第15話 俺たちは勝ち続ける事が出来るんですかね?
「それでは、第二試合を開始したいと思います!両選手、前へ!」
「押忍!」
イズミ先輩は気合い十分にフィールド中央へと駆け出して行った。
対する相手は。
「勝てよー!イナァッ!」
「おーう!まっかせっとけー!」
〈雷〉のイナを次鋒として出してきた。
「リンカ先輩、イズミ先輩の能力って…」
「ああ、水だよ。ポ〇モンなら相性は悪いけど、実際はどうかな?」
笑っている。先輩はイズミ先輩が不利だなんてこれっぽっちも思ってないらしい。
「よろしくねん!あ、飴あるけど舐める?」
イナは棒付き飴を2本取り出すと、イズミ先輩に差し出した。
「ありがとっす!いただくっす!」
イズミ先輩は2つの内1つを選ぶと口に咥えた。
イナは残った1つを口に咥えた。
「おいしいっす」
「でしょ?これが終わったらメアド交換しない?」
「いいっすよ!」
…なんか、戦う前に仲良くなってんですけど…。
「あの…君たち、そろそろいいかな?」
あまりにも緊張感のない2人の様子に市長さんも困っている。
「よーし、ほんじゃま…やりますか!」
「押忍!よろしくお願いしまっす!」
二人は飴を咥えたまま、距離を取って向き合った。
「えー…それでは、第二試合……………開始!」
「はああああああああっ!!」
開始の合図と同時に、イズミ先輩は駆け出し、そのまま空手技の応酬を繰り出した。
「は!はい!や!た!はい!は!た!や!はいぃっ!」
それを素早く躱したり受け止めたりするイナ。さっきのホムラもだが、なかなかの格闘スキルを持ってるらしい。四災の名は伊達じゃないって事か…。
「よっと…!へ~え、なかなかやるじゃん、いずみん」
後ろに跳んで距離を取るイナ。……いずみん?
「じゃあ、そろそろいこうか!ビリビリ!」
すると、イナの体の周りにビリビリバチバチと電気が見え始めた。
「おっと…来るっすか…」
「行っくよー!いずみん!そーれえ!」
前方に伸ばされたイナの指先から電気が迸り、イズミ先輩の体に直撃した。
「アアアアアアアアアッッッ!!」
途端に先輩の体が、その場でビクビクと痙攣した。
「ふふ…どう?いずみん。あたしの電気は?」
イナは電気を止めて訊ねた。
「ふ…ふふ……丁度いいマッサージっすよ。お陰でコリがほぐれたっす」
「いいねえ!そうこなくっちゃ!まだまだこんなもんじゃないわよ。少しずつ電圧を上げて行くよ!」
「おっと…!今度はこっちの番っす!」
先輩が掌を上に向けると、そこに水の渦が発生した。
「へえ!いずみんの能力は水なのか!こりゃ面白いね!」
「行くっすよ…おりゃっ!」
先輩は水の渦を、そのままイナに向かって投げた。だが…
ざばあっ!
「……………何これ?ただ濡れただけなんだけど…」
イナはびしょ濡れになった。お陰で透視しなくてもブラジャーが透けて見えるよ!
「あはは!いずみんも抜けてるなあ!これでも食らえ!」
「馬鹿イナ待て!」
ベンチのチカからの叫びも遅く、イナは放電した。
するとどうなるか?
「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ…!!」
イナ自身がビリビリしびれて倒れた。
濡れた電気機器を使うのと同じ事だ。
漏電したのだ。
「……………あの馬鹿…」
チカは頭を抱えた。
「はっはっは!どうっすか!参ったっすか!」
勝ち誇る先輩。
しかし、イナはゆっくりと立ち上がった。
「あっはっは……………やるじゃん、いずみん……………でもね、あたしもそこまで馬鹿ではないんだよ…………」
「いや、お前は割りと馬鹿だぞ………」とチカ。
イナは口に咥えてた棒付き飴の棒をペッと吹き捨てた、そして…
「はあああああああああっ……………!」
何やら全身に力を籠め始めた。
「な…何っすか?これ…あ、暑い……………」
「…暑い?」
ここからでは分からないが、どうやらフィールドが急激に暑くなってるらしい。市長も汗をかいて、服を脱ぎだした。
「…おい!まさか、イナの奴、アレをやる気か!?馬鹿野郎!アレはヤベえから使うなっつったろ!」
チカが何やら尋常じゃない慌て方をしている。
「………こ、これは‼」
客席でミハル先生が声を上げた。何か見えているのか?
「あの子の体温が、どんどん上がっていってます!」
「体温が…⁉」
目のいい俺にもようやく見えてきた。
びっしょりと濡れていたイナの体から湯気が上がっている。
「……………まさか!…体内で電気抵抗を起こして電熱を起こしている?」
そんな事まで出来るのか……………しかし、いくら発電人間のイナとはいえ、そこまでの高熱に、体が耐えられるとは思えない。
「……………ふう…これで体が乾いたよ…」
イナの服も体も、高熱ですっかり蒸発してしまった。この短時間で、一体どんな熱量だ…
「はあ……はあ……」
イナは息を切らして、真っ赤になっている。
あれは…確かにヤバい…。
「来い!いずみん!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!!!」
イズミ先輩は両手を天高く掲げ、巨大な水の塊を作り出すと、それを一気にイナ目がけて投げ飛ばした。
しかし、巨大な水の塊は、イナの体に当たった瞬間、シュウウウウッ!と大きな音を立てて蒸発。まさに焼け石に水だ!
そして、その水が巨大な霧の塊となり、フィールドを真っ白に覆った。
これでは、しばらくの間だがフィールド内が見えない。
ミハル先生以外には。
「危ない!イズミさん!」
ミハル先生が叫んだ。
途端にビリビリビリビリ‼と電撃の音と光が迸った。
やがて、霧が晴れると、フィールド上ではイナが立っていて、その電撃を食らったのであろうイズミ先輩が倒れていた。
しかし、その直後、イナもバタンッと倒れ伏した。
すぐに市長が駆け寄って両者を確認した。
「こ…これは……………両者共に、気絶しております!………よって、第二試合は、引き分けとさせて頂きます!」
「……………」
歓声は上がらなかった。
「急げ!氷水持ってこい!」
「救護班を早く!」
「119番だ!」
俺たちもチカたちも咄嗟にフィールドへと駆け出した。
「イナ!イナ!目ぇ開けろオイ!」
チカが叫ぶ。
「……………う…うーん…チカりん……………あたし……………勝ったの?」
イナが目を開いた。
「引き分けだよバーカ!…ったく、何でアレ使ったりなんかしたんだよ…」
「ごめんね…あたし、負けたくなくて…」
運んで来られた氷水を蒸発させながら、イナの体は冷やされていった。
「馬鹿……………お前にもしもの事があったら、どうすんだよ…………」
涙を流すチカ。
「……………チカりん…」
「そうですよイナさん…わたしたちの気持ちも考えて下さいよ……」
同じく涙を流すホムラ。
「……ホムっち…」
「……………四災は、4人揃って地震雷火事親父…………」
「フウちゃん……………みんな…ごめんね………ホントにごめんね…………」
抱きしめあって泣きじゃくる四災たち。
一方こちらは…………
「イズミちゃん!イズミちゃん!」
「ううっ…あたし……負けちゃったんすか?」
リンカ先輩の呼びかけに目を覚ましたイズミ先輩が訊ねる。
「いいえ、引き分けですわよ。よく頑張りましたね。イズミさん」
ユキヒメ先輩が労いの言葉をかけた。
「そうっすか……あたし……………悔しいっす……空手なら、勝ってたかも知れないのに……」
イズミ先輩は涙を流し始めた。
「大丈夫ですよ、先輩。俺たち、必ず勝ちますから。だから今は休んで下さい。お疲れ様でした」
俺は先輩の手を取ってそう言った。
「……………ありがとう。あたし……もっと、強くなるから……今度は、誰にも…負けない様に……」
イズミ先輩とイナは救急車で搬送されて行った。
「次は…リラちゃんですわね……」
……あれ?そう言えばリラ先輩いないな。
イズミ先輩があんな事になったってのに、どこで何してんだ?
ベンチに戻ってみると、リラ先輩はアイマスクを着けて、いつものお気に入りの枕を抱っこしてくーすかぴー……と寝ていた。
…………イズミ先輩、ごめんなさい。必ず勝つって言っておきながら、次の試合、めちゃめちゃ不安です……………。
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