第18話 俺の先生は強いんですかね?

……………で、そのカナメ先生はと言うと……。


食べていた。めちゃめちゃ食べていた。


弁当箱には大量のほうれん草のソテー、切り干し大根の煮物、レバニラ炒め、サンマの蒲焼き、さらにデザートにはドライプルーン。


いや確かにそろそろ昼飯時だけど……先生が早弁ってどうなの……?


「ごめんなさいね。でも、先生は能力的に他人より多くの鉄分を必要とするから……」


「あー…そうなんですね……」


ようやく食べ終わった先生は「ごちそうさまでした」と言うと、準備体操を始めた。


さっきの試合で嵐に見舞われたり巨木が生えたりした為、今フィールドの整備にかなり時間がかかっている。飯食う時間はある訳だ。


「先生、大丈夫ですか?相手は〈地震〉のチカですけど…」


「うーん……自信があると言えば、嘘になりますけど……精一杯がんばります!」


ケプゥッ!とゲップする先生。……うーん…本当に大丈夫だろうか?


「えー…フィールドの準備が整いましたので、選手の方は上がって下さい」


市長のアナウンスが流れた。


「では……行ってきます!」


先生はヘアゴムで長い髪を纏めると、ベンチを出て行った。


「がんばって下さい!」



フィールド上で先生とチカが向き合った。


「そっちは先公を出してきやがったか……きひひ…余程人手不足と見えるなあ」


「あの……ひとつお手柔らかにお願いしますね」


「えー…両者、準備はよろしいでしょうか?……それでは、第四試合、開始!」


「行くぜ!おぉらぁっ!」


いきなりチカが地面を強く踏み鳴らした。するとグラグラガタガタと地震が発生した。スタジアム全体が大きく揺れている。


「きゃあっ!」


思わず尻もちをつく先生。


そこに襲い掛かるチカ。


咄嗟に右手を前に差し出した先生。その手から銀色の何かが出て来た。それはやがて盾の姿をとって現れた。


チカの拳は盾に当たり鈍い音を立てた。


「いってえええっ!!何だこりゃ⁉鉄の盾か?」


「いいえ、鋼です……」


先生が立ち上がって行った。


「人間の体内には、炭素が18%程含まれています。私は、体内で鉄分と炭素を混ぜて、鋼を作って出す事ができます」


「へえ…おもしれえ能力だな…きひひ…でもよぉっ!人間が鉄や炭素を外に出し過ぎたら、やべえんじゃねえのか!?」


「もちろん、分かってますよ。生物教師ですしね、私」


「なら、その能力は、あまり派手には使えねえって事だよな?そんなんであたいに勝つつもりかぁ?」


「自信はありません。でも、精一杯頑張ります!」


「そうかい……おもしれえ……なら、これを食らいな先公!」


チカがバンッと地面を両手で叩くと、途端に先生の周囲のフィールドが砂地へと変化した。


「……!これは……」


砂に足を取られ、そのままズブズブと沈んでいく先生。


「どうよ!その盾の重みの分、早く沈むぜ?」


「くっ…!」


やむを得ず先生は盾を崩して鉄と炭素として体内に収納した。


そして何とか足を砂から抜こうとするも、上手くいかない。


「でも結局、もがけばもがく程、どんどん沈んで行くんだよなあ。どうする?降参するなら引き上げてやるぜ?きひひ…」


「……」


先生は何かを考えて、そして決断したらしい。


「!……何!?」


先生の指先からワイヤーが伸び、チカの体を縛った。


そして先生はそのワイヤーを自分の体に戻した。


するとどうなるか。


ワイヤーがどんどん先生の体に戻る毎に、捕まったチカの体が先生の方へと引っ張られて行く。


「ぐ……くそっ、離せ……」


しかし、先生はワイヤーの巻き取りを止めようとはしない。


「てめえ…あたいを道連れにするつもりか!……そうはさせねえぞ……」


引っ張られながらも、チカは再び地面を踏み鳴らした。またグラグラと地震が起きた。


それにより一気に先生の体が胸の辺りまで砂に沈んだ。その拍子にワイヤーの巻き取りが一瞬止まった。


その瞬間をチカは見逃さなかった。彼女はワイヤーを両手で握ると、


「うおおおおりゃああああああっっ!!」


大声で叫びながらワイヤーごと先生の体を砂から引きずり出した。


「あっ!」


その拍子に先生の眼鏡が外れて落ちてしまった。


「眼鏡……私の眼鏡はどこでしょう?……あれがないと私、何も見えなくて……」


顔を地面に近づけて、キョロキョロと眼鏡を探す先生。


その素顔は、とても美人だった。マジかよ……。


「……………」


その様子に、チカは何だか戦う気が薄れていくのを感じた。


「おい、眼鏡ならそこだよ……」


「え?そこってどこですかあ?」


「だーから、そこだっつってんだろ!」


「えー?全然見えません……」


「ああっもう!とりあえずこのワイヤー外せ!拾ってやる事も出来ねえじゃねえか!」


「あ、ごめんなさい」


そう言うと、先生の意思により、チカの体に巻き付いていたワイヤーは解け、しゅるしゅると先生の体へと帰って行った。


「……ほら、これだろ?」


チカが先生の眼鏡を拾って渡す。


「あ、ありがとうございます!」


先生はその眼鏡をかけると、ぺこりと頭を下げた。


「……ったく、調子狂うな…」


「あの!先ほどは助けて頂いて、ありがとうございました!」


「別に助けたわけじゃねえ!あのままだとあたいまで砂に落ちちまう所だったから仕方なくだ!」


「はい、お陰で助かりました」


「お前なあ……」


うーん……何やら戦いが終わる予感が……。


「……で、どうすんの?再開するのか?」


「いいえ、降参いたします。……実は、さっき食べ過ぎて……それで……もう……」


おえーーーーーー……………。


吐いた。


先生は口からメタリックな色した吐しゃ物をチカが作った砂の穴にぶちまけた。


「おいコラ!あたいの砂をゲロ穴に使ってんじゃねえ!」


「………うう…すみません、実は私、昔からどうも能力を使うと気持ち悪くなっちゃう体質でして…ううっ………」


おえーーーーーー……………。


「……………」


酷い試合だ……………。


「え、ええ……という訳でして……………第四試合はチカ選手の勝利です!」


「…………………………」


歓声なんて起こるはずもなかった。


「や…やったねチカさん!」


「うぃー…ないすふぁいとー……………ダルい……」


ホムラといつもよりさらにダルそうなフウカが称賛した。


「いや嬉しくねえよ!こんなゲロ試合!」



「あー……………お疲れ様でした、先生」


「皆さん、ごめんなさいね。先生、負けちゃいました…」


残念そうに笑うカナメ先生。


「いえ…先生はよく頑張りましたよ、本当………」


「……ありがとう。先生、ちょっと医務室で休んできますね………ううっ…」


そう言って先生は去って行った。



これで2勝1敗1引き分け。


残るは最後の戦い、大将戦。


俺と災帝との戦い。

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