を出しぐんぐん生長して、何だかよく分からない草木が生えた。


思った通りだ!


「今度は何だ!?これもその、なんとかって仲間の力なのか!?」


「これはリラ先輩の……俺の仲間の力だ!」


俺は、植物についてはあまり詳しくはなかったが、とにかく指先から大量の種をフィールドに撃ち込んだ。


たちまちフィールド上は、草木や花が生い茂るジャングルの様になった。


「何なんだ……………一体何なんだ!この力は!?」


やつは完全にパニック状態に陥っている。


「分からねえよなあ?」


「…っ!!」


木々の間をかき分けて、俺はやつへと一歩一歩歩いた。


に、仲間の力なんて分かる訳ねえよなあ!」


「来るなぁっ!」


やつはサイコキネシスを飛ばした……………つもりだったが…


「……あれ?」


何も出なかった。


なぜだか分からんが、この機を逃す俺ではなかった。


「おおおおおおっっっ!!」


鱗を纏った俺の拳がやつの腹に命中。


奴は吹っ飛び、巨木に背中をぶつけて、そして…そのままノックダウンした。


木々の間から入ってきた市長が、災帝の気絶を確認してから、声を上げた。


「災帝選手、ノックダウン!よって、この勝負、○○学校側の勝利です!」


歓声が上がった。


戦いは終わった。


俺たちの……仲間の勝ちだ。

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