第12話 俺は戦わなきゃいけないんですかね?

四災のホムラによって燃やされた箇所は大した被害でも無かったが、絶対今度あいつらに修繕費を迷惑料込みでむしり取ってやろう……。


「お疲れさん。校舎内も、大して壊れた物とかはなかったよ」

校舎中をチェックしていると、リンカ先輩に声をかけられた。


「いや、本当に疲れましたよ……。あんなに能力を使ったのは久しぶりでしたし…。」


「ははは!みんなも僕もびっくりしてたよ。強いとは聞いていたけど、あそこまでとはねえ」


「はは…ユキヒメ先輩に『とりあえず、頭に来たから、殺さない程度に思いっきりコテンパンしてあげて下さいな』って頼まれたんで言う通りにしたまでですよ」


「あー…ユキはあれで結構怒ると怖いとこあるからなあ」


いやほんと、あの時のユキヒメ先輩はすごくニコニコしながら俺に耳打ちしたんだよ。あれでも心の中ではちゃんと怒ってるって事が伝わって来たから不思議。


しかし、こうなると少し心配だ。


せっかく噂程度で恐れられてた俺が、最近ようやく周囲に受け入れられて来たって言うのに、全校生徒たちの目の前であんな派手にやっちゃったらプラスに向いてた物がマイナスに向いちゃうんじゃないか?


だが、どうやら杞憂だった様だ。


チェックを終えて教室に戻った俺を待っていたのは…。


「おい!さっきはすごかったな!」

「かっこよかったぞ!」

「お前、あんなに強かったんだな!」

「ねえ一緒に写真撮っていい?」


教室に入るや否や大勢に詰め寄られて、狭い、暑苦しい、息臭い、照れる。


今まで気づいてなかったけど、何だこいつら、みんないい奴らじゃん!


「うう…良かったですね……ううっ…」


あー…ミハル先生がまた号泣してる。それは感動の涙なんだよね?また俺が幼女を泣かせた…みたいに見えてないよね?ね?



家に帰った俺は、家族に今日あった事を話した。


「良かったじゃんか」と、マキ姉。うん…ビールぐびぐびして酒臭い息かけられた俺は全然良くないんですけどねえ…。


「そっか…お兄もついに…」と妹。


「何だ?お前も喜んでくれるのか?」と俺が聞くと、


「べ、別に!どうだっていいんだからねっ!」

プイッとそっぽを向いてしまった。…ねえそのツンデレ設定いつまで続けるのん?こいつもユキヒメ先輩みたいな中二病なのかな?…ていうかあなた、また俺の布団に寝たでしょ?知ってるのよ?


「ま、お前の選択は間違って無かったって事で良かったじゃないかせがれよ。……俺氏なんかまた選択肢間違えてバッドエンドしちまったぜ……」


親父も褒めてくれた。……ああ、ゲームの話な。


「良かったわねえ。今度お友達をお家に連れてきてね」と母。


いや本当、働いて良かった。


翌日。その日は1学期終業式だった。


明日から夏休みだ。去年までは友達がいなかったのでほとんど家にこもって過ごしていたが、今年はそんな事も無いんじゃないか?と半ばウキウキしながら、俺は通学路を歩いていた。

清掃ボランティア等も行った為か、俺は町内の人々にも受け入れられる様になっていた。


「おはようございます」

「おはよう!最強のあんちゃん!」

「おはようございます」

「おはよう。この間はありがとうねえ」


道行く人と挨拶を交わす様になった。

もうカツアゲしたなんて誤解は生まれないはずだ。



……と、余所見をして歩いていたらすれ違いざまに肩がぶつかった。


「あ、ごめんなさい」


慌てて振り返って謝った。


相手は自分と同じ位の歳の男だった。


「いえいえ…こちらこそ。最強さん」

男はちっとも気にしてないといった感じの笑顔でこっちを見た。

俺はその笑顔に、何か不気味な物を感じた。


「ああ……結構知れ渡っちゃってるんですね……恥ずかしいな…」


「いやあ……俺もつい昨日知ったばかりだよ。こんな所に俺と同じ奴がいたなんて」


「え?」


男の言葉に俺が疑問を感じたその時、俺の腹に鈍い痛みが襲った。


見ると、男の拳が俺の腹に刺さっていた。


更に、その拳は俺の体を後方に何十メートルも飛ばした。


俺はアスファルトの上を転がった。

周囲にいた人々の悲鳴が聞こえたが、俺は痛みにのたうち回った。


「へえ…少し本気で殴ったのに、その程度しか効いてないんだ……コンクリートだったら粉々になってたぜ?」

そう言いながら男が歩きながら近づいてくる。


痛い。


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い…。


俺は今朝食べた物を道に吐き出した。

口の中が酸っぱい…。

アスファルトで擦りむいたが、もう既に傷は完治している。

でも痛い。


「な……何なんだ?……あんた?」


俺は痛みに顔を歪めながらも立ち上がり、訊いた。


「俺か?俺は、天災学園の災帝だけど?」


「‼」


天災学園?昨日のあいつらの?こいつが、そのボスの災帝?


「昨日はウチの馬鹿共が世話になったな?あー…別にその敵討ちって訳じゃないんだぜ?あいつらがお前より弱かった。ただそれだけの事だ。だが、あいつらに聞いた話じゃ、どうやらお前は俺と同様の能力を持ってるらしいな?だから戦って、どっちが強いかはっきりさせようじゃねえか。この世に最強は二人もいらねえ。昨日あいつらが伝えた通り、2週間後にタイマンの試合をしよう」


「……………ふざけるな。確かに俺と同じ能力の男がいた事は驚いたが……………そんなくだらない勝負を受ける気はない…」


「くだらない……………か。じゃあいいんだな?お前の大事な奴らがどうなっても」


「……………何?」


「お前が勝負を蹴るってんなら、天災学園の連中に命じて、ここらを攻撃させる。ウチは主に女ばかりとはいえ、鍛え上げられた強者揃いだ。俺が命じればすぐに全員やってくるぜ」


「お前、何言ってんだ……………そんな事、許される訳ねえだろ…」


「許さない?一体誰が俺を許さない?警察か?法律か?そんなもん、俺には何の意味もねえ、世の中は強い奴が正義だ。つまり俺が正義、俺が権力、俺が法律だ!」


「…イカレてる…」


「安心しろ。何も殺し合いをしようって言ってるんじゃねえ。一対一の試合をしようって言ってんだ。もしお前らが勝ったら、俺たちは手を引く。ついでに賞金でもあげようか?だが、俺たちが勝ったら、そうだな…お前ら、俺の下に着け。俺はいずれ俺が世界最強だと証明してやる。その為に、強い軍団が欲しいんだ」


「ふざけるのも大概にしろよ…世界征服でもするつもりか?」


「まあ、そんなとこだな。今のこの腐った世界を、俺が変えてやるよ」


「腐ってるのはお前だろ……………」


「とにかく、さっきのパンチは挨拶代わりだ。詳細はまた追って連絡する。楽しみにしてるぜ」


そう言うと、その男は俺の目の前から消えた。テレポートか。


「はあ……はあ……」


ようやく痛みが引いてきた。

くそっ!制服がボロになっちゃったじゃねえか…。


俺はとりあえず、登校を再開する事にした。

さっきまでのウキウキ気分返せ………。



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