第17話 俺の先輩は強いんですかね? 2

その後、チューなんとか先輩に連れられてやってきたユキヒメ先輩とリンカ先輩にまで汚物を見る目で見降ろされた俺は、必死に弁明を試みるも、なぜか信じきっては貰えず、挙句の果てに先輩たちの声かけでやっと目覚めたリラ先輩が、枕ではなく俺を抱きしめていた事に気付くや否や、顔を真っ赤にして声にならない叫びを上げて、俺をゲシゲシと踏みつけて「うえ~ん!汚されたぁっ!」と泣いてユキヒメ先輩とリンカ先輩に抱き抱えられてよしよしされている。……………どうして俺がこんな目に………。


「あのぉ………もう、あっちの選手、待ってるんですけど……………」


と、そこに市長がやってきた。


女の子が泣いてて、男が足跡だらけになって地面で伸びてる状況は市長の目にさぞ奇怪に映った事だろう。


そんなこんなで中堅戦が始まる。


やっと出て来たリラ先輩をフィールド上で待っていたのは〈親父〉のフウカだった。


「……………ダルい………」


対するリラ先輩はと言うと………


「………眠い…………」


枕はベンチに置いて来たものの、アイマスクで前髪を上げ、いまだ眠そうな様子だ。


「それでは……………第三試合、開始!」


市長が叫んだ。


………しかし、


「……………ダルい…」


「……………眠い…」


「……………」


「……………」


二人ともフィールド上に寝転がってしまった。


リラ先輩はアイマスクを再びかぶってしまった。


当然、これには会場も騒然となった。


「馬鹿野郎!フウカ!ちゃんと戦え!」とチカ。


「リラちゃん起きて!」とリンカ先輩。


「うー……………めんどくさい……………」と、フウカは心底嫌そうな顔をした。


「あのー…早く始めてくれないと、両者共に戦意無しと見做してまた引き分けにしますけどいいんですか?」と訊ねる市長。


「フウカァッ!てめえ、イナがどんな気持ちでああなったか、分かんねえ訳じゃねえよなあ⁉」


「…っ!」


「フウさん戦ってください!あたし達は今度こそ勝ちたいんですっ!」


「……………」


チカとホムラの叫びに、ついにフウカが動いた。


そのまま立ち上が………ろうとしたが動けなかった。


「…っ!?こ…これは………⁉」


見ると、いつの間にか、フウカの両手両足に、紐の様な物がからみ付いて動きを封じていた。


「これは…………植物の蔓?」


「リラはね……色んな植物の種を体の中に貯蔵してるの……」


「!」


いつの間に起きていたのか、リラ先輩が立ち上がって、アイマスクを額に上げて言った。


「そして、体内で自由に交配させて、品種改良する事も出来るし、自在に種を蒔いて、自在に生長を促進させて、自在に操る事が出来るんだ……その蔓は、そう簡単には切れないよ」


寝たと見せかけて仕込んでいたのか。


「くっ…てめえ……」


もがくフウカだが、蔓はびくともしない。


「植物の恐ろしさ、思い知らせてあげる……」


先輩は指先からフィールドに向かって弾丸の如く種を撃ち込んだ。


すると、すぐに芽が出て、ぐんぐん生長し、たちまち巨大な花をいくつか咲かせた。


鳳仙花ホウセンカ。この花の実はね…熟すと自ら弾けて種を遠くに飛ばすんだよ。…」


パチンッと先輩が指を鳴らした。


するとたちまち全ての実が弾けて種を飛ばした。全てフウカの方へ。


「わあああああああっ!!」


動けないままフウカは全身に巨大な種を嫌という程大量に食らった。


「フウカ!」

「フウさん!」


チカとホムラの叫びが響いた。


リラ先輩……意外とえげつない戦い方するんですね……。


「まだ続ける?」と訊ねる先輩。


「……………冗談………まだまだこんなもんじゃ……………」


しかしボコボコになりながらもフウカはギブアップしなかった。


「………そう。じゃあ、お次は、こんなのはどう?」


そう言うと、先輩は再び種を蒔いた。


今度生えて来たのは彼岸花だった。


「知ってるかな?…彼岸花には猛毒があってね、もしも摂取しちゃうと最悪死に至るんだよ。でも安心して。毒性はかなり弱めてあるから」


そう言うと、先輩は彼岸花の毒素を抽出して、フウカの口へと飛ばして入れた。


「あ…!ああああああああっ!」


フウカは苦しみもがき出した。


「それでも、かなり吐き気を催すけどね……………」


ヤバい…。あの人は本気になればどんな猛毒植物でも出せるんだ……。


「解毒薬はここにある」


そう言って先輩は懐から小瓶を持って見せた。


「降参するならすぐに飲ませてあげる」


これは流石にもう勝負あったか?と思った。


しかし…


「うぅ…ううっ…うううっ……………ふっふっふっふっふっふっふっふ………あっはっはっはっはっはっはぁ!!」


呻いていたフウカが突然笑い出した。


「?」


それを見て怪訝そうに眉をひそめるリラ先輩。


「お前………今勝った!…って思っただろ?…………甘ぇんだよ…クソがっ!」


ぶちっ!


ジト目をカァッと見開いたフウカが蔓による両腕の拘束を引きちぎった。次いで両足の拘束も無理矢理引きちぎった。痛そう…。


「おらっ!」


フウカが手を前に突き出すと、突風が起こり、先輩は後ろに吹っ飛んだ。


「きゃあっ!」


その拍子に手放された解毒薬の小瓶を素早くキャッチすると、フウカはそれをグイっと飲み干して、小瓶を地面に叩きつけて割った。


「…………ふう…楽になってきたぜ……。行くぞクソ野郎。こっからが本番だぁ!」


まるでさっきまでとは別人の様に変わったフウカ。


「…ったく、ようやく本気になったか」


「ああなったフウさんは怖いですう…」


ベンチのチカとホムラに余裕が見えた。


ビュウウウウウッ!


フウカが両手を掲げると、急に強い風が吹き出した。


やがて風は雲を運び、ぽつぽつと雨が降り出した。


雨は次第に強くなっていき、遂には嵐と呼べる状態になった。


客席はびしょ濡れになり、人々が避難を始めた。


「おい!スタジアムの天井を閉めろ!」

誰かが叫んだ。


しかし市長は言った。


「それはできません!それでフウカ選手の能力が使えなくなっては、不公平ですから!」


何てこった…確かに市長の言う事はごもっともだが…。


「げはははははは!!どうだ雑草野郎!」


下品な笑い声を上げて勝ち誇った気でいるフウカ。


しかし、リラ先輩は全く動じていなかった。


「植物を舐めないで」


そう言うと、地面をバンッと叩く様に両手を突いた。


するとそこから巨大な木が生え出した。15メートル程もある巨木が、たちまち先輩の前に立ち上がった。


「あーん?そんな木、ふっ飛ばしてやるよぉ!」


フウカが手首をぐりんっと捻ると、途端にそこに竜巻が発生した。


竜巻はどんどん大きくなり、巨木を飲み込むと、フィールドからズボォッ!と引っこ抜いて空高く放り投げてしまった。


しばらくすると、その巨木がフィールド目がけて真っ逆さまに落ちてきた。


ものすごい轟音が響き、巨木は墜落した。


先輩は新たな巨木を生み出し、すぐさまガードしたが。


「げひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!どうする?雑草野郎!また木を出すかぁ?それともまた種かぁ?毒かぁ?何が来ようが、この風ですぐにふっ飛ばしてやる!」


フウカの体の周りに竜巻が発生した。竜巻は彼女の体を宙高く浮かした。


これはまるで風のバリアーだ。浮いている為に、最初の蔓の様な地下からの攻撃も届かないだろう。


「どうしたぁっ?さっきまでの余裕はよぉ!もうてめえは、あたしに触れる事すら出来ねえんだよぉ!」


まずいな…このままじゃ先輩は防戦一方でいずれ根負けしてしまうぞ…。


「……………そうだね」


そこで先輩が口を開いた。


「あん?」


「確かに、今のあなたにリラがどんな植物を仕掛けても、全部弾かれちゃう」


「おいおい…まさか降参かぁ?つまんねえ真似すんじゃねぇよ!さっきてめえにやられた分の倍はてめえをボコらねえと、割りに合わねえんだよ!」


「…だから、先に仕込んでおいてよかった」


「……………はあ?」


フウカが怪訝に思ったその時だった。


吹き荒れていた風が急に弱まった。


「な…何だ?……………ち…力が……抜けていく⁉」


風はどんどん弱まっていき、とうとう嵐は止み、風のバリアーも消えた。そして……


「うっ…うわー!」


フウカも支えを失って落下した。


「い…痛え……畜生…どうなってやがる?」


「寄生植物。本来は他の植物に寄生する物だけど、リラが改良したから、動物にも寄生できて、その力を吸い取る。あなたの体の中でね」


「体の中!?そんなもん、一体いつ⁉」


言ってフウカはハッ!と気づいた。


「まさか!……彼岸花の毒を飲ませた時、一緒に?」


「その通り」


「ふざけんなてめえ!!あの時、あたしは縛られてたんだぞ!あたしが蔓をちぎって風でお前の攻撃を防ぐ事を予期してたとでも言うつもりか!?」


「あなたが風の能力だって事は、既に知ってたし、どうゆう戦い方をするのかも予め予想してた。リラはただ念を入れておいただけ。…あ、ちなみにその寄生植物はおなかいっぱいになると力を吸うのをやめて、あとはうんちと一緒に出るから安心して」


「……はっ!……マジかよ……ただのねぼすけの爆乳女かと思ったら……とんだ食わせ者だったって事かよ……敵わねえな……………ああ、ダルい……」


そう言うと、フウカは大の字で寝転がった。


「……あの、それはつまり、降参って事ですか?」


恐る恐る近づいて来た市長が訊ねた。


「あぁ?…たりめえじゃねえか。あたしは力が抜けてこのザマだし…二度とアイツとだけは戦いたくねえ…もう毒を飲むのは懲り懲りだ……………」


「……分かりました。……という訳で、第三試合はリラ選手の勝利です!」


歓声が起こった。嵐も去ったので観客たちが戻って来たのだ。


「……眠い」


ベンチに戻ってきた先輩は俺たちのおめでとうの声も届いていない様で、すぐに枕を抱きしめて、またくうすーぴい……と眠ってしまった。


お疲れ様でした。


次は、副将戦。カナメ先生ⅤS〈地震〉のチカか………。







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